第7話 大斧の男
階段を下り続けた総次は、遂に地下二階に辿り着いた。そこは地下一階に似た豆球が生み出す薄暗さと埃を被った五十メートル程の長さの廊下が広がり、奥の部屋に続いている。
「ここか……」
総次はつぶやきながら奥へ進んでいた。進みながらも罠を警戒している様子の総次だが、仕掛けられている様子は全く無かった。
(ここへきて罠を張っている気配がないなんて……)
そう思いつつ、埃の廊下を通り抜けた総次は、奥の部屋に入っていた。そこは先程までの埃っぽさは全くなく、塵一つ落ちていない非常に綺麗な空間で、天井は十メートル程の高さで、半径にして約二百五十メートル程の円形の部屋だった。槍や鉈と言った武器が壁に飾られている所から、訓練場を思わせる空間だった。しかしその奥に、大柄な人影がうっすらと見えてきていた。
「あれは……」
総次が恐る恐るその人影に近づくと、その影は部屋の奥にある扉の前に座っているのが分かった。
「やれやれ、着任二日目でこれかよ……だが……」
低くドスの利いた声に、筋骨隆々の肉体の大男・着任したての山根義明だった。
(なんて巨体だ。こんな男までMASTERは抱えているのか……)
総次が近づいてきたと見るや否や、右手に持ったハルバードを両手持ちに変えて構え、総次目掛けて突進してきた。
「少しは楽しませてくれんだよなぁ‼」
雄叫びと共に振り下ろされたハルバードが総次に襲い掛かる。
「だったら……‼」
後方へ素早く下がりながら、総次は刀に鋼の闘気を流し込んで硬質化し、男のハルバードをガードする。
「くっ!……」
しかし山根は総次のガードを全く気にすることなく、ハルバードを押し込んで総次を後ろに追いやった。
(なんて腕力だ……)
驚きを隠せない総次。だが総次の驚きはそれだけでは終わらなかった。
「これでどうだぁ‼」
山根はハルバードにおびただしい量の炎の闘気を纏わせるが、それはただの炎の闘気ではなかった。より強い熱気を放つ、蒼い炎だった。
(蒼炎だと?)
蒼炎とは炎の闘気の亜種である。七種の闘気の内、こういった亜種は現時点では炎のみである。それは炎の闘気が通常よりも高温となり、蒼い炎を放つ。
危険を感じた総次は即座に刀に纏う闘気を風に切り替え、腰を深く落として神速の連続突きを繰り出した。
(尖狼‼)
刀に纏わせた闘気から生み出された三十三の風の槍を一斉に男に畳み掛ける。
だが尖狼から放たれた風の闘気を、男は全てハルバードの一振りで打ち消した上に、そのまま総次に突進してきた。
「その程度じゃあなぁ‼」
男は更に勢いを増して総次に肉薄し、ハルバードを総次目掛けて振り下ろそうとした。それを総次は寸での所で躱し、逆に男の後ろを取っての右薙ぎを繰り出した。
「後ろを取ったから何だぁ‼」
男は叫びながら振り返って総次の斬撃を炎のハルバードでいなし、そのまま総次に空いた左拳で鳩尾に拳打を食らわせた。
「ぐっ‼」
拳打を受けた総次は、そのまま一気に壁まで吹き飛ばされた。
(動きや腕力に加え、反応速度も並外れている……‼)
山根の身体能力と反射神経に舌を巻きながらも、今度は光の闘気に切り替えて突きを繰り出す。
(尖狼‼)
総次の放った尖狼から繰り出されし三十三の光線が、山根に襲い掛かる。
「温いなぁ‼」
それを蒼炎のハルバードで全て薙ぎ払う山根。衝撃で辺りに猛烈な爆風が吹きすさび、無数の土煙が待った。
(飢狼‼)
土煙の中、神速で山根の懐に飛び込む総次。彼の腰の下まで体勢を落とし、男の喉笛目掛けて闇の闘気を纏わせて餓狼を繰り出す。
「甘ぇよ‼」
その一撃を、山根は首を右に傾けてかわし、総次に総次の腹に右足で蹴撃を食らわせる。
「がはっ……‼」
総次は斜め上に蹴り上げられたが、崩れた姿勢から男目掛けて炎の闘気を螺旋状に纏わせた刀で突きを繰り出した。
(ただぶつけても駄目なら……)(飢狼‼)
炎の闘気を螺旋回転させて飛ばす総次。だが山根はそれに反応し、ハルバードをバトンの如く振り回して風を生み出し、跡形も無く打ち消した。
(何をしても、あの人は力技で全て潰している……)
攻撃が悉く弾かれてダメージを受け続け、総次の表情は焦りを帯びていく。一方、山根は余裕綽々な表情で総次を見下ろした。
「動きはバッタのようにすばしつこいが、まだまだ俺を潰すに至ってもいねぇ。これで俺に挑もうとは笑わせる……」
「何……?」
「力じゃ俺には勝てねぇよ。おまけに速くても単調で面白みがない。慣れれば呆気ねぇ……こんなつまらん奴と戦っても、ちっとも満たされねぇ……」
山根の蔑みを聞き、総次は立ち上がって夥しい量の雷の闘気を刀に纏わせる。
「はぁ‼」(天狼‼)
余裕な表情で解説していた男の頭上に飛び上がり、放たれる天狼。
「さっき言ったことを忘れてんじゃねぇよ‼」
それも山根は余裕な表情のままハルバードの柄で防ぐ。そして再び凄まじい爆風が部屋全体に吹き荒れる。総次は爆風の衝撃を利用してバック宙して山根と間合いを取る。その頬には疲れからか、それともいまだに攻撃が通らないが故の焦りからか、多量の汗が伝っている。
(一発で駄目なら……‼)
総次は風の闘気に切り替えて男に迫る。
(これでどうだ……‼)
ハルバードを構えて受けの姿勢を取る山根に、総次は高速の連続斬撃を繰り出す。
「力で勝てねぇって言ったばかりだろうが‼」
しかし男は炎のハルバードの柄で連撃を全て受け止め、連撃が終わった総次に蒼炎のハルバードを振り下ろす。
「ならば……‼」
振り下ろされる蒼炎のハルバード。総次は瞬間的に鋼の闘気を流し込んだ鞘で受け止め、剛腕から繰り出された勢いで山根の背後に回り込み、風の刀で袈裟斬りを繰り出す。
「下らねぇなぁ‼」
蒼炎のハルバードの柄頭で刃を受け止める山根。だが総次は再びその勢いを利用し、再び山根の背後に回り込みつつ、鋼の闘気を流し込んだ鞘で男の頭に一撃加える。
だが山根はそれもあっさりとかわし、更にハルバードで一刀両断せんとする。
総次はそのままバック宙で男から距離を取るが、これまでの疲労が祟ったのか、着地したその場所で膝をついてしまった。
「楽しいなぁ‼ だがまだまだその程度じゃあ‼」
男は全く勢いを殺すことなく、再び蒼炎のハルバードで総次に襲い掛かってきた。
その時……。
「獲物は一匹……遅れんじゃねぇぞ」
「腕が鳴るわ!」
「分かっています……」
「了解!」
総次が通ってきた廊下から、男女それぞれ二人、計四人が現れ、ハルバードの男に向かって飛びかかってきた。
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