第6話 潜入

「地図で指定された場所まであと少し……」


 総次は闘気バイクを路肩に止め、スマートフォンに転送されたMASTERの支部と思われる場所の確認をしていた。


「……ここか」


 確認が終わった総次は、スマートフォンを右腰に巻いたポシェットに仕舞って再びバイクのエンジンを掛け、支部へと向かった。 新宿通りと靖国通りの間。つまり仲通りを少し外れたところにあるトタン屋根の廃屋である。

 薫からの報告では、拠点はその廃屋の地下にあり、一階部分には監視カメラも設置されていないので、一階部分にいる限りでは必要以上に警戒心を抱く必要はないが、地下に行く際にはブービートラップの類が仕掛けられている可能性があるので注意が必要と説明していた。


 現地に到着した総次は、廃屋から少し離れた人目のつかない場所にバイクを駐車してヘルメットを脱ぎ、いつも被っている黒いキャップを被り、耳に無線を付けて廃屋に向かった。


(上原さんの報告通りなら、地下一階に行く際に注意が必要と言ってたけど……)


 総次はそうつぶやきながら、廃屋の扉を開いた。中は長年手入れされていない所為で埃を被っており、トタン屋根にも所々に穴が開いている。


(あれは……?)


 入ってすぐに廃屋の奥の方に目をやると、埃を被っていない、奮い立て建物には不釣り合いなほど真新しい絨毯が綺麗に畳まれていた。


(こんな廃屋にあんな綺麗な絨毯が……まさか……)


 総次がその絨毯を退かすと、なんと大人一人分が入れる大きさの扉が現れたのだ。


(絨毯が真新しいってことは、つい最近まで別の、恐らくこの廃屋に置いてあっても不自然ではないような古い絨毯か何かを置いてカモフラージュをしてたのかな)


 総次はそのままゆっくりと、なるべく音を立てないようにその扉を開いた。そこには下に続いている梯子があり、総次は息を殺して梯子を下りた。

 薫からは地下に降りた時にこれと言ったブービートラップが仕掛けられていない場合は、潜入工作ではないので直ぐに武器を抜いて攻撃に移るようにと言われていたので、総次は梯子を下りながら刀を抜いた。

 しばらく降りたところで後ろを振り向くと、正面に向かう廊下が見えてきた。総次は刀に風の闘気を纏わせた。そろそろ地面が見えてきていた。


(特に目立った罠はなさそうだけど、油断は禁物……)


 そのまま総次はゆっくりと梯子から手足を離した。改めて廊下を見ると、およそ二十メートル程の長さがあり、上の豆球で廊下は薄暗く、その突き当りには鉄製の扉が構えていた。


(このまま歩いていっても、罠にぶつかって危ないだけか。となるとやはり……)


 腰を深く落とし、風の闘気を纏わせた刀を地面に向かって水平に構え、神速を上乗せした強烈な突きと共に風の闘気によるかまいたちを形成する。


(威力が大きいかもしれないけど、念には念を入れて……)(飢狼‼)


 総次が餓狼で放ったかまいたちで鉄の扉は跡形もなく破壊され、中からMASTERの構成員がやや慌てた様子で出てきた。


「侵入者だ‼」

「迎え撃て‼」


 出てきた構成員の数はざっと二十人程で、それぞれ鉈やハンマーを手にしているが、動揺が大きく、まだ総次に目が言っていない様子だった。

 それを好機とし、総次は刀に闇の闘気を纏わせ、一気に間合いを詰めて構成員達の懐に飛び込び、一人一人の首の頸動脈を斬り裂いて絶命させた。

 そのまま扉の中に入ると、廃屋だった一階よりもかなり広く、目の前にはもう一つ大きな鉄の扉があった。


「上原さん、聞こえますか?」

『聞こえるわ。地下に入ったのね?』


 総次は無線を使い、情報管理室にいる薫に連絡を取った。


「はい、しかし、どうやらかなり広大な施設みたいです」

『なるほど……見た目に反してそれなりに広大な支部になっている可能性があるわね……引き続き罠に警戒しつつ、行動なさい』

「了解……」


 総次は無線を切り、そのまま刀に風の闘気を纏わせ、再び深く腰を落として刀を地面に水平に構え、超神速の三十三連突きを繰り出した。


「一網打尽に……」(尖狼‼)


 突きと共に放たれた三十三の風の槍が一気呵成に鉄の扉を突き破り、その奥にいた構成員達も一瞬で塵芥に変えた。

 そのまま総次は扉をくぐり、更に地下に続く階段を下っていった。


(まだ地下が続いてるなんて……予想以上に広いみたい……この基地……)


 基地の広大さに驚きつつ、総次はひたすらに階段を下り続けた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「どうなんだい薫。渋谷と新宿の二つの支部への同時奇襲の状況は?」


 本部の情報管理室で指揮を執っていた薫の補佐のために訪れた真は、彼女に作戦状況を尋ねた。


「現時点での報告では順調よ。ただ……」

「ただ?」

「渋谷の方は少し手強いらしいの。報告だと、闘気を使う構成員がいるみたいで、多少手こずってるらしいの」

「……渋谷の施設の存在が分かったのはこの一週間……その時はスパイの一人に闘気感知のできるメンバーに向かわせて、闘気の気配は無かったと言ってたよね?」

「ええ」

「なのに今日は闘気の使い手がいる……」

「まさか……こちらの奇襲の可能性を考慮して……それにしても対応が早いわね」

「この間の青梅の一件で、全国の施設の警備を徐々に強化した可能性があるね。恐らく施設の状況に合わせてそれ相応の人材を選んで……となると新宿も……」

「……」


 真の意見を聞いた薫は、情報管理室室長席にいる佐野という青年にこう提案した。

「佐野室長。新宿に向かっている彼らに、到着を速めるように指示を!」


「了解!」


 そう言って佐野は指示を出し始めた。


「やはり対策を取っていたようだね。万一のことを考えて一番隊にも出撃準備をさせた方がいいね」

「既に連絡したわ。こちらが危険と判断したら、即座に向かってもらうわ」


 薫は至極冷静な態度で真に言った。


「渋谷の方への増援はどうするつもりなんだい?」

「そちらも既に七番隊に伝えて、出撃準備を整えたわ」

「相変わらず手が早いね……ただこの状況で市街戦になったら、かなりの混乱は予想されるね」

「……出来れば避けたかったのだけど……致し方ないわ」


 薫は表情と声は冷静ながらも、拳を固めながら言った。

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