第4話 新たなる敵拠点

「やはり、最近大師討ちが発見した青梅のMASTERの拠点の警備は、物量と言う意味では手薄みたいね」


 情報管理室で全国各地の支部や公安からのMASTER関連の情報を確認に来ていた薫は、波野美月にそう尋ねた。


「ええ、公安から寄せられた報告書でも、ここ数カ月の青梅での彼らの防備は手薄になってると見えます」

「この機を逃す手はなし、と言うことね……」


 右手に持った情報管理室の報告書と美月の話を聞きながら薫はそうつぶやき、今度は眼鏡の女性隊員に尋ねてた。


「それ以外で、現時点でMASTER側に不審な動きは?」


「現時点では見当たりません。やはりMASTER側も、迂闊に襲撃を掛けにくいと考えているのでしょう」


 女性隊員は眼鏡の位置を左手中指で調節しつつ、パソコン画面を見ながら答えた。


「分かったわ、ありがとう。引き続き宜しく頼むわね」


 薫はそう言って情報管理室を出た。すると出て直ぐに、両手でダンボール箱を重そうに持っていた佐助と鉢合わせした。


「お帰りなさい、佐助」

「薫……助六を呼んでくれないか……」


 佐助は汗だくになり、息も絶え絶えの様子で薫に助けを求めた。


「そんなに重いの?」

「ああ、オチビちゃんが南ヶ丘学園の寮から持ってきた本、死ぬほど重くて……」

「沖田君の本好き……麗華から聞いていたけど、まさかここまでとは……」


 薫は額に手を当てて呆れたような声で言った。


「それで、沖田君は?」

「もうすぐ夏美ちゃんと一緒に戻ってくると思うぜ。オチビちゃんの運転するバイクでな」

「沖田君、免許持ってたのね」

「ああ、高校時代に南ヶ丘学園で取ったとか」


 すると何か思う所があったのか、薫はこんな確認を佐助にした。


「……まさかと思うけど、荷物は全部あなたが……」

「俺も文句言いてえけどさ、あいつがバイクを持ってこなけりゃならねえってなると必然的に荷物持ちは俺になるんだよ……しかもこれがあと二つもあるんだぜ? マジで気が遠くなる……」

「大変ね……」


 余程ダンボール箱が重いのか、佐助の声が徐々に弱弱しいものになっていった。薫はそんな佐助が気の毒だと思ったのか、それ以上は言わず、スカートの右ポケットに入っていたスマホを取り出した。


「今助六にメールを送るから、もう少し辛抱して」

「恩に着るぜ……でも、できればなるべく早くしてくれ……」


 薫の言葉に一瞬安心した様子を見せた。だがその表情はダンボールの重さに腕と心が限界に達する寸前で余裕がなくなり助けを急かす佐助だった。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「じゃあ副長は、青梅にあるMASTERの拠点に攻撃を仕掛けようって考えてるんスね?」

「ええ、二十三区から離れたところにあるって言っても、そこに他の県からの増援が集中して、また永田町や霞が関の襲撃みたいなことでもされたら堪ったものじゃないでしょう?」


 午後十二時三十分。食堂の一角で話をしていたのは修一と紀子だった。保志の作ったチャーハンを口にしながら、今後の新戦組の活動について話し合っているのだ。


「そうなると、やっぱり奇襲部隊を編成する必要が出てくるっスね……今まで後手に回ることが比較的多かった分、こっちから攻める絶好のチャンスになれば……」

「でも、油断は禁物よ。相手だって、いつ自分たちの拠点の所在地を特定されてしまうか警戒してる可能性もあるわ」


 修一の言葉に対して用心深さを指摘したのは紀子だった。


「だからこそ、副長や情報管理室の人達が策を練ってるんですし、俺らが心配する必要もないと思うんスけど……」

「でも現場で戦う私達も、それなりの警戒心を持つ必要は十分にあるわ」

「そうッスね……」


 修一は納得した様子でチャーハンを一口ぱくりと食す。

 すると医務課での仕事を終えた未菜が修一に会うために入ってきた。


「修。総次君達が帰ってきたみたいだよ」

「総次達が? そういや今朝から姿見なかったけど……何処行ってたんだ?」

「何か、高校の寮にあった荷物を先生が運んできたみたいで、鳴沢さんも一緒に行ったらしいの」

「へえ。ってことは佐助の兄貴も一緒に帰ってきたのか?」

「ううん。佐助先輩が先に帰ってきたみたいなの」

「佐助の兄貴が?」


 修一は引っ掛かりを覚えたのか、こんな声を出した。


「何でも総次君、バイクの免許を持ってるみたいで、荷物と一緒に送られてきたバイクに乗って、夏美さんと一緒に帰ってきたみたいなの。荷物を佐助先輩に任せて」

「じゃあ佐助の兄貴は半ばパシリみたいなことをさせられたのか?」

「うん……」

「……」


 修一は佐助が貧乏くじを引いたことを気の毒に思ったのか、無言で頭を抱えた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「一番隊組長、沖田総次。只今帰還しました」

「同じく九番隊組長、花咲夏美、帰還しました!」


 帰還して直ぐに局長室に戻った二人は、敬礼しながら麗華にこう言った。


「お帰りなさい。総次君の荷物は、全部佐助と助六があなたの部屋に運んでくれたわ。後でちゃんとお礼を言いなさいね」

「かしこまりました」


 麗華の隣に侍していた薫の言葉に、総次は姿勢を正して返事をした。すると局長室のドアが開き、冬美と真が入ってきた。


「二番隊組長、椎名真。只今到着」

「十番隊組長、花咲冬美。同じく到着しました」


 入って直ぐに二人は敬礼した。


「来たわね……沖田君、夏美ちゃん。あなた達にも関係する話だから、急だけど、引き続き聞いてもらうわ」

「はい!」

「了解ですっ!」


 総次と夏美ははきはきと答えた。


「一週間前、新戦組が各地に放ったスパイや警察の報告書から、MASTERの拠点の一つの所在が掴めたわ」

「その場所ってのは、何処なのかな?」


 真は一歩前に出て尋ね、薫は表情を一切崩さずにこう答えた。


「青梅市の御岳山の麓よ。そこにMASTERの中規模拠点があることが分かったわ」

「なるほど。先手を取って仕掛けるってことは、奇襲部隊も編制済みってことかな?」

「ええ、その奇襲部隊の指揮を、真。あなたに執ってもらうわ」

「分かった。それで冬実達は?」


 そう言いながら真は麗華の方をちらっと見た。


「冬美ちゃんと総次君と夏美ちゃんには、あなたの補佐をしてもらうわ。奇襲部隊は大師討ちの方で既に編成されてるから、明日朝一で現場に急行して、彼らと協力してもらうわ。拠点の詳細な所在地はあなた達のスマートフォンにデータを送っておいたから、後で確認してもらうわ」

「「「了解しました!」」」


 麗華の言葉に、真以外の三人はそう返事した。


「出発は明日の午前九時よ。くれぐれも遅れないように」

「「「「了解‼」」」」


 真達四人はそう言って敬礼し、局長室を出た。


「何か、帰って来て早々に大きな仕事任されちゃったね……」


 夏美は、一緒に食堂に向かっていた総次にそうこぼした。


「僕にとって初めての拠点制圧任務ですし、結構緊張してしまいます……」


 総次は自信無さげにつぶやいた。


「でも成功したら、少しはMASTERに対して優位に立てるかもしれないって考えると、結構大事な任務になると思うわ」

「でしょうね。ですが……」

「どうしたの? 総ちゃん」


「MASTERの推定構成員数って、確か全国で四万人以上でしたよね? 資料では、地方支部の方ではかなり戦果を挙げているみたいですが、だからといってそれだけ大規模な組織の、都内での一拠点を制圧した所で、戦況が劇的に変わるとも思えないと言いますか……」

「でも、本部の制圧力を見せつけるって意味じゃ、結構大事だと思うよ? いつまでもやられっぱなしじゃないってとこ、見せつけてやろうよ!」


 夏美ははつらつとした口調でそう言った。


「物事悲観してばかりでは始まらないってことですか?」

「そういうことっ! さあさっ! 早くお昼食べよっ!」


 夏美はそう言いながら総次の後ろに回って背中を押した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る