第3話 赤狼司令官・幸村翼

「大師様も随分と慎重なことだ。まあ、いつもデカい襲撃の後はこうやって大人しくしてるのが常だが、この隙に警察や新選組モドキが俺らを瓦解させようと動いてるだろうに……」


 MASTER本部・赤狼直轄の組織であるサイバー戦略室を訪れていた御影は、共に訪ねていた赤狼司令官、幸村翼ゆきむらつばさにそう話しかけた。


「だが、こちらもその隙をついて国民を蔑ろにして私腹を肥やす無能な政治家や権力者を晒し者にできる……それが赤狼の主任務だからな」


 翼は仮面越しに正面の大画面モニターに表示されている無数の官僚や政治家、各界の権力者達の情報を見ていた。


「その方が、無益で無慈悲な虐殺よりも数段やりがいがある、だろ?」

「否定はしない。だが、各都道府県の地検や警察が今よりしっかりしてれば、こんなことをしなくてもいいはずなんだが……」

「それも、ここ十年の政治家や権力者の汚職や不祥事が溜まりながら、まともな捜査をしなかったからだ。だから俺らがやらなけりゃならない」

「やりがいがあっても、後に残るは虚しさだけだな」

「複雑だな……」


 御影は声を小さくさせながら言った。


「にしても、ここ一ヶ月以上、政治家は与野党問わず、俺らMASTERの存在が政府によって公表されてから随分と情報管理を徹底してるな。罠を張る隙がない……」


 翼はため息交じりに言った。


「警戒心が強くなったんだろう。官僚や政治家の大半は保身となると基本的に抜かりがない。今までは何とか隙を付いてこちらから仕掛けられたが、あの永田町と霞が関襲撃以降はそれも厳しいときた」


 御影は翼に近づきながら彼の言葉を繋ぐように言った。


「そういう意味じゃ公表してバッシングを盛大に受けた警察や政府連中と、身動きが多少取りづらくなった俺達『赤狼』は痛み分けってとこか……」


 翼は両腕を組んで俯きながらつぶやいた。


「それに、これまで制圧した拠点の中に、以前椎名グループや鳳城院グループが保有していた土地が使われていることが分かっている。それは即ち、あの新選組モドキには、両グループが関わってると見て間違いない」

「連中の財力は俺達以上だ。組織力でも相手は上。じり貧になればこっちが不利だ。現状じゃあ俺達が有利だが、あと二、三年も戦い続けたら厳しいぞ」

「そうなる前に、決着を付けないとな」


 翼と御影は決意を新たにした。すると翼のスマホがバイブ音を鳴らし始めた。


「幸村です」

『加山だ。至急御影君と共に私の部屋に来てくれ』

「分かりました」


 そう言って翼は通話を切った。


「何だって?」

「すぐに加山様のとこへ来てくれ、だとよ」

「了解っと」


二人は互いに顔を見合って直ぐに情報戦略室を後にして急行した。


「にしても一体どういうことだ? 加山様直々の呼び出しって」


 御影は大師秘書室に向かいながら、翼に疑問を投げかける。


「行けば分かるだろ。まあ、俺も少し不思議だと思うが……」

「だろ? 今まで大きな任務を命じるときは直接大師室なり大師秘書室に来いって言ってたのにな……」


 そんな事を話しているうちに、二人は大師秘書室の前にたどり着いていた。翼は秘書室のドアノブを回して中に入った。


「赤狼司令官の幸村翼、並びに神藤御影しんどうみかげ。到着致しました」


 翼はそう言って机に座っている大師秘書の中年男性・加山に向かって敬礼し、御影もそれに倣って敬礼した。


「急に呼び出して申し訳ないね」

「いえ、それよりも大師様からの緊急の呼び出しとは……」


 御影は翼と共に敬礼を解きながら尋ねた。


「うむ。直接大師様が申しあげるところではあるが、最近の大師様の体調が芳しくないのも君達の知るところだ。なので代理人として私から、君達に頼まれてもらいたいことがある」

「頼み……ですか?」


 翼は加山に一歩近づきながら尋ねた。


「青梅支部の件は知ってるかな?」

「ええ。確か、支部長が退去を拒んでる支部ですよね?」


 滞りなく答えた御影に加山は静かに頷き、更に話を続けた。


「実は昨日、警察や新選組モドキが青梅支部の居場所をキャッチしたらしいという報告が入った。既に重要度は低くなっている以上、あの支部にこれ以上拘泥する必要はない。だが今の支部長は御影君の言った通り、随分と頑固な男でな」

「あの支部は確か、独立して動くことが出来る支部の一つでしたね。それこそ権限は加山さんに匹敵すると聞きます。でも、なぜ我々に?」


 御影は首に左右にコキッと音を立てて回し、思い出しながら答える。


「本隊の人手が足りんでな、第一、第二師団もまだ全国に散っている。それに君達の序列も我々と同等、その上特務部隊として実績のある君達なら、説得できると思っている」

「つまり、消去法ってことですね」


 翼はやや捻くれ気味に答えた。


「そう言わないでくれ。もし聞かなかったとしても、その時は君達の責任ではなく、こちらの指示を聞かなかった彼らの責任となる」


 そんな翼の態度を見た加山は苦笑いしながらも説明を続ける。


「施設に蓄積されている情報は、どうなっています?」


 次に質問を投げかけたのは御影だった。


「それも全く手を付けてない状態らしい。だからこそ困っているのだ。他の独立支部に関しては、独立権限を返上し、データを送信して支部自体を完全破壊したのだがなぁ……」

「竹中支部長らしいですね」

「引き受けてくれるかな?」


 加山は席を立ってそう言った。


「分かりました。引き受けましょう」

「ありがとう。では二時間後に出発できるように、ヘリを出そう」

「了解! 御影はそれでいいか?」

「文句ない。俺もお前達の後方支援の準備に入るとするか」


 そう言って二人は加山に一礼して部屋を後にした。


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 大師秘書室を後にしてしばらく廊下を歩いていると、正面に赤い文字で『赤狼』と書かれた大きな鉄の扉に突き当たった。御影はその扉の右側にある赤いボタンを押して扉を開いた。

すると中から身体のラインが出る程ピッチリしたライダースーツを着た女性が翼達を迎え入れた。


「お疲れ様、翼に御影」

「八坂こそ、俺らがいない間に隊員の訓練を見てくれて感謝する」

「いつものことじゃないか~♡」


 ライダースーツの女こと、五十嵐八坂いがらしやさかは腰まで届く程の長いウェーブのかかった茶髪を右手でかき分けながら言った。


「悪いな八坂。ちょっと仕事が入ってな……」

「仕事? どんな仕事だ?」


 八坂は申し訳なさそうに話す翼を見下ろしながら、隣にいた御影に尋ねた。


「警察やあの新選組モドキが青梅支部の場所を突き止めたらしい。警備強化の為に、俺達に向かってほしいとのことだ」

「例の意固地な支部長がいる場所だからな。俺と翼だけじゃどうも力不足っぽいんだ。そこで今いるお前達に同行を願えればと思ってる。お前なら特にこういう時の威圧感はすごいし」

「褒められてないのは不本意だが、まあ分かった。尊ももうすぐ訓練を終えて此処に来ると思うから、少し待ってて……」

「いや、待つ必要はない……」


 突然八坂の言葉を遮った翼は、先程自分達が入ってきた鉄の扉に視線を移した。その瞬間扉が開き、スーツを着た背の高い青年が入ってきた。


「おやおや。また気づかれちまったか」


 スーツの青年こと不知火尊しらぬいたけるはそう言いながらおどける。


「お前の闘気は感知しやすい。いつも言ってるだろ?」

「そうだったな。お前の闘気感知の正確さは折り紙付きだったよな。感知範囲が半径五メートルと異様に狭いという弱点付きだけど」


 尊はそう言って翼の頭を軽くポンと叩いた。


「言われなくとも分かってる。それより尊。八坂と一緒に訓練を見てくれてありがとう」

「いいってことよ御影。俺も暇だったしな……」


 そう言いながら身に着けている紫色のネクタイを緩める。


「尊。先程大師様の秘書から、警察に発見された青梅支部の警備強化のために俺らに向かってほしいとの名が下った。二時間後には出発できるように準備してくれ」

「オーライ。にしても、奴らも暇なんだな。あの支部はもう使い道がなくなり始めてるってのに」

「一ヶ月半前から、警察も新選組モドキも今まで以上に攻勢に出ている。出来る限り潰したいんだろうな。例え使い道がない支部であったとしてもだ」


 やや吞気そうに話す尊に、御影は事務的な説明をした。すると御影が部屋の奥に置いてある引き出しから三つの無線を取り出して翼達に渡した。


「これからのやり取りはこれを介して行う」

「俺らが留守の間の赤狼を頼んだぜ、御影」


 翼は無線を受け取りながら言った。


「出発準備が終わり次第、本部のヘリで向かう。遅れるなよ!」

「あいよ」

「勿論だとも、翼」


 尊と八坂の返事を聞いた翼は、彼らを連れて準備の為に部屋を後にするのだった。

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