第16話 黒狼の眼覚め……‼

「修一‼ このままだと首相公邸に敵が流れちまう‼」

「分かってるっ‼ こっちももっと攻めるぞ‼」


 霞が関一丁目で戦っていた修一達は、押し寄せる構成員達の波の中で抗い続けていた。そこで修一は、両手のカットラスに先程までとは比較にならない量の風と雷の闘気を纏わせた。


「叩き潰すぜぇ」(驚天動地‼)


 修一は構成員達の群れの上に飛びあがり、高速の戦闘術「疾風迅雷」の進化版たる奥義を発動した。風と雷の闘気を最大出力でカットラスに纏わせて振り下ろし、ドガァァンという巨大な轟音と共に道路を粉々に破壊しながら周囲の構成員達を仕留めてた。

 

「ちくしょう……‼ まだ残ってんのかよ……‼」

「修一、警察の増援が到着したという連絡が入ったぞ‼」


 そんな修一に近づいた八番隊の隊員から聞いた報告に、修一の表情に生気が戻った。


「よし、おめえらっ‼ ここが踏ん張りどころだ‼」

「「「「「オオオオオッ‼」」」」」


 報告を聞いて生気の戻った修一の叫び声を聞いた隊員達も、魂からの雄たけびを上げて迫りくる構成員達に向かって怒涛の攻勢に出た。その勢いは先程までとは比較にならないもので、構成員達を大いに畏怖させた。


「や……奴ら、さっきと違うぞ」

「これ以上ここに留まる必要はない‼ 首相公邸に全勢力を向かわせるぞっ‼」


 構成員の一人のその言葉を聞いた他の構成員達はここでの戦闘を放棄して物量にもの言わせて一気に首相公邸に向かって突撃を掛けた。


「八番隊、一人も行かせんじゃねぇぞっ‼」

「「「「「分かってらぁ‼」」」」」


 そんな修一率いる八番隊が猛攻を繰り広げてると、近くから聞き覚えのある、清らかで凛と透き通った声が聞こえてきた。


「修一君‼」(白鳳斬‼)


 局長・鳳城院麗華は刀身が全く見えなくなる程の風の闘気を纏わせた太刀による唐竹割りを繰り出した。その瞬間闘気は解放され、前方の構成員達を一瞬にして消滅させた。


「局長……」

「間に合ったようね」

「ありがとうございますっ!」


 麗華の後ろには、増援の警察官達が多数駆けつけていた。


「ここは私達に任せて! あなたは首相公邸に向かって!」

「公邸に……どういうことっスか?」


 修一がそう言うと突如無線から薫の声が聞こえてきた。


『全隊員に報告、現在MASTERの大部分の戦力が首相公邸に進行中! 直ちに援護に向かうように!』


 その言葉を聞いた修一は仰天する素振りを見せた。


「本当だったんスね……」

「既に全ての部隊がそこに向かってるわ。しかもあそこは、総次君達一番隊だけで……」

「マジっすか⁉ じゃあ急がねぇとなぁ‼」

「「「「「オウ‼」」」」」


 そう言って修一は八番隊を率いて、一番隊のいる公邸前に急行した。


⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶



「はぁ……はぁ……はぁ……」


 総次は肩で呼吸しながらも尚、一番隊の隊員達と共に手にした刀を構えて構成員達と対峙していた。彼らの周りには数え切れない程のMASTERの構成員達の死骸が転がっている。総次は総次で肉体的な疲労は蓄積されているが、その目つきは全く衰えることなく、「獲物を捉えた狼」のような極めて鋭い眼光を放っていた。


 そんな様子の総次に、構成員達は総次の戦闘能力も相まって戦意喪失寸前の様子だった。逃げ出す気力すら、なくなっているようだった。


「まだ……まだ来るなら……‼」

「お前、無茶し過ぎだ」

「くっ……‼」


 総次は隊員の一人に獣のような形相で振り向く。その目つきに隊員は一瞬だが身体が震えた。その直後、向かってくる構成員達に向かって最後の力を振り絞って突撃を掛けた。


「き……来ましたっ‼ 総員構えてくださいっ‼」

「「「「「「我らが大師様の……」」」」」


 構成員達が構えるか否かの瞬間だった。総次が手にしていた刀の刀身に、これまでにない程に高密度の風の闘気が集約される。


「これで……‼」


 更に総次は小太刀まで取り出し、そこに同じ量の風の闘気を纏わせる。


「終わりだぁぁぁぁあ‼」(双飢狼‼)


 前方に放った超高速の二筋の暴風が解放され、総次の目の前に立つ全ての人間を食らい尽さんとアスファルトを抉りながら猛スピードで迫りくる。


「なっ……‼」

「そ、総員撤た……」


 撤退を促す構成員の声もむなしく、構成員達は巨大な風の闘気に一飲みにされた。ドゴォォォォォン‼ という鼓膜を破らんとする程の爆音と、周囲一帯を包み込む程のかまいたちは、構成員達を瞬く間に斬り刻んでしまった。


「はぁ……はぁ……」


 強烈な一撃により、千人以上に及ぶであろう構成員達を消し飛ばした総次。


「おいっ、何だ今の音はっ‼」


 すると通りの奥から聞きなれない男達の声が木霊する。MASTERの増援であることが、疲労している総次にもすぐに分かった。

 そう思ったのもつかの間、男達は武器を構えて道路に集結する。だが男達の眼前に広がっていたのは、信じがたい光景だった。


「な、何だよこれは……」


 扇状に抉られたアスファルトに溜まる血液に無数の死体。返り血で隊服を赤黒く染め、小太刀と刀を手にして肩で息をする少年。それは彼らに、多くの構成員が子供一人に全滅させられたことを物語っていた。


「ま、まさか……あのガキが?」

「う、嘘だろ?」

「うそ、じゃ、ねぇ……」


 驚愕する構成員達の前に、傷だらけの構成員が命からがら彼らの元へ地を這って近づく。


「あいつに、同志達が……」


 その言葉を最後に、構成員は息絶えた。


「あ、ああ……」


 構成員の最後の言葉が、四百人余りの構成員達の動揺を誘い、一瞬で彼らの戦意を奪った。


「ば、化け物だぁー‼」

「逃げろー‼」


 構成員達の叫びを聞くや否や、全員が恐怖に慄きながらその場を駆け足で逃げていった。


「はぁ、はぁ、はぁ、あっ……」


 その様子を見て、総次は身体から力が抜ける感覚に襲われ、両手の刀と小太刀が手から滑り落ち、その場にうつ伏せにどっ、と倒れた。


「僕は、生きて、いる、んだ……」


 そうつぶやき、総次は静かに瞳を閉じた。


「沖田っ‼」

「しっかりしろっ‼」


 それを見た隊員達は一斉に総次に駆け付けた。


「「総次君っ‼」」


 その状況で組長達の中で最初に総次の下に駆けつけたのは夏美と麗華だった。


「総次君の様子は‼」

「大丈夫です! 力の使い過ぎで気を失ってるだけです……」

「そうですか……良かった……」


 夏美は総次を胸に抱き、麗華は隊員の話を聞いてそう言った。一方で佐助と修一と助六は、総次の前方の道路に広がる光景に絶句した。道路は爆発と爆風によって抉れ、所々炎が残っている。その手前には無数の構成員達の死骸が転がっている。


「……これって……」

「……一番隊だけでここまでやったんスかね……?」

「このようなことを起こすとは……」


 佐助と修一と助六は、地割れが起きている付近まで近づいてそうつぶやいた。すると一番隊の隊員の一人が、三人にそっと近づいてこう囁いた。


「こいつらのほとんどは、あいつが……」


 そう言いながら隊員は総次の方を振り向いた。


「おいおい……マジかよ……」


 総次の方を見た修一は現実離れした事実に戸惑いを見せながらそうつぶやいた。


「これが総次殿の実力……」

「まさかここまでとはなぁ……」


 助六も佐助も、修一と同じように唖然としていた。


 そんな二人の会話をよそに、同じ場所に立っていた紀子と鋭子はこの光景を比較的冷静に見ていた。


「……薫ちゃんが知ったら、どう思うかしら……」

「いずれにしても、私達はあの子の力を、甘く見ていたようですね……」


 二人はそう言いながら夏美に抱きかかえられている総次のいる方を振り向いた。


「確かに、予想を遥かに上回る力を有してるのは確かだね……」


 真は総次の下へ向かいながらそう言った。すると冬美が真に怯えながら近づいた。


「真さん……」

「君も感じるんだね。総次君の闘気を……」

「……はい。とても猛々しい感じがして、怖いです……」

「新戦組随一の闘気感知能力を持つ君が恐怖を感じるか。でも、コントロールという意味では超一流ではない。現に体力を消耗してこの様子だ。無理したのは事実だろう」


 そう語る真の右手は微かに震えていた。冬美はそんな真の右手を自分の両掌で包み込みながらこう言った。


「……私達、とんでもないことをこの子にさせちゃったんですね……」


 その言葉を聞いた真は無言のまま俯いた。すると彼らが耳に着けていた無線に、情報管理室隊員からの通信が入った。


『本部の全隊員に通告です。MASTERが撤退を始めた模様。上原警備局長より、追撃と逮捕は大師討ちが、市民を含めた負傷者の手当てと並行して行うとの指示が出ました。新戦組本部の全隊員は本部に帰還してください』

「分かったわ……本部の各組長達はバスを呼んで、負傷者も本部に帰還するわよ!」

「「「「「了解‼」」」」」


 麗華の命令に、真達組長は声を張ってそう答えた。すると遠くからテレビ局の中継車が次々と道路に押し寄せてきた。


「真、あれって……」

「報道各社の車だね。いずれにしても、これから先、戦いは厳しくなるよ……」


 佐助と真は道路の左右から押し寄せる報道各社の車を見つめるのだった。



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