第15話 一番隊と、麗華と、総次と

 永田町二丁目、総理大臣公邸付近に到着した総次と麗華の視界に最初に入ったのは、公邸へ襲い掛かっていたであろうMASTERの構成員達と、それを迎撃していた機動隊の隊員達の屍だった。

 官邸から六百メートル程離れた道路に停車したバスから降りた総次は、その光景に美ノ宮大学を思い出した。


「あの時と一緒だ……」


 総次は立ち尽くして彼らの屍に目を向けた。そうこうしていると、総次が降りたバスから麗華と一番隊の隊員達が続々と降りてきた。


「ここはある程度襲撃は収まっていると思うけど、油断はできないわよ」

「そうですね……はっ⁉」

「総次君?」

「……敵が、来ます」


 総次がそうつぶやいた直後、彼らの向かい側から夥しい数のMASTER構成員達が襲い掛かってきた。


「よく分かったわね」

「音と、気配で、分かりました」


 震える声で麗華にそう答えながら、総次は腰に佩いていた鞘から刀を抜いて構えた。それに続いて麗華は太刀を、一番隊の隊員達は刀を抜いた。だがその瞬間、再び総次の身体がビクリと震える。


(また身体が……‼)


 美ノ宮大学でMASTERに襲われた時のビジョンが脳裏に蘇り、再び恐怖心に襲われる総次。


(……本気で人を殺そうとする感じ。大学の時の、あの人達のように……)


 総次は迫りくる無数の殺気に恐怖を感じ、足元がすくんだ。だがいつまでもそうしていて状況が変わることはない。


(……そうだ、逃げないと決めたんだろ? 沖田総次……‼)


 この状況をある程度覚悟していたからこそ、ここで行動しなくていつ行動するのか、そう思えばいつまでも怯えている訳にもいかない。そう決心した総次の眼は、美ノ宮大学の時と同じように、獲物を捕らえた獣のような、極めて鋭く獰猛なものに変わった。


(僕は戦うって、そう決めたんだ……‼)


 その瞬間、総次は決意の表情で腰に佩いている鞘から刀を抜き、闇の闘気を刀身に纏わす。


「……一番隊っ、突撃っ‼」


 そう叫びながら、総次は単身で迫りくるMASTERの大軍勢目掛けて凄まじい勢いで突入。それと同時に、その大軍勢からおびただしい血飛沫が四方八方に飛び散り始めた。


「うわっ‼」

「ぐえぇ‼」

「がはっ‼」


 麗華と一番隊の隊員達は我が目を疑った。単身突撃した総次が、手にした刀を振るう度、目にも止まらぬ勢いで構成員達を斬撃と闇の闘気の効果で敵に痛みを感じさせることなく昇天させた。


一分足らずでそれだけのことをしてしまう総次の「覚悟」に恐怖を覚えたのか、一部の隊員は目を見開いて驚いていた。


「……はっ! 一番隊、総次君に続いて突撃‼」

「「「「「りょ……了解‼」」」」」


 一瞬動揺した麗華が気を取り直して発した号令に、一番隊の隊員達は手にした刀を振るって敵陣に一気に突撃した。その間に総次は、無数の構成員の中で闇の闘気を纏わせた刀を振る、二十、四十、八十と、その機動力と体さばきを太刀筋に上乗せして次々と構成員達の息の根を止めていった。


「な……何なんだよ、こいつ……」

「ば、バケモンだ……‼」


 姿も見えず、一切の情け容赦なく次々と絶命させていく総次に、構成員達も大いに恐怖していた。それに続いて一番隊の隊員達と麗華も敵陣に切り込み、無数の構成員達と交戦に入っていた。


「麗華さん、この様子だとMASTERの戦力の大半は、ここを目指していると考えてもおかしくないかと……‼」


 隊員の一人が刀を振るいながら麗華に近づく。


「最終目標は首相の首ね。大師討ちが首相を護衛をしてるけど、油断は禁物よ」


 麗華は手にした長刀を振るって構成員たちと武器を交えながらそう語った。不意に総次が気になったのか、麗華は総次がいると思われる方向に目をやった。

 すると総次らしき影が引き続き構成員たちを斬り伏せていた。彼の足元には既に構成員達の屍が無数に転がっていた。


「あの子……」


 とても初陣とは思えない程の動きで次々と構成員の命の灯を消していく総次の姿に麗華は恐怖を抱いたようで、太刀を握る右手が微かに震えていた。すると無線から修一の声が聞こえてきた。


『誰か来てくれ‼ こっちがもう持たないみたいだ‼』

「修一君‼ 戦況はどうなの⁉」


 麗華は焦燥している修一に対して尋ねた。


『MASTERの連中の戦力が集中していて、前線はもう崩壊寸前なんス‼ このまま突破されると別ん所に被害が出るので……とにかくヤバいっス‼ 誰でもいいから来てくださいっス‼』

「……分かったわ!」


 その言葉を聞いた一部の隊員隊は驚いた。


「そんなっ‼ 局長がいなくなったら……」

「言ったでしょ? 今日の一番隊の指揮権は総次君に一任したって、あなた達を信じてここを任せるわ!」

「でも……」


 半数程の隊員は納得がいかない様子だった、しかしそんな彼らに対して麗華はこう言った。


「大丈夫、あなた達ならできるわ! あの子のことをお願いね‼」


 そう言って麗華は修一のいる場所に向かって転身した。


「沖田っ‼」


 すると隊員の一人が総次に大声で声を掛ける。だが眼前の敵を無我夢中で斬りまくり、肩で息をしていた総次にその声は届いていないようだった。


「くそっ‼」


 そんな様子の総次を見かねた別の隊員が、舌打ちしながら総次に駆け付ける。


「おいっ‼」


 隊員が総次の肩を掴んで自分の方に向けると、総次はその隊員に、血に飢えた狼のような鋭い視線を向ける。


「くっ……‼」


 先程までと全く違う総次の眼差しに戸惑いながらも、隊員は麗華から言われたことを総次に伝えようとする。


「……局長は別の地域の援護に向かった。こっからはお前が俺達を率いろってさ。一番隊の組長代理として」

「……えっ?」


 やっと我に返った総次は、その言葉に気の抜けた声を漏らす。


「……だから、お前が俺達の組長として、この場を守り切れってことだ」

「この場を、守り切る……」


 隊員のその言葉を咀嚼し、総次は静かに口を開く。


「……必ず、必ず守り切って見せますっ‼」(尖狼‼)


 決意と共に、敵側に振り向いて再び尖狼から闘気の束を放つ総次。放たれた光の闘気は一瞬にして三十三の光線となり、一斉に構成員達に向かっていった。光線はドガガガガァン‼という激しい爆音を伴って爆発し、百人以上の構成員達を爆死させた。


「一番隊、一斉にMASTERに突撃‼」

「「「「「……了解‼」」」」」


 総次の命令を聞いた一番隊の隊員達は、向かってくるMASTERの構成員の雲霞に突っ込む。


「「「「「「我らが大師様の……」」」」」

(嵐狼‼)


 総次は刀に風の闘気を纏わせ、身体をコマのように回転しながら直進し、超高速の六回連続の回転切りで六十を超える構成員達を一気に斬り伏せる。それに続き一番隊の隊員達も手にした刀に闘気を纏わせて一気呵成に攻撃を開始した。


 構成員達も負けじと攻撃を繰り返すが、一番隊の必死の抵抗、そして何より総次の並外れた戦闘能力に押されて隊列が乱れ始めていた。


「もう少しで彼らの隊列は完全に崩れます‼ 相手に休む暇を与えないように押し込んでくださいっ‼」(尖狼‼)


 叫びながら総次は刀に纏わせた風の闘気の槍を超高速の連続突きと共に一斉に放った。放たれた風の槍は長距離かつ広範囲に向かって駆け抜け、数多くの構成員達を八つ裂きにしていった。


 夢中で刀を振るっている総次は、もう自分が何人殺したか全くわからなくなっていた。美ノ宮大学の時のような恐怖を味わいたくない、故に立ち向かわなければならないという気持ちが、技を繰り出させていた。その姿は敵のみならず、一番隊の隊員達も恐怖を抱く程だった……。


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