第13話 緊急事態発生……‼
総次が深い眠りから覚め始めた途端、ドンドンドンドン‼ と組長室のドアが壊れそうな勢いで叩かれている音が聞こえ始めた。
「な……何……?」
総次はその音で一気に目を覚ました。目覚ましとして使っているデジタル時計が示す時刻は午前五時二十六分。
「総次君‼ 総次君‼ 早く起きてっ‼」
「な……夏美さん?」
ドアを叩く音に匹敵する騒がしい声の主は夏美だった。ベッドから身を起こした総次がドアを開けると、焦燥しきった夏美の顔が視界に飛び込んできた。
「……朝から何事ですか……?」
「早く支度してっ‼ MASTERの襲撃が起きたの‼」
「⁉」
その言葉を聞いた総次の表情は愕然としたものだった。
「……襲撃って、何処でですか?」
「永田町と霞が関よ! 組長達は至急、局長室に集まってって施設内放送があったの。とにかく急いで‼」
「分かりました!」
総次はそう言って上着掛けに掛けてあった羽織とコートを持ち、黒キャップを被って局長室へ向かった。
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局長室の中では真を始めとする組長達が勢揃いし、沈黙を守っていた。局長席に座っている麗華の表情は微かにだが焦りと不安が見て取れ、一方で麗華の右隣に起立している薫の表情からは微塵もそれを感じさせなかった。
するとバァンと局長室の扉を開ける大きな音が沈黙を破り、夏美と総次が入ってきた。
「遅れて申し訳ありません!」
「謝罪はいいわ。すぐに会議を始めるわよ」
薫にそう言われ、総次はすぐさま真の隣に立った。
「夏美ちゃん、ありがとう」
「いいえ」
夏美は麗華のその言葉に軽く会釈しながら総次の隣に立った。そして組長が全員揃ったのを確認した薫は、彼らに向かってこう言った。
「午前五時十分に、霞が関と永田町でMASTERの襲撃が発生したわ。既に付近の新戦組の十三の支部と大師討ち、警視庁本庁の職員達と特殊部隊が緊急出動してるわ」
「被害状況と、襲撃をかけたMASTERの人数は?」
尋ねたのは真だった。その頬には微かに冷や汗が浮かび上がっている。彼も焦っているようだ。
「霞が関一丁目に約五千人程が押し寄せ、ほぼ壊滅状態よ。職員に死者が出ているとの報告もあったわ。議員会館の方はまだ状況がつかめていないわ」
「それに多くの市民も巻き添えになって現場は大混乱。既にこの状況はSNSにも流れて炎上状態。これ以上被害を拡大させる訳にはいかないわ」
「襲撃はその二つだけでごわすか?」
助六は大木のように太い両腕を組みながら薫に尋ねた。
「今の所は、でもこれから被害は拡大する可能性があるわ」
「襲撃をかけてきたMASTERの構成員のおおよその人数は分かってるのか?」
冷静な態度で尋ねたのは鋭子だった。
「恐らく、万単位と思われるわ」
「非常識な数揃えやがって……‼」
「全くね」
男勝りな口調で前のめりになりながら叫んだ勝枝の言葉に、薫は至極冷静な態度で返した。すると麗華は席から立ち上がり、局長室にいる全員がそちらを振り向いた。
「……五分後、本部の全ての部隊を、霞が関と永田町に急行させます! 各組長達は直ちに隊の出撃準備を整えてください‼」
「「「「「「了解‼」」」」」」
真達組長は全員そう言って一階の駐車場に向かった。
「沖田君」
そこで真達と一緒に駐車場に向かおうとする総次を呼び止めたのは薫だった。
「何でしょうか?」
「今回あなたには一番隊組長代理として、彼らを率いてもらうわ 麗華には補佐として入ってもらうけど、メインで率いるのはあなたよ」
「了解です」
そこへ麗華が刀と小太刀を持って近づいてきた。
「これは鳳城院グループ内にある製鉄部門が作ったものよ。切れ味は本物には劣るけど、耐久力は桁外れよ」
「いよいよ……ですか……」
「遅かれ早かれ、入隊した段階でこうなることは避けられない運命。あなたの覚悟を見せてもらうわ。私も直ぐに一番隊の隊室に向かうわ」
「畏まりました、局長‼」
総次は麗華から刀と小太刀を受け取って、局長室を後にした。
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新戦組の本部は東京二十三区内にあるが、基地の場所を特定されないように、移動は車での移動がメインになる。そしてバスの出入り口は、本部の場所を特定されないように、半径五十キロ以内に六十ヶ所設けられている。
総次が駐車場に向かった時、既に千を超える本部所属の隊員達が集結して巨大なバスに乗ろうとしていた。中を見ると一つの車両に百人の隊員達がギュウギュウ詰めになることなく入れていた。
このバスは鳳城院グループの自動車部門「フェニックス・モータース」が製造したもので、百二十人という最大収容人数とそれに耐える耐久性を兼ね備えた特別モデルだ。総次は麗華と共に一番隊が乗っている一号車に乗り込んだ。集合と乗り込みが早い隊のバスから次々と本部を後にするが、一番隊の乗ったバスが発車したのは四番目だった。
「ここからだと現地到着まで三十分はかかりそうですね……」
走り出したバスの座席の最前列に座った総次は、隣に座っている麗華に対してこう尋ねた。
「その間に本庁職員と大師討ちのメンバー、新戦組支部の隊員達が応戦しているから、被害がこれ以上拡大する可能性は低いと思うけど、気を引き締めなきゃね」
「道路が混雑してなければいいんですけど……」
「いざという時はサイレンを鳴らして強行突破するわ。強引なやり方だけど、やむを得ないわ」
「そうですか……」
総次は暗い表情になりながら俯いた。
「……怖い?」
麗華はそんな様子の総次を見て尋ねた。
「正直……怖いです……」
「大丈夫よ。私がしっかりフォローするから」
「ですが……」
そう言いながら総次は不安を表情に出しながら左腰に佩いている刀の柄に触れた。すると麗華は総次の顔を覗き込んでこう言った。
「……覚悟を決めたんでしょ?」
「……局長も、最初はこんな感じだったんですか?」
「ええ、初めて戦いの中で人を殺すことになった時は怖かったわよ。それこそ気が狂いそうになるくらい……」
「でも、今こうして新戦組の局長として働いている……」
「ええ、そうよ」
「……」
麗華の言葉を受けた総次は、俯いていた顔を上げた。その表情は麗華との一本勝負の時に見せた「獲物を捕らえた狼」のような極めて鋭い目つきだった。
「……総ちゃん……」
「……了解しました」
そんな総次の表情を見た麗華は、彼の並々ならぬ覚悟への感心と不安の入り混じったかのような表情を浮かべるのだった。
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