第4話 組長達の語らい、麗華の至福

「はあ……ああやって質問を立て続けにされるのは堪える。任務以上に疲れた気がするよ」


 真は両腕を組み、やつれた表情でため息交じりをついた。


「まあ、突然あんなことに巻き込まれたら仕方ないですよ。ねえ修?」

「でもこんな真さん見るの、俺も初めてだ」


 修一と未菜はそんな真を横目につぶやいた。冬美は勝枝と席を交換して、真の隣に座って彼の背をさすっている。勝枝は勝枝でガーデンチェアに座って腕と足を組みながら「まあ、災難だったな」と言わんばかりの表情で真を見ていた。


「かなり鋭い子だよ。嘘や誤魔化しは通用しないね」

「あの麗華ですら一瞬焦ったんだから、油断できないね」


 真は勝枝の言葉を受け、垂れていた頭を上げた。すると先程総次達と一緒に麗華の部屋まで行った夏美が帰ってきた。例によって夏美も真のやつれた姿に驚き、こう尋ねた。


「真さん、大丈夫ですか?」

「今はね……」

「流石の真も、あの子の質問攻撃には参ったとさ」


 勝枝は首を横に振りながら両手を広げ「あ~あ」と言わんばかりに言った。


「お姉ちゃん、総次君の様子はどう?」


冬美は真の背をさすりながら夏美に総次の様子を聞いた。


「麗華さんが一緒だから大丈夫だと思うわ」

「そう」

「ただ、これからどうしようかはまだ……」


 夏美は総次の今後の展望が不透明だということは真達に伝えたが、総次の家庭の事情については口にしなかった。彼らも麗華から総次の話は聞いていたからだ。


「なら、総次君の今後について、後で薫達も交えて協議しよう。確か二時くらいから情報管理室でMASTERの動向を紀子さんや鋭子と一緒に確認してたな……」

「じゃあ、そろそろ終わるな……」

「あたしが薫にメールでここに来るように伝えとくよ」


 そう言いながら勝枝はショーパンの左ポケットに入れていたスマホを取り出してメールを打ち始めた。するとフリールームの扉が開き、二人の青年が雑談をしながら入ってきた。


「おっ、皆さんお揃いで」

「佐助の兄貴! 助六さんも、三番隊と四番隊の合同訓練、終ったんスか?」

「ああ」


 修一に呼ばれた青年、三番隊組長の鳴沢佐助は長い金髪を左手でかき分けながら修一にそう話した。その立ち振る舞いは色黒の肌と銀のピアスやドクロのネックレス、タイトジーンズに派手な柄のTシャツからチャラチャラした印象を受ける。


「改めてお疲れでごわす、佐助殿」


 そんな彼の右隣で、羽織の下にタンクトップを着た筋骨隆々のスキンヘッドの青年こと、四番隊組長の剛野助六が静かに前に出る。


「真殿。美ノ宮大学の襲撃と、武山、米村両教授の殺害を阻止できなかったと……」


「あの二人は官僚時代に多くの汚職に手を染めてたから、狙われるとは分かってんだんけどね……」

「それで、例の少年はどこにいるでごわす?」

「あたしと麗華さんが一緒に局長私室に連れて行って、今は麗華さんと一緒です」


 真は助六の方を振り向きながら説明する。実は先程真達が美ノ宮大学から帰還した時に、助六と佐助は他の本部組長二人と「副長」と共に彼らの帰還を直接迎え入れていたので、夏美が抱きかかえていた総次の姿も見ていたのだ。


「総次? どっかで聞いた名前だが……」


 佐助はその名前に心当たりがあるようだった。


「ほら、よく麗華が言っていた子だよ」


 そう言いながら勝枝はテーブルに置かれていた総次の竹刀を佐助に手渡した。


「なんと……先程の少年のことだったとは……」

「びっくりだぜ、助六」


 助六も佐助も麗華から総次に関する話を聞いていたので、ようやく思い出し、かつ驚いた。


「なんでこんなにボロボロに?」

「MASTERの構成員と戦っていて、闘気を使ったからだよ」

「そんなことが……」


 佐助は勝枝から受け取った壊れた竹刀を見ながらつぶやいた。その時、勝枝のショートパンツの右ポケットに入っていたスマートフォンのバイブ音が鳴り響く。


「薫殿からだ……」


メールの発信者の名前は上原薫かみはらかおるとなっている。勝枝はメールをを開いた。


「何だ?」


 佐助は勝枝の手元のスマホ画面を覗き込みながら訪ねる。


「内容は分かったが、まずは麗華の所に報告に行きたい。どこに居るか教えろってさ」


 そう言いながら勝枝はスマホのキーボード画面を出して薫からのメッセージに対する返事を送った。


「薫殿に対するメールとは、一体どのようなものだったのでごわすか? そもそも、真殿の意見とは一体……?」


 助六は真に視線を移して尋ねた。


「総次君の今後についてだよ。麗華によると、総次君は幼い頃に両親を失って叔母に引き取られたって言ってたから、そこに連絡が取れれば……」

「それなんですけど、半年前にがんで亡くなって、もう身寄りがいないんです」


真の言葉を遮りながら放った夏美の言葉は、真達を驚かせるには十分な効果があった。


「でも、他にも親戚がいるんスよね?」


 修一は真の方を向きながら尋ねた。


「麗華も詳しくは知らないらしいんだけど、その叔母さんが他の親類との接触を嫌ってるみたいでね。総次君も父方の祖父母以外とは一度もあったことがないらしいんだ」

「接触を嫌ったって……?」


 真の話を聞いた夏美はそうつぶやいた。


「夏美ちゃん。総次君は美ノ宮大学以外は受験していないのかい?」


 真は夏美の方を向いて尋ねた。


「他にも一校受けて合格したと言っていたんですが、学費の問題で留年せずに卒業は難しいみたいで……」

「まあこのご時世、留年でもしたら就活にも大きく響くだろうね」


 夏美の話を聞いて、真はそう言った。


「俺達に何かできることは……」


力になりたいという感情を表に出しながら真に尋ねる修一。


「薫殿の意見を仰ぐ必要があるのでごわすな?」


 助六は真の言葉に補足する形で会話に介入する。


「まぁ、何かしらの提案をするだろう」

「それに紀子さんや鋭子さんのご意見を聞いてみる必要もあると思いますし」


 真の意見に冬美が賛同した。


「とにかく、麗華と薫の判断を待とう。それまで僕達は紀子先生や鋭子と一緒に局長室で話し合おう」


 真は自分の背後にある新戦組の文字が書かれている看板の方へ体を向けながら言った。


⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶



「本当に気持ちよさそう……」


 自身の太ももを両手でしがみつきながら寝ている総次の頭を撫でる麗華は、相変わらず聖母のような微笑みを浮かべている。すると突然、局長室の扉が開いた。


「麗華……」

「か、薫⁉」


 扉を開いた張本人、新選組の羽織に女性用のリクルートスーツを着た本部副長・上原薫は、総次を膝枕している麗華を見て呆れ返った態度をとった。


「勝枝からメールがあったのよ。その子の今後について話がしたいって」

「そ、そうなの……」

「本当に気持ちよさそうに寝てるわね」


 薫は麗華の座っているベッドに向かい、麗華の座っている右隣に腰を掛けて話を続けた。


「一応聞くけど、これは沖田君の望み? それともあなたの望み?」

「両方、でも、誘ったのは私……」

「はぁ……」


 やっぱり、と言わんばかりの態度でため息をついた薫。


「下手すると、中身が見えるわよ?」

「し、下はレオタードよ?」

「そういう事を言っているんじゃないのだけれど。そのスカートのスリットは動きやすくする為であって、その子のフェチを満たす為ではないのよ?」

「フェチじゃないわ。今日はいろいろあって人肌が恋しくなってたから……」

「じゃあ、あなたはなんで顔を赤くしてるの?」

「総ちゃんに膝枕するのが、私の至福の時だから……って、薫⁉」

「はぁ……」


 麗華のそんな態度に、薫は頭を抱えた。


「そ、それより薫、何か私に言いに来たんじゃないの?」

「その通りよ」


 麗華は慌てて話題を変え、薫も襟を正して話し出した。


「今後の沖田君の進路がお先真っ暗だから、私達も微力ながら、何か力になれないかというのが、今勝枝達の中で話されているらしいわよ」

「それは私も考えてたけど……」

「この子の学校には連絡したの?」

「さっき総ちゃんが電話したわ。警察の事情聴取を受けていてしばらく帰れないってね」

「なるほど、話を戻すわ」

「総ちゃんの今後についてね」

「……これは、あくまで選択肢の一つだけど、いい?」

「な、何?」


 薫は何か重大なことを言いそうなそぶりを見せたので、麗華は姿勢を正した。


「襲撃から単身生き延び、精神的に追い詰められてた状態でも彼らを撃退した彼の実力は、並ではないわ」

「……か、薫?」


 薫の言葉を聞いて彼女の言わんとしてることを察した麗華の表情は曇ったが、それでも薫は話を続けた。


「ない選択肢とは言えないわ。剣の腕も確かだし、混沌の闘気もあるならね」

「……まさか……」


 表情が曇る麗華をよそに、薫は淡々と話を続ける。


「いずれにしても、落ち着いてから当人も交えて話し合う必要があるわ」

「……そうね……」


 麗華の表情は相変わらず曇ったままだった。薫は総次の今後を憂いてるだけでなく、総次の力に惹かれていることに気付いたからだ。


「勝枝達から聞いたけど、沖田君は南ヶ丘学園の生徒なのね」

「ええ。そうよ」


 そう言葉を返しながら、麗華はハッとしたような表情になる。


「南ヶ丘学園を始めとして闘気研究をしている機関は、私達新戦組に闘気関連の資料や研究の試作品の提供している。それを知っているのは学園長の南ヶ丘風音さんを始めとして、向こうではごく少数。となれば……」

「ある程度の理解をしてくれる。そう言いたいのね?」


 麗華の問いかけに、薫は頷いた。


「そうなのね……」

「最後は彼次第よ。でも彼の力は確かとみていいわ」

「薫……」


 どこか焦った様子の薫を、麗華は不安げな表情で見つめた。


「それと、ここ一ヶ月のMASTERの動きについて、各地の新戦組支部と警察の大師討ちから報告があったわ」


 一方の薫は淡々と次の話題に入った。


「特定できてるMASTER支部の構成員が、霞が関や永田町周辺を何度もうろついているのが確認されたわ。それも、周囲を何度も確認するかのようにね」

「何か、厄介なことを起こしそうね……」


 麗華は先程まで見せていた聖母のような表情から、凛とした『新戦組・局長』としての表情になった。


「都内の支部と警察署に厳重警戒の要請と、何かあったら本部への連絡をするよう呼びかけたわ」

「ご苦労様、薫」

「それは情報管理室の隊員達と警察の方々に言いなさいな。私達がこうして行動できるのは、彼らの力があるからこそよ」

「分かってるわよ」


 そう言った麗華の表情は、局長としてではなく、一人の女性としての笑顔になっていた。すると薫のスーツの左胸ポケットに入っていたスマホのバイブ音が聞こえた。それはメールで、送り主は笠原勝枝だった。


「何なの?」


 麗華は薫のスマートフォンを覗き込みながら言った。


「紀子さんと鋭子と合流して、局長室に集合だって。麗華は?」

「もう少しここにいるわ」

「じゃあ、沖田君が起きたら食堂に来たらどうかしら? あなたもお腹が空いているんじゃなくて?」

「そうね。総ちゃんが起きたらそうするわ」


 その言葉を聞いた薫はベッドから腰を上げて部屋を出た。再び二人になった麗華は改めて総次を見たが、相変わらず太ももに縋りついていた。正面の壁に掛かっている時計を見ると、既に五時を回っていた。


「……あと一時間くらいしたら起こしてあげるわ」


 麗華は総次の耳元まで唇を近づけてそうささやいたのだった。


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