第2話 手紙
1通の手紙がドアの前に置かれていた。
差出人は不明。
ただ、それはいつもの事。”依頼”の手紙に差出人が明記される事など今までになかった。それは例外なく。依頼元が誰なのか知られるのが恐いのだろう。
部屋の蝋燭は消えていたが、手紙を読むのには苦労しない程度の朝日が顔を出している。部屋の片隅に1脚の古ぼけた椅子がある。
そこに座って手紙を読む事が日課になりつつある。
どんな手紙も同じだった。
書かれているのは依頼者である人間の、これまでどれだけの苦労をしたか。どれだけ虐げられてきたか。どれだけ恨みを抱いているか。殺してやりたい。地獄に落としたい。辱めたい。殺してほしい。殺してほしい。殺せ、殺せ、と。
そんな人間の感情を救済する事が、俺たちが生きる目的だと教えられた。
ただ、今となってはそんな事はどうでも良い。
ただ、今は守りたい。
ただ唯一残された家族の為に。
どんな依頼でも構わなかった。日々の生活を送るため。
唯一生き残った家族の為に。
部屋の奥にあるベッドから視線を感じる。
『・・・サイ、もう起きたのか』
『また、依頼がきたの・・・』
『ん、ああ。 今晩も少し出かけてくる』
読みかけの手紙を机の上に起き、炊事場にある湯飲みにお茶を注いだ。
『レキ、そんなに毎日依頼を受けなくても・・・。』
言葉を遮るようにお茶をいれた湯のみを渡し、うっすらと笑みを浮かべた。
『心配ない。お前は安静にして、寝ていろ』
レキはベッドの横に腰をかけ、サイに羽根布団をかけた。
『私だって、もう動けるようになってる。薬だって飲んでるし、これ以上レキの負担になりたくない』
『先生に言われただろ、今は大人しく寝て、薬飲んで安静にしないと』
『私は!?』
次の言葉を遮るように、レキはサイのおでこを軽く指で弾いて、そっと部屋を出た。
確かに、サイの言う通りここ最近は依頼がきたものは断る事をしなかった。
生活の為であれば、ここまで依頼をうける必要もない。
しかし、サイは1年前に受けた依頼で、失敗した。深手を負った。
その治療には特別な治療が必要だった。
莫大な治療費と完治には特別な薬も必要だった。
『死なせない。ここまで生き抜いてきた。絶対に死なせない』
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