水のサバゲーとアトラクションの欲張りセット


 最初はもっとキャッキャウフフ的な微笑ましい感じだと思っていたんだ。

 4人の幼女達と美人な天梨や活発な黒音が、仲睦まじく遊ぶ様子を眺めていられると思っていた。


 ──だが、現実は非常である。


「──ぶっ!?」

「よっしゃぁっ! がんめんヒットっす!」


 はすみちゃんの持つライフル型の水鉄砲から放たれる、プールの水が鼻や口に目の中へと入って来た。

 沁みる!

 塩素がすっごい沁みるよ!!


 体内に入っても害のない量とはいえ、入ったら入ったでキッツイ!

 特に鼻が痛いわ! 


「すきありよ!」

「背中ぁ!?」


 むせ込んでいる内に、今度はちゆりちゃんから容赦の無い攻撃を背中で受けた。

 普通の水鉄砲なら然程気にしなかっただろうが、彼女が使っているのは背中にタンクを背負うランチャー型のものだ。

 当然1発における水量が段違いなので、大の大人を仰け反らせることなど造作もない威力を誇っている。

 よくそんなのを背負って動けるね!?


 子供が持つ無限に等しいバイタリティーには驚く他ないな。


 反撃しようにもはすみちゃんの的確なヘッドショットでロクに視界が見えず、ちゆりちゃんの砲撃でバランスを崩されるため自分の水鉄砲を構えることすら叶わない。

 フェアプレイなんて知ったことかと言わんばかりの、仲の良さを見せつける巧みな連携によるハメ技の出来上がりだ。


 さながら、アニメのBパートで2人の魔法少女にボコボコにされる悪役の怪人の状態だろう。


「えい! えい!」

「きゃっ、やったなぁ~!」

「あう! あたっちゃった……」

「かなちゃんもお上手ですよ」


 そんなフルボッコの俺とは違い、残りの4人は実に平和だ。

 そもそもが使っている獲物からして違うんだもん。

 こっちの2人は男子が持つようなゴツイやつなのに、向こうの皆はハンドガン型だぞ!?


 勝てるわけがねぇ……。


「げほ、ごめ、ちょ、タンマ……」

「え~、おにーさんよわすぎじゃない~?」

「まだはじまって10ぷんもたってないっす」


 そのたった10分で溺れるんじゃないかって錯覚するレベルの水を浴びせられまくったんだなぁ……。

 ギブアップをしてようやく猛攻から逃れたので息を整えるが、2人はリタイアした大人を放ってタイマンで遊び始めた。

 せめて『大丈夫?』の一言くらい欲しかった……なんて構ってちゃんみたいな虚しい気持ちが過る。

 

 我ながらキモいなと自虐しながらコートの端に移動して、皆が遊ぶ様子を眺めつつ腰を降ろして一息つく。

 仕事以外でここまで体力を使ったのは久しぶりだ。

 でも、プライベートであまなちゃん達と遊びに来ているだけあって、雲が散るように晴れやかな心持ちでもある。


 休みだからって寝てばかりなのも大概だな。


「おにーさん、だいじょーぶ?」

「え? あまなちゃん?」


 なんて思考に耽っていたら、いつの間にかあまなちゃんが隣に座っていた。

 天梨達の方へ視線を向けると3人でボール遊びをしているようだが、尚更こっちに来た理由が分からない。


「おにーさんがひとりですわってるから、つかれちゃったのかなっておもったの」

「あ~心配掛けちゃったか。少し休めば大丈夫だよ」

「そっか。あまなもちょっときゅーけーしたかったから、おにーさんといっしょだね!」

「ははっ、ありがとう」


 相変わらず気配り上手で優しい子だ。

 おかげで一人で退屈せずに済む。

 その感謝の気持ちを込めて頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべる。

 

 無邪気な表情に俺も釣られて笑顔になる……あまなちゃんの癒しは今日も絶好調だな。  

       

 ====== 


 そうして水鉄砲によるサバゲーを終えたので、次に何をしようかという話になった。

  

「はーい! ウチ、ウォータースライダーにいきたいっす」

「え? でもあそこから『きゃー』ってきこえるよ? こわいのかな……?」

「き、きっとアレよ! ジェットコースターみたいなかんじにきまってるわ!」


 はすみちゃんが挙げたウォータースライダーにかなちゃんとちゆりちゃんは難色を示した。

 かなちゃんが指している声はちゆりちゃんの言う通り、ジェットコースターが降下し出した際の声と同じなのだが、そのちゆりちゃんの膝がものの見事に笑っているからきっと怖かったんだろうなぁと悟れる。


「ここのウォータースライダーは大きなゴムボートに複数人で乗れるんだよ。想像してるほど危険じゃないから、安心して?」

「身長制限はないようですけど、10歳以下の子供は保護者同伴厳守とありますね」

「なら、天梨がついて行ってあげたらどうだ? 俺と黒音は荷物を見てるけど──」


 男の俺がついて行っても怪しまれるだろうし、天梨なら問題ないと思ったのだが……。

 

「……」

「……あの、天梨さん? なんで寄って来るんだ?」

「えぇっと、その……」

 

 無言でこちらに近寄って来た。

 水着姿の美女に詰め寄られると意識せざるを得ないのが男の悲しい性だが、理由を尋ねられた彼女は顔を赤くして瑠璃色の瞳を潤わせながらゆっくりと口を開く。


「わ、私、実はカナヅチなので、泳ぎが不得手でして……そもそもこういったレジャー施設自体、あまり馴染みがなくて勝手が良く分からないんです……」

「……つまり?」

「……私も興味はあるので乗ってはみたいのですが子供達とだけでは不安なので、早川さんも来て頂けるなら安心出来ると思います」

「──っ」


 うわ、ちょ、そういう可愛いこと言う?

 そう言えば、天梨は自分の容姿が整っている自覚がないんだったっけ……。

 狙ってるように思えて、実は全くの無意識なんだよなこれ。

 

「く、黒音」

「あ、ごめーんアニキ。アタシ今友達とメッセで会話してるから手が離せないんだ~」

「はぁっ!?」


 期待する自分を抑えつつそれならばと黒音に頼ろうとするが、空気の読まない発言が飛び出てきた。


 何、遊びに来てんのにスマホ弄ってるんだお前は!?

 なんなの?

 俺がついていけってか?

 

「おにーさんもいっしょにきてくれるの? あまな、うれしー!」

「ウチもワクワクするっす!」

「せ、せっかくだからいっしょに乗ってあげてもいいわ!」

「かな、おにーちゃんといっしょなら、こわくない、かも……」

「すみません、早川さんに甘える形になってしまいますが……」


 あぁ、これもう断れないやつだ。

 こんな信頼がなせる期待と安堵の眼差しを向けられて、断れるやつがいたらソイツ人間じゃないわ。


「お……おう。まかせんしゃい……」


 最早なるべくしてなったような気がしないでもないが、5人を裏切れない俺はそう口にするのだった。

  

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