ウォータースライダーでドキドキ?
長い列を進んでいき、ようやく俺達の番となった。
道中、天梨や子供達に混ざる俺が余程異質に映ったのか、やけに嫉妬の眼差しを受け続けたために乗る前から疲れた気分だ。
しかし、あまなちゃん達の気分を害するわけにはいかないと平静を装ったことで、幸いにも気付かれてはいない。
「何名様でしょうか?」
「6人でお願いします」
「はい、
「「──えっ!?」」
係員の質問に答えたら、さも当然に家族扱いされたために天梨と揃って声を上げてしまう。
いやいや、あまなちゃん以外の3人は友達だし、俺が天梨の旦那とか失礼だろうよ……。
でもここでツッコんだら怪しまれるかもしれないから、今は口を噤んで──。
「おねーさん、ウチらはかぞくじゃないっすよ?」
「え?」
はすみちゃん!?
「このキレーな人はあまなちゃんのお母さんよ!」
「ん?」
ちゆりちゃんも!?
口ではそういう割になんで誇らし気なんだ……。
「おにーさんはあまなのおともだちだよ?」
「はい!?」
あまなちゃんまで!?
みんな正直なのは良いけれど、出来れば今は黙っててほしかったかなぁ!?
「でも、みんなでかぞくになったらたのしそー……」
「…………」
「ヒィ!?」
かなちゃんの言葉で、係員さんの犯罪者を見るような目が完全に据わった。
悪気は無いのは理解しているが……どうしてこんな共謀を疑いたくなる速度で追い詰められたわけ?
俺、何かしました?
楽しい気分が瞬く間にどん底に突き落とされて、ぶっちゃけ泣きたいんですけど……。
それでも泣く暇があるなら何か対策を立てようとした瞬間、不意に左腕に天梨が抱き着いてきて──。
「し、将来的に、その予定をしているんです! とにかく、彼はそんな疚しいことを考えるような人ではありませんから! ね?
「「「「「え?」」」」」
「て、天梨!?」
左腕に感じる柔らかい感触が吹き飛ぶほどの、衝撃的な発言をぶちかまして来た。
顔を真っ赤にしながらも大胆な事を口走ったためか、あまなちゃん達や係員さんだけでなく、後ろに並んでいる他の方々も衝撃を受けているようだ。
でもいっっちばんビックリしてんのは俺なんですけどね!?
そりゃそうだ、天梨のような美人に実質プロポーズされたもんだからな!!
しかし、俺は察している。
これが彼女なりに俺を庇おうと咄嗟に出た嘘だということを。
そうと分かっているのだが、やはり動揺を禁じ得ないわけで。
何せ、今さり気なく名前で呼ばれたからな?
茉央がなんであんなに嬉しそうにしていたのか、身に染みて理解させられた。
これはどうしてもにやけてしまいそうだ……。
「そ、そ、そう、だったん、ですね~……お子さんの前で、すみません……」
「い、いえ……」
係員さんが顔を赤くして謝罪するが、当の天梨は自分がどれだけとんでもないことを言ったのかを遅まきながら理解したようで、さっきよりもっと顔が赤い。
それはもう、リンゴと見間違うくらいだ。
多分、俺も同じくらい赤くなってると思う。
だって顔が太陽の日差し以外の理由で熱くなってるし。
それから周囲からの『リア充爆発しろ』という念が込められた視線や、あまなちゃん達からの追及を躱しつつ、なんとか専用のゴムボートに乗ることが出来た。
ゴムボートは円形で、中心に向かって向かい合うような座り方となっている。
ちょっと狭いが、小学生が4人もいるのでスペースは空いている方だ。
左に天梨が座っているのだが、さっきのやり取りもあって非常に気まずい。
全然目を合わせてくれないわ。
「おにーさん、しょーらいはあまっちのパパになるんすっかね?」
「っし! それはオトナの2人が決めることで、アタシ達にできるのはみまもることだけよ!」
「かな、さっきのおはなしでまだおむねがドキドキしてるよ……」
「おにーさんとママ、なかよしでよかったぁ~」
そしてこっちの気持ちなんていざ知らず、あまなちゃん達の実におませな会話が聞こえる。
いや、俺の右手側に座るあまなちゃんだけは純粋な感想だけども。
顔を合わないでも天梨の耳が赤くなっているため、同じように彼女にも聞こえているようだ。
「それでは、しっかり掴まっていて下さい!」
「「「「「「──っ!!」」」」」」
そうこうしているうちに、いよいよゴムボートがスライダーを滑っていく。
水の流れに沿っているため、あっという間にスピードが増していった。
右に左にとカーブを曲がった際に掛かる強烈なGは、ゴムボートに付いている取っ手がないと外に放り出されてしまうと錯覚する程だ。
「「「「「きゃああああああああ!!!!」」」」」
あまりの勢いに、5人は大きな悲鳴を上げている。
俺も声を聴くので精一杯で、天梨達がどんな表情をしているのか分からない。
しかし、左右の手が握られているのだけは分かる。
それを離すまいと同じように握り返すだけが、今出来ることだと判断して掴み続けた。
──ザッッッッッパアアアアァァァァン!!
「わ、ぷっ!?」
スライダーを滑っていくと、唐突に水飛沫が顔に掛かった。
ゴムボートの勢いが止まったことから、どうやらゴールに着いたようだ。
長かったような短かったような……どちらにせよ、無事にゴール出来た事実に安堵の息を吐く。
「ぺっ、ぺっ! みずがくちのなかにはいったっす!」
「はわわ、あたまがぐるぐるする……でも、たのしかった……」
「うえ~ん、こわかったぁ~!!」
はすみちゃんとかなちゃんは平気そうだが、ちゆりちゃんは完全に泣きべそをかいていた。
あとで何か飲み物でも買ってあげよう。
とりあえず顔に掛かった水を拭おうとするも腕が上がらない。
そういえば手を握られていたなと思い出す。
あれ、でも俺の隣って確か……。
「けほっ、天那。大丈夫ですか?」
「うん、あまなはへーきだよ。ママは?」
「私も大丈夫ですよ」
そうだ、天梨とあまなちゃんだ。
なんとか目を開けると、ちょうど天梨と目が合った。
「あ……」
ぼやけて解かりづらいが、か細く息を吐くのが聞こえた。
咄嗟に手を引こうとしたようだが、俺がしっかりと彼女の手を握っている為、動かせないようだ。
「わる──」
「──あの! 先程は、早川さんを庇うためとはいえ誤解を招く発言をして申し訳ございませんでした!」
「え?」
手を離す前に、天梨からそう謝られた。
一瞬呆けるも今しかないと瞬間的に悟って……。
「えと、俺の方こそ、悪かった」
「そんな……」
「でも、嘘でもああ言ってもらえて嬉しかったよ」
「──っ!」
彼女にそう伝えた。
……おいなんで感謝してんだ、謝るだけだったのに余計なの付け足しちゃダメだろうが。
咄嗟に出た自分の言葉に呆れている一方で、天梨のほんのりと柔らかい笑みに見惚れる。
そうしてさっきとは違う意味で相手を意識してしまっているものの、ひとまず子供達が落ちない様にゴムボートをプールサイドに引こうとしたら……。
「イッッヤアアアアァァァァンンッ!! ラヴリィーな話じゃなぁいんっ!!」
「「「「「「──っ!?」」」」」」
やたらとねっとりとした声に驚いて顔を向ける。
そして、数瞬と掛からずに
身長177㎝の俺が見上げる程の高身長、無駄にムッキムキな筋肉を見せつけるかのようなブーメランパンツの水着、IK〇Oみたいなゴッテゴテのメイクと髪型……。
周囲の目など知ったことかと言わんばかりのソイツの名を……人は『オネェ』と呼ぶ。
俺達はそんな怪物に遭遇してしまったのだった……。
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