夏だ! プールだ! 水着だ!



 茉央と三弥にあらぬ疑いを掛けられたのは酷く心外だが、それでも時間は進んで行く。

 7月下旬、学生にとってかけがえのない夏休みの時期だ。

 忙しい日々をあまなちゃんに癒されながら乗り越えて、ようやくプールの日がやって来た。


 常夏アイランドは通常のプールはもちろん流れるプールやウォータースライダーに水上アスレチックもあり、この辺りに住む人だけでなく、遠くの県に住む人も毎シーズン訪れる程に人気のレジャー施設である。

 学生時代に行ったきりだから実に7年ぶり……そもそもこして水着になって遊ぶこと自体久しぶりとなるわけだ。


 ぶっちゃけ年甲斐もなくワクワクしている。


「ふわぁ~! プールおっきー!」

「ウォータースライダーがあるっす!」

「ふえぇ、ひとがいっぱい……」

「もう、みんな待って! まずはじゅんび体そうよ!」


 俺でさえそうなのだから、小学生達の興奮はもっと凄まじいだろう。

 そう、あまなちゃん以外にもその友達である、元気っ子なはすみちゃん、大人しいかなちゃん、真面目なちゆりちゃんの3人も一緒だ。


 プールに入る前に準備体操を始めるあたり、微笑ましさ全開で眼福の極みだと思える。


「あ、おにーさん! みずぎ、にあってる?」

「あぁ。あまなちゃんもはすみちゃん達も可愛いよ」

「えへへ、やったー!」

「おにーさんをめろめろにしちゃったっす!」

「ふ、ふ~ん! べつにおにーさんにほめられてもなんとも思わないけど、せっかくだからゆるしてあげるわ!」

「あ、ありがと、おにーちゃん……」


 準備体操中のあまなちゃん達の水着を褒めると、なんともらしい反応が返って来た。

 でもはすみちゃん、その言い方だと俺がロリコン扱いされるからやめてね?


 小学生達の水着姿は、あまなちゃんがショッピングモールで見せてくれたピンクのホルターネックタイプのトップスにスカート状のパンツという可愛さに極振りしたもの。

 はすみちゃんはサロペットという背中の開いたオーバーオールのようなデザインだ。

 ちゆりちゃんのはというと、青と白の水玉模様のワンピースタイプである。


 そしてかなちゃんはまさかのスク水。

 もう一度言う、スク水だ。


 胸元に『ひがしの』って油性ペンで名前が書かれているあたり、それもう狙っているのではと勘繰ってしまうような、パーフェクトオブスク水なのである。

 シンプルなデザインだから余計に目立ってる……似合ってるからいいんだけどね。 


 成人男性と女子小学生4人という大変絵面的にもアレな光景だが、他にも同伴者はいる。

 あの子達が出て来たってことは……。


「うは~……チビっ子達の水着も可愛いけど、天梨さんってばモデルみたいにスタイル良いですよね」

「私はそれほどでも……黒音さんの方が、大きいですし……」

「ん~……でもこれ肩凝るし料理する時も邪魔に思えたりするんですよ~」

「あぁ、それは確かに困りますね……」


 同じように出て来た天梨と黒音の話声が聞こえた。

 黒音は夏休みの間に泊まりに来ることになっていて、プールのことを伝えたら自分も行くと言い出したため、こうして連れて来ている。

 

 そんな妹は大きな胸を大胆に見せ付けるかの如く、黒を基調とした白い花柄のビキニだ。

 多くの男性の視線を集めるだけに留まらず、一歩進むごとに揺れる胸を見て女性ですら羨望の眼差しを向けているのが分かる。

 

 それは隣に並んでいる天梨も同様みたいだ。

 だが、緑色の貝殻みたいな模様のスカラップと呼ばれる形状のトップスに淡い水色のパレオの水着姿は、黒音の言うように本当に経産婦なのかと思える程に優雅なものだった。

 2人きりだったら目を奪われる勢いで見惚れていたレベルだと思う。


「あ、アニキ発見~!」

「早川さん、今日はよろしくお願いします」

「おう。2人とも似合ってるぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「じゃあ閲覧料として1万ちょーだい」


 たっけーなオイ!?

 褒めたのにぼったくろうとするなよ!

 

 いじらしい天梨の反応を見習えよな……。


 しかし、あまなちゃん達や妹も一緒とはいえ、天梨みたいな美人とこうして出掛けることが出来る優越感を覚えずにいられないな。

 

 まぁ、その代償と言わんばかりに周囲の男性達からは嫉妬の怨嗟を向けられているが。

 片方妹ですし、もう一人に至っては人妻で子持ちなんだけどなぁ~。

 一目見て2人がそうだって分かるわけ無いか。


 そう考えていると、急に右手を下へ引かれているのに気付いた。


「おにーさん。あまなたち、じゅんびたいそーおわったよー」

「お、そうか。まずはどこにいく?」


 いざ遊ぼうにも遊園地のアトラクションに種類があるから、どれから行こうか尋ねる。

 子供達の意見を尊重するならこれがいいはずだろう。  


「アタシ、やりたいあそびがあるわ!」

「ん? どんなのだ?」


 早速案があるらしいちゆりちゃんにどういうものか尋ねる。

 やけに自信満々な様子の彼女は人差し指をある一点に向けて……。


「テレビで『さばげー』っていうのがあったから、それをやってみたいの!」


 プールで使う遊具を貸し出しているレンタルショップを指してそう高らかに主張した。

 なるほど、水鉄砲でなら本家に比べて危険は少ないな。

 チョイスそのものには納得する。


「さばげーってなに……?」

「さばのゲームじゃないっすか?」

「さばって、おさかなさんのさば? プールのなかにいるの?」

「ちがーう! みずでっぽうでみずのかけあいっこをするの!」

 

 他の3人はサバゲーの意味を理解していなかったようで、物凄い勢いで脱線していくのが何とも微笑ましかった。

 すかさずちゆりちゃんが意味を解説するが、彼女が知っているのは水鉄砲によるものだけなようで、エアガンを使う本家への理解はまるでないようだ。

 まぁ、ヘタにエアガンを使われるよりはマシなので、今は黙っておこう。 

 

 さて、水鉄砲はレンタルショップで借りれるからいいとして場所はどうしようか?


「それなら、あっちの方でそれっぽいスペースが借りられるっぽいよ」

「水鉄砲のレンタルとは別料金のようですけれど、300円で30分みたいです」

「お~」


 最近のレジャー施設の流行の取り込み具合に感嘆する。

 こうして、最初は水鉄砲によるサバゲーをすることなった。

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