あまなはだいじょーぶです
ゴールデンウイーク中の土曜日。
普通はお休みの日だが、
今日は授業参観の日なのである。
親が見に来る午後の授業からだが、それでも始めての授業参観ということでクラスはどこか浮付いた様子だった。
「それじゃ、みんな。頂きまーす!」
「「「いただきまーす!!」」」
そうして迎えたお昼ご飯の時間。
今日は給食ではなくお弁当なので、教室では中身を見せ合ったりして盛り上がっていた。
「ウチのハンバーグ、こんなにデッカイんすよ!」
「あ、アタシのからあげだっておっきいんだから!」
「わぁ、かな、そんなにたべられないから、うらやましい……」
「かなちゃん、もしたべにくかったら、あまながてつだうよ?」
「ありがと、あまなちゃん……」
それは天那達4人も例外ではなく、和気
3人とは保育園の頃からの仲だ。
その中であまなは一番優しさに満ちた性格と言える。
誰とも明るく接することか仲の良い人が多く、文武両道でもあるため男女問わず頼られることが多い。
そんな中、クラスメイト達の話題は午後の授業参観で持ちきりだった。
親の前で頑張る意欲を見せる子、緊張から不安を零す子、学校でも親に会えるとポジティブな子と様々だ。
が、天那だけは普段の笑みが鳴りを潜めて、暗い表情を浮かべていた。
(ママ、いまごろおしごとおわってるのかな……?)
南家は父親のいない母子家庭である。
母親である天梨は平日は仕事に出ていてあまり家にいない時間が多いが、その分休みの日は天那に構い倒しだった。
和の前で口にした通り、寂しさを感じないわけではない。
ただ、天梨が仕事を頑張っているのは紛れもなく自分のためだと天那は理解している。
大事にしてくれていると分かっているから、寂しさを我慢することが出来るのだ。
特に最近では、火曜日と金曜日に配達に来てくれる和の存在もある。
忙しいはずなのに、自分と友達になってくれた彼が天那は大好きなのだ。
それでも、こういった家族参加の行事に対して苦手意識が出来ていた。
あくまで漠然としたものであって、明確なものではない。
空気を読むことに長ける天那は、その苦手意識を表に出さないように我慢することが出来る。
表に出してしまえば、楽しみにしているみんなの気分を害すると察しているが故だ。
経験で培われた我慢強さは、こんなところでも発揮された。
それが幸か不幸かは人それぞれだろう。
しかし、そんな天那も今年は前向きだった。
天梨は午前中だけ仕事に出るが、授業参観の時間には間に合うようにしているという。
それならと天那は期待で胸が躍る。
蓮水達3人は知っているが、天梨は天那にとって自慢の母親だ。
綺麗な顔立ちにスラリとして礼儀正しい佇まいは、一人娘から見ても理想の女性像と言っていい。
そんな母親が授業参観に来た時に、クラスメイト達に自慢してやりたいと内心ワクワクしていた。
きっと驚くだろう、きっと注目されるだろう。
その時に声高々にして自慢するのだ。
──この人が自分の母親なんだ、と。
「──フフッ」
思わず笑みが零れた。
たったそれだけで、天那がどれ程楽しみにしているのかが傍目からでも悟れる。
「お。あまっち、なんだかたのしそうっす」
「うん! だってきょーはママがきてくれるもん!」
「わぁ……きっとみんなびっくりするよね」
「アタシみたいに、あまなちゃんのお母さんにあこがれるにきまってるわ!」
事情を知っている3人から見ても、天那の変化は解り易かった。
特に智由里は天梨と初対面の時に、どうすれば彼女のように綺麗な女性になれるのかを尋ねた程だ。
天那が天梨を自慢の母親として捉えだしたのは、その頃からである。
そうして期待に胸を膨らませている内に昼食の時間は終わり、昼休みの時間となった。
授業参観とあって、男子達も校庭に出ることなく教室で談笑している。
後20分程で授業開始という頃合いにクラスメイト達の親が教室に入って来た。
誰もがキチッとした装いで、親同士で会話をしている人もいる。
子供達も、自分の親を今か今かと待ち構えて緊張と期待で落ち着かない様子で、後ろを振り返って見渡していた。
自らの両親を見つけた子は、手を振ったり友達に紹介したりして実に楽しそうである。
それに釣られて天那も天梨の姿を捜す。
しかし、まだ来ていない様だった。
──だいじょーぶ、ママはきてくれるってやくそくしたもん。
そう自分を奮い立たせる。
「あ! ウチのとーちゃんとかーちゃんっす!」
すると、蓮水の両親がやって来た。
2人が来たことに、彼女はとても嬉しそうだ。
「かなのパパとママもいるよ……」
「アタシのパパとママもよ!」
授業開始まで10分頃には、嘉奈と智由里の両親も来ていた。
だがしかし、天梨は未だ姿を見せない。
娘に10分前行動を心掛けるように言いつけてある母にしては、遅いと思える時間だ。
──……だいじょーぶ……ママはちょっとおくれてるだけだもん。
胸の中で燻り出す黒い不安を抑えつつ、気丈にもそう考える。
天梨は『間に合う』と言っていた。
ならば10分前に来れなくても仕方がないと前向きに捉える。
だが……。
5分前になって予鈴が鳴っても……。
──だい、じょーぶ……ママは、あまなとやくそく、したもん……。
先生が教室に入って来ても……。
授業が始まっても……。
それから20分経過しても、天梨は教室にやって来なかった。
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