美人な人妻と連絡先交換したぜ(白目)
あまなちゃんの母親である
顔立ちはまだしも、年齢は少なくとも2~3歳上だと思っていたが……。
俺と同い年か年下って可能性が高いぞ。
動揺冷め止まない俺に、南さんは娘を守るようにこちらを睨み付けて来る。
「それで、あなたは一体娘を騙して何を企んでいたのですか?」
「何も企んでないですって。俺は見ての通りウミネコ運送の宅配員で──」
「そんな見え透いた嘘を信じると思いますか? 正直に話さないのなら、やはり警察に──」
「わああああああああっ!? 待て待て!! め、名刺ならあるから、ほら!!」
通報なんてされたらマジで職を無くす!
手厳しい態度に怯えながらも、南さんへ名刺を渡す。
名刺を受け取った彼女は、俺と名刺へ訝しげな視線を向けて交差したのちに、スマホを取り出して何やら操作を始めた。
一瞬通報されるのかと身構えたが、一向にスマホを耳にあてる様子がない。
やがて、未だ疑問の晴れない視線は俺に戻された。
「……名刺に記載されていた会社名や住所を調べてみましたが、どうやら虚偽ではないようですね」
……の割にはまだ信じられないって顔だけどな。
「南さんは食材の宅配サービスを受けてるだろ? 俺はその宅配の担当ってだけで、いつもはあま──お子さんが受け取ってくれてるんだよ」
「……
「うん」
俺に悪意は無いと伝えるためにこの場にいる理由を話すと、南さんは娘に真偽を尋ねる。
質問されたあまなちゃんは、場の空気を読んでか微妙に強張った表情で俺の言葉を肯定してくれた。
流石に娘の言葉を無下に出来ないのか、南さんは気難しい表情をして俺をジッと見つめる。
普段なら美女に見つめられて嬉しいはずなのだが、相手が疑念を向けているせいで全然そんな楽観視が出来ない。
そうして10秒程してから、さっきより大きなため息を吐いてからゆっくりと口を開いた。
「……ひとまず、あなたが悪意を持って娘に近付いたわけではないようなので、今回は警察に通報せずに見逃しましょう」
渋々といった感じだがとりあえず怒りの矛を収めてくれたようで、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「──ですが。娘があなたに抱き着いていたことに関しては、まだ聞いていませんよ?」
「あ……」
だが、世の中そんなに甘くないとすぐに叩きつけられる。
そうだった……そもそもこんな状況に陥っていたのは、あまなちゃんが俺の脚に抱き着いていたところを、よりにもよって母親の南さんに目撃されたからなんだった。
彼女がとりあえず認めてくれたのは俺の身元だけで、抱き着かれていたことに対する話は一切してなかったわ……。
背中に冷や汗が流れて行くのを感じながら、俺は嘘偽りなくあまなちゃんとの関係を吐くことにした。
「えっと、その……俺と娘さんは、配達を繰り返している内に、友達になりまして──」
「へぇ……友達、ですか……」
うわぁ、正直に話したのに『信じられるわけないだろ』って目が冷然と訴えてる。
そりゃそうだよなぁ……どう見ても自分と同い年か上くらいの大人が、小学1年生の娘と友達なんですって言われても信じられないよなぁ……。
あまなちゃんの同級生達にあっさり信じられたから、思いっ切り油断していた。
大人と子供の区別すらつかないバカ丸出しじゃねぇかと、ほとほと自分に呆れるばかりだ。
「ママ、うそじゃないよ? あまなとおにーさんはおともだちなんだよ!」
「え?」
母親の手を引いて、目を合わせてあまなちゃんがそう答えてくれた。
まさか娘から相手を擁護するような言葉が出て来ると思っていなかったのか、南さんは瑠璃色の瞳を見開いて驚いた様子だ。
「──っ」
「う……」
キッと『何人の娘を誑かしてんだ』と怨嗟とも取れる激しい怒りを含んだ眼差しで睨まれ、俺は息を詰まらせてしまう。
けれども、あまなちゃんとは本当に友達だし、誑かした覚えも一切無い。
どちらかというと娘さんの方が、俺と仕事以上の関わりを持つ切っ掛けなんですけど……。
流石にそれを言っても信じられないくらいは理解出来るので、今は疚しいことはしてないし企んでいないと首を横に振るだけだ。
そんな俺の必死極まる懇願が届いたのか、南さんは瞑目して額に手を置いた。
仕事帰りだというのに、娘が自分の知らない大人……それも男と友達になっていたと知って、だいぶ心に着ているようだな……。
「……重ねて尋ねますが、娘に対して疚しい目的があったわけではないのですね?」
「ないですって……。第一、そんな考えを持つ程、自分の仕事に誇りがないわけじゃないですから」
ひょんなことから客以上の接点を持つことになったが、なんだかんだ辛いあの仕事に対してそう言える程度には元気をもらっている。
南家以外にも配達先はたくさんあるが、ここの存在が大きな支えになっていることは確かだ。
「ママ、おにーさんはわるいひとじゃないよ?」
「天那はまだ──いえ、そうみたいですね……」
今もなお疑問の余地を許さない様子の南さんに、娘のあまなちゃんがさらに続けてくれた。
一瞬、娘がまだ小学1年生であることを理由に否定しそうになったが、幼いながらも人を見る目があるように思える我が子のことを免じてか、否定を口にせず聞き入れたようだ。
「天那。そろそろ晩御飯にするから、お家に入っていて下さい」
「うん! じゃあね、おにーさん!」
「あ、あぁ……」
母親の言葉を素直に受けたあまなちゃんは、俺に挨拶をしてから自宅へと入って行った。
一方の俺は、南さんからまだ話があることを察していたため、曖昧気味な返事がやっとだ。
あまなちゃんが居なくなるや否や、彼女は俺に手の平を差し出して来た。
「な、なんですか?」
「あなたは宅配員なのでしょう? 勤務後に私に連絡出来るように互いの連絡先を交換しておこうと思いまして」
「えっ!?」
その提案に、俺の心に嬉しさと恐怖が入り混じったことは許してほしい。
何せ、子持ちとはいえ相手は美人な女性だ。
そんな相手と連絡先が好感出来るなんて嬉しいに決まっている。
……の、はずなんだが同時に恐怖を感じたのは、彼女が俺に対して何らかの釘を刺すためと分かったからだ。
「もちろん、職場の連絡先ではなくあなた個人のモノですよ?」
「わ、解ってますって……」
もちろん現状の俺に断る権利などあるはずも無く、その申し出を受ける以外の選択肢はなかった。
「では、仕事が終わり次第連絡を下さい。あ、ちなみに連絡先を交換しますが、不用意なメールはハッキリ言って不愉快です」
「しないですってば……」
もしかしなくても完全に嫌われてるな、これは……。
本気で不愉快に満ちた表情から、そう容易に読み取れた。
何も彼女に好かれたいわけでもないから、そんなつもりは微塵もないのだが……言っても信じられなさそうだ。
あぁ、この仕事に就いてこれ程までに、仕事が終わってほしくない日が来るとは思わなかったなぁ……。
そんな気持ちを抱えたまま、俺は残りの配達をこなすのだった。
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