おぉ、ついに出会ってしまったか ☆
あまなちゃんとその友人達の宿題を見た数日後の金曜日。
今日も今日とて配達日和である。
日乃本部長から珍しくお褒めの言葉を貰うくらいには順調で、副賞としてさらに配達量が増えたぜコンチクショー!!
まぁ、堺からは自分を労ってもらったお返しってことで、ある程度時間に余裕を作ってくれたし、三弥からもあまなちゃんに存分に癒してもらえるように頑張れと励まされた。
実際、それを励みにこうして仕事に力が入っているわけだし、三弥の言っていることは間違っていない。
それにしても、あまなちゃんにお返しとして勉強を見るはずが、結局俺がまた助けられる形になっちゃったなぁ……。
あの『いたいのいたいのとんでけ』は、ぶっちゃけ小さい頃に母さんからされた時より、凄まじい効果があったけど……あれはあまなちゃんがやったからこそって部分が大きいかもしれない。
母さんのが駄目だったわけじゃないんだ……。
あまなちゃんが持つ人を癒す才能がずば抜けていただけなんだ……。
なんて振り返れば馬鹿馬鹿しいことを考えつつ、いつもの『エブリースマイルの184号室』へと辿り着いた。
今日はいつもより遅くなってしまったが、まぁ配送時間にはあまなちゃんが帰って来てるから、何気に留守だったことはないんだけどな。
インターホンを押し、聞きなれ始めた軽快な音が外と中に同時になり響く。
『は~い!』
「こんにちはー。ウミネコ運送でーす」
『いまいきまーす!』
相も変わらず元気な声に胸が温かくなるのを感じていると、すぐに玄関のドアが開かれた。
今日のあまなちゃんは髪をツインテールに結んでいて、ピンクのTシャツにジーンズのスカートという格好だ。
「こんにちは、おにーさん!」
「こんにちは、あまなちゃん」
そうして俺の姿をみるや、彼女は愛らしい笑みを浮かべて挨拶をして来る。
見た人を癒してくれる笑顔を向けられ、表情筋がだらしなくなるのを堪えながら挨拶を返して、先に仕事を済ませることにした。
「じゃあ、ここに受け取り印を」
「うん!」
小さな手に握られた判子を押して、荷物の受け取り完了っと。
靴を見る限り、今日ははすみちゃん達はいないみたいだ。
しかしいつも思うが、あまなちゃんって学校が終わっても母親が帰って来るまで一人なんだよなぁ。
小学1年生だからまだ親に甘えてもいい年頃なのに、寂しいのを我慢して一人で留守番をして……健気にも程があるというかなんというか……。
そう思ったせいだろう。
「……あまなちゃん」
「ん?」
「一人で留守番をしてて、寂しくないのか?」
「え……?」
思わずそんな問いを零してしまった。
慌てて手で口を塞ぐが、あまなちゃんの耳にはしっかり入ってしまっていたようで、彼女は目を丸めて呆けている。
言い訳をしようにもどう言えばいいのか、混乱した頭で適切な言葉が出て来るはずもなく、しどろもどろになっている内に……。
「ママがおしごとをがんばってるのは、あまなのためだってしってるもん。さびしいけど、ママをこまらせるのはさびしーのよりイヤだから、あまなはがまんするってきめたの」
「──っ」
眉を八の字にして苦笑いを浮かべながら、そう答える。
目の前のこの子はまだ小さいはずなのに、自分の行動がどういう影響を及ぼすのかをキチンと弁えていた。
俺があまなちゃんと同じ歳だった頃は、それはもうワガママを言いまくっていたというのに……。
物分りが良いとは言うが、それは裏を返せば自分の欲を抑えることに長けているとも言えるだろう。
まだ……7歳になったかもわからない女の子が、だ。
「──でもね!」
「うおっ!?」
そんな大人びた理解力を示したあまなちゃんは、一転して明るい笑顔になった後に、俺の足に飛び付いて来た。
空気を読まずにいきなりなんなんだと訝しむが……。
「さいきんは、おにーさんがあまなとあそんでくれるから、さびしーのもへっちゃらなんだよ!」
「……そうか」
満面の笑みを向けてそう告げたあまなちゃんの言葉に、俺は無性に胸が締め付けられた。
それは悲しみなんかじゃなくて、図らずも彼女の支えになれていたと実感した喜びだ。
(あぁ、ホントにバカだなぁ、俺……)
そう思わずにいられない。
ずっとお礼をしないとって思っていたら、実は一緒の時間を過ごしているだけで、あまなちゃんにとってお礼になっていたんだから。
そんな簡単なことで良かったんだと、呆れを通り越してむしろあまなちゃんらしいと感心する程だ。
──歳が離れているとはいえ、友達として接するだけでいい。
これが幼いあの子への恩返しになる。
「──俺も、あまなちゃんと一緒の時間が楽しみだから、辛い仕事も頑張れるよ」
「やったぁっ、おそろいだー! えへへ♪」
膝をついてしゃがみ、あまなちゃんの小さな頭を撫でる。
俺の気持ちを知った彼女の表情は、太陽と見間違う程に溌剌とした眩しい笑顔になった。
それはもう、つられて俺も自然と笑顔になるくらいのだ。
そうやってお互いに笑い掛けて…………。
「──
不意に、凛とした綺麗な声が聞こえた。
「え、だれ──ッ!?」
反射的に声がした方向に顔を向けて、俺は息を詰まらせた。
何せ、声の主がモデルかと思える程に美人な女性だったからだ。
そして若い。
少なくとも俺より年下だと判るくらいには若い女性だ。
濃い目の茶髪を腰に届く長さまで伸ばし、瑠璃色の瞳は驚きからか丸く見開かれている。
格好は紺のジャケットと白のカッターシャツ、ジャケットと同色のタイトスカートに黒タイツと、一目でOLと判る装いだ。
時間帯的に仕事帰りだろう、手には道中で買ったであろうレジ袋が握られていた。
「えっと……どちらさまで?」
「──っ、それは、こちらのセリフです!!」
「うおっ!?」
突然の乱入者に質問すると、彼女は目の色を変えて怒りと焦燥を交えた怒号を飛ばして来た。
「一体何を考えているのですか!? 警察に通報されたくなければ、早くその子から離れて下さい!」
「ちょちょちょちょっ!? 待って待って、これは誤解で何も疾しいことは──」
「不審者はみな、そう言うに決まっています! 御託は結構ですのでいい加減動いてくれませんか!?」
そのまま女性はツカツカと俺に詰め寄り、青筋を浮かべて激しい剣幕で正論を飛ばして来た。
俺は『通報』という言葉で完全に怖気づいてしまい、咄嗟に弁明しようとしたが相手は聞く耳持たずといった様子で、にべもなく責めたてられる。
すると、俺の足にくっついていたあまなちゃんが女性に顔を向けるや否や……。
「あ!
「へっ!?」
明るい表情でそう女性に抱き着いて行った。
ママ……、え、マジで!?
この人がそうなのかっ!?
いやいやとても経産婦には見えない若さだっての!!
俺がそんな動揺に包まれる中、女性はあまなちゃんに軽く笑みを向けたが、俺に対しては猜疑心剥き出しの眼差しを向けたまま口を開く。
「何を驚いているのかは、まぁ大抵の察しは尽きます。……ですが、親が子を守ろうとするのは当然の義務ですよ」
この若い女性が、ずっと気になっていたあまなちゃんの母親……。
あぁ、そうだ。
能々考えれば、俺がいつも配達している荷物の受取人欄に、この人の名前が記載されているじゃねえか。
そう、確か…………。
──
それが目の前にいる女性の名前だと、俺は頭の片隅でフッと思い出していた。
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本エピソードの挿し絵を近況ノートに載せています。
↓近況ノートURL↓
https://kakuyomu.jp/users/aono0811/news/16817330664798329918
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