愛でたいと思うだけで、断じてロリコンではない!
火曜日。
あまなちゃんと出会って、早いものでもう3週間目だ。
ここ最近は調子が良いのもあって、時間が早く過ぎたような気もする。
三弥もあまなちゃんに癒されたことで調子が出ているし、忙しいのは変わりなくてもモチベーションが桁違いになっていた。
あの子も三弥のことを気に入っているし、もしまたタイミングが合えば会わせてもいいかもしれない。
それはそれとて、火曜日の今日はあまなちゃんに会える日だ。
思えばお礼はしても俺自身が彼女の助けになったことはないと気付いた。
今日は配達分も比較的少なめだし、勉強の手伝いとかしてみようか。
小学1年生が習う範囲で教えるも何もない気がするが、それでもあの子のために何かしたいという気持ちは確かだ。
そんな秘めたる決意を胸に、今日も『エブリースマイル184号室』のインターホンを押す。
「ウミネコ運送でーす」
『はーい、いまでまーす!』
いつもの良い返事が聞こえて程なく、玄関のドアが開かれた。
「おにーさん、こんにちは!」
「こんにちは、あまなちゃん」
明るい茶髪をストレートに降ろして赤いカチューシャを着け、白い生地にピンクと水色の花柄があしらわれたワンピースという、普段よりちょっぴり大人びた装いのあまなちゃんに挨拶をする。
正直、可愛すぎて心臓止まるかと思った。
なにこれ?
普通にしているだけで天使なあまなちゃんを、さらに可愛くするとかそれなんてイリュージョン?
あまなちゃんのお母さん、グッジョブ!
そう心の中で、未だ会ったことのない人へサムズアップを送る。
あまなちゃんを産んでくれてありがとうも伝えないと……あ、ダメだセクハラになるわ。
「おにーさん、ぼーっとしてどーしたの?」
「え、あぁいや。なんでもないよ」
いかんいかん、バカなこと考えてあまなちゃんに心配されてしまった。
気を取り直して仕事に取り掛かろう。
「はい、ハンコ!」
「ありがとう。で、実はあまなちゃんにお話があるんだけど、良いかな?」
「なーにー?」
「友達としてあまなちゃんの宿題を手伝いたいんだけど、どうかな?」
「え、しゅくだいのおてつだい?」
そうして受け取り印の判子を貰い、俺はあまなちゃんに今までのお返しに勉強を観ようかと提案を口に出すと、彼女はキョトンと首を傾げて聞き返して来た。
仕草が可愛くて軽く心臓が射抜かれたが、平静を装って続ける。
「おしごとちゅーなのに、いいの?」
「今日は仕事に余裕があるから一時間くらいは見れるよ。もちろん、あまなちゃんが嫌だって言うなら無理強いはしないけど……どうかな?」
「えーっと、ちょっとまってて!」
そう言ってあまなちゃんは廊下の奥へと戻って行った。
母親に連絡でもするのかな?
というか今更になって、自分の提案が南家に足を踏み入れることになると気付いたんだが。
過去最大の記録は玄関に座った程度だし。
やっべぇ、どうしよう……全くそんな意図はなかったのに背徳感が込み上げて来た……。
かといって引き下がるのもなぁ……期待させて裏切ることになるし、あの子の悲しむカオなんて見たくない。
あれ、これ詰んでね?
「おにーさん、おまたせー!」
袋小路にぶつかって解決策が見いだせないまま、やがてあまなちゃんが戻って来てしまった。
それも一切の疑惑を抱いていない明るい笑みを浮かべて。
余計に罪悪感が募ったのは言わずもがなだ。
そんな俺の不安を知ってか知らずか、あまなちゃんは頭をペコリと行儀よく下げて……。
「おにーさん、おべんきょーのおてつだいおねがいします!」
「お、おおっ! 任せとけ!」
oh……狙い通りにこの子の助けになれるはずなのに、どうしてこうも胸が重いのだろうか……。
ええい、疚しいことを考えるから変に罪悪感が積み重なっていくんだ!
もうここまで来たら堂々としよう!!
半ばヤケクソになりながら、俺は笑みを保りながらあまなちゃんに手を引かれて、南家へ足を踏み入れる。
もうこの時点で記録更新しちゃったよ。
そして今もなお更新中だ。
なんて考えている内に、廊下の奥にいつも見えていたリビングのドアが開かれて……。
「お、あまっちが戻ってきたっす」
「おにーさんが、あまなちゃんの言っていた大人の友だちなのね!」
「こ、こん、にちは……」
リビングには3人の幼女がいた。
あまなちゃんを含めたら4人か。
類は友を呼ぶと言うべきか、みんな大変可愛らしい。
出来るなら、この4人の仲睦まじい様子をずっと眺められる壁になりたいと思えた。
なお、目で見て愛でたいだけであって、断じてロリコンではないことを付け足しておく。
というかこれかなりやばい状況なのでは?
俺はてっきり、あまなちゃんは母親に電話で許可を取ったものだと思っていたが、実際には一緒に宿題中だった友達の許可を取りに行っていた。
いくら信用されているとはいえ、流石に無防備過ぎる気がするぞ……。
「この人が、あまなのおともだちの、さがわやまとおにーさんだよ!」
「ど、ども……」
そのあまなちゃん本人は、悪気の無いどこか自慢する様な笑みを浮かべながら、俺を同級生達に紹介した。
4人の幼女と同じ部屋の空気を吸う今年26歳の俺……明らかに場違い感しかしない。
もう今にも防犯ブザーが鳴らされても不思議じゃないよな。
「あまっちにこんな大人の友だちがいるなんて知らなかったっす。あ、ウチは『にしやまはすみ』っす!」
最初に挨拶をして来たはすみちゃんは、明るい笑みで以って名乗る。
藍色っぽい黒髪のサイドテールに白のタンクトップとジーンズのショートパンツという、まだ4月なのに季節を先取りした格好だった。
口調も併せるとあまなちゃん以上にバイタリティに溢れている子だと分かる。
「アタシは『
次に声を掛けて来たちゆりちゃんは、やけに自信たっぷりな様子で挨拶をして来た。
茜色に近い長い茶髪に眼鏡を掛けていて、薄緑のブラウスにオレンジの花柄模様のサロペットスカートという格好だ。
「えと、あの……『ひがしのかな』……です……」
最後の女の子──かなちゃんは、ハーフなのかボブカットの長さで切り揃えられた金髪と碧眼が目を引いた。
黄色のシャツにピンクのカーディガンとベージュのロングスカートと、あまなちゃん達4人の中では一番大人しい様子もあって、正直庇護欲を掻き立てられるタイプの子だ。
「えーっと、早川和だ。よろしくな?」
「「「はーい!!(は、はい……)」」」
出来るだけ怖がらせないように笑みを向けて改めて名乗ると、気の良い返事が返って来た。
ちょっとだけ学校の先生になった気分だ。
これから小学生達の宿題を手伝うんだし、ある意味間違ってはいないかもしれない。
「はい! しつもんよ!」
「お、早速か。何かな?」
自己紹介も済んだところで、ちゆりちゃんが綺麗な挙手で以って質問する。
何を教えて欲しいのかと耳をすまし……。
「おにーさんは『ろりこん』なの?」
「──ぅぼぁ……」
死刑判決を言い渡されたような質問に、俺は目の前が真っ暗になった。
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