癒しチャージ→和は元気になった!


 3日後の金曜日。

 この日を励みに必死に追加分の配送をこなして来た俺は、自分でも驚くくらいに効率的に働けたと自負する。

 一応給料がプラスに働いたけど、その分仕事がまた増えた。

 余裕が出来たらそこに仕事の予定を作られたと言えば、どれだけエグイか分かるだろう。

 

 たった3日ですっかり荒んだ俺の心と体は、あまなちゃんから齎される癒しを求めて止まなかった。

 言い回しに若干どころかかなり語弊があるが、俺は別にロリコンではない。

 俺を癒してくれる存在が、偶々あまなちゃんという幼女だっただけだ。


 え、ロリコンは大体みんなそう言う?

 ちち、ちげーし!

 俺、ロリコンじゃねーし!

 

 なんて一人漫才でギリギリ平静を保ちつつ、3日ぶりの184号室に辿り着いた。

 

 インターホンを押して10秒もしないうちに、あまなちゃんから応答があり、すぐにドアが開いた。


「こんにちわ、おにーさん!」

「こんにちわ、あまなちゃん」


 俺と目を合わせて、ニッコリと笑顔で挨拶をするあまなちゃんに、挨拶を返す。

 今日の髪型はポニーテールだ。

 花柄のシャツとジーンズのスカートも相まって、相変わらず可愛らしい。


「きょーもごくろーさまです!」


 これだよ、これ。

 配達先で『ありがとうございます』って言われることはあっても、『ご苦労様です』って言ってくれるのとは大違いだ。

 無意識かどうかはわからないが、あまなちゃんの優しさが疲れた心身に癒しをくれる。


 もうこれが無いと生きていけないと確信出来る程に、その癒しが五臓六腑に染み渡っていく。


「はい、ここに判子お願いね」

「はーい!」


 元気よくポンッと受け取り印を押してくれた。

 前回と同じく玄関の一角に荷物を置き、グッと背伸びをする。


「おにーさん、またつかれてるの?」

「あぁ、ちょっと重い荷物を持つことが多くなってね、肩が凝ってるんだ。でもあまなちゃんに会えたから、また頑張れそうだよ」

「ほんと? あまなもおにーさんにあえてうれしー!」


 俺、その10倍は嬉しい自信あるわ。

 この子の笑顔を見るだけで、疲れがぶっ飛ぶ感覚だからな。

 そうしみじみと実感出来る。


「う~んっと、う~んっと……」


 ふと、あまなちゃんは目を閉じて腕を組み、何やら思案する顔になりだした。

 一生懸命に頭を悩ませているその様子に、微笑ましさから頬が緩むのが分かる。

 

 だって可愛いし。


 なんて考えている内にあまなちゃんはパチッと目を開いて、作業着の袖を引き始めた。


「あのね、こっちにすわって?」

「ん? あぁ、いいぞ」


 何故か玄関のフローリング部分──上がりかまちを指差すあまなちゃんに従い、俺はそこに腰を掛ける。

 

 次の配達まではまだ余裕があるし、あまなちゃんの更なる癒しを受けられるならお安いご用だ。

 というか、他人様の家の玄関に座っちゃったけど、あまなちゃんがいいのならいいのか?

 

 なんて疑問に思ってると、あまなちゃんはいそいそと靴を脱いでから玄関を上がって俺の後ろに回り──。


「トントン♪ トントン♪」

「お、おぉっ!!?」


 小さな手で握り拳を作り、擬音を口ずさみながら肩叩きをしてくれた。

 女子小学生故に力は強くないが、リズムを刻む可愛い声と肩叩きというシチュエーションそのものに、俺は深く感動した。


「どーですか?」

「──あぁ、あまなちゃん、上手だね」

「ほんと? ママもじょーずだねってほめてくれるんだよ!」

 

 俺、あまなちゃんのお母さんと絶対に仲良くなれる自信あるわ。

 みてみろよ、ほら……俺の肩をさ、あの小さい手で一生懸命に叩いてくれてるんだぞ?

 無理無理アカンアカン。

 尊みが深すぎて、肩凝りとかもうどうでもいい。


 むしろあまなちゃんの手が肩に触れる度に、やる気とか生きる活力というか、そういったプラスの感情がみるみるうちに漲って来てる。


 ──もう何も怖くない。


 そう確信出来た。

 何やら死亡フラグみたいな感想が浮かんだが、丁度良い機会だと思いあることを尋ねてみることにする。


「そういえば、あまなちゃんのお母さんはどんな人なんだ?」

「ママ? すっごくキレーだよ!」

「ほぉ~」


 こう言ってはなんだが、あまなちゃんは小学1年生の女子にしてはかなりの美少女だ。

 そんな将来有望な彼女の母親となれば、既婚者で子持ち相手に不謹慎ではあるが期待してしまっても仕方ない。


「あまなちゃんはお母さんが大好きなのか?」

「うん! だいすきー!」


 こんなに純粋なあまなちゃんという娘がいる時点で、良い母親なのは容易に理解出来る。


 だが、あまなちゃんと知り合ってまだ一週間も経っていないが、『食材宅配サービス』を利用していることを考えると少し込み入った事情があるのではと勘繰ってしまう。


 学校が終わった夕方の今、肩叩きをされているのにも関わらず廊下の奥にあるリビングから誰も出て来ないということ、玄関に一目であまなちゃんのものだと分かる小さい靴しかないことから、恐らく共働きかシングルマザーなのかもしれない。


 まぁ、そんな予想は後回しにするとして、今はこの肩叩きを存分に味合わないとだ。

 だが悲しいかな。

 俺はいつまでもこうしていたかったがそろそろ次の配達の時間が迫っていることと、あまなちゃん本人が疲れてしまったことで、天国の肩叩きタイムは終わりを告げた。


 改めてお礼を言うと、あまなちゃんは笑顔で『どーいたしまして!』と返してくれた。

 子供らしく、元気の回復はかなり早いようで安心した。 


「ありがとうあまなちゃん。おかげで肩が軽くなったよ」

「えへへ、どーいたしまして!」


 肩を回して加減を確かめると、本当に肩が軽くなっている。

 筋肉的な疲労もだが、精神的な要因もあったのだろう。


 俺が元気になったことに、あまなちゃんも自分の事のように嬉しそうだった。


 顔を合わせるだけで満足だったが、肩叩きまでしてもらうことになるとは……。

 これはいよいよお返しを考えないといけないかもしれないな。


 俺は心の中でそう密かにお返し作戦を立てるのだった。


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