第18話 ご飯と花火と
「今日はピーマンと椎茸とナスの肉詰めとお、ほうれん草の胡麻和え、きゅうりの浅漬けと、炊き込みご飯とお。あとおナスが少し余りそうなのよねえ……」
「ナスの肉味噌炒めなんてどうですか?」
夕方、ビターとブラックの部屋で遊んでいたぼくたちを、というかぼくをお母さんが呼びにきた。ぼくの腕の見せ所だぞ、お世話になるんだから頑張ろうと腕まくりをするものの袖口が広くてすぐにおりてきちゃうのを、お母さんが白い紐でくるくるーってしてくれた。おお、すごい! お母さん自身も割烹着を着ててこれから料理するよ! って感じだった。
さっそく厨房。
浅漬けとご飯の仕込みは終わっているらしく、あとは肉詰め、胡麻和え、最後のナスがどうしようと悩んでいるところだったらしい。なんでも肉詰めにしようと思ってたら案外ひき肉が足りなさそうで、切ってしまった為どうするか悩んでいたらしい。
ぼくは頼まれたピーマンの種取りを背が足りないため、台に乗ってシンクのところでこなしながら口を開いた。
「それかナスの生姜焼きか、生のナスを細く切って味の素をかけてお醤油で食べたり。あ、汁物がないのでお味噌汁に入れて最後にごま油入れるとさらにおいしいですよ!」
「はー、よく知ってるのねえ。ブラック、ビターどれがいいかしらあ?」
「え?」
「「……味噌汁」」
「いつもは台所になんて寄り付かないのに、よっぽどヒーロくんが見たかったのねえ」
突然ブラックとビターの名前がお母さんの口から飛び出して、驚いてると。振り向いた先には台所の紺色の暖簾を持ち上げてばつが悪そうにこちらを伺っている2人がいた。ホワイトは? と無意識に口に出すと、なにやら台所への立ち入り禁止例が出ているらしくそれこそ近寄らないように言われてるらしい。僕が見たかったってどういうこと? 疑問ながらもそれは口に出さずにピーマンの種取りを終わらせて、ナスを切る。包丁を持った瞬間、2人が台所に入ろうとしたが、お母さんのひと睨みで止まる。そわそわしながらも見守っててくれるのは嬉しいんだけどべつにぼく包丁くらい平気だからね?
「お味噌汁でいいんですか?」
「そうねえ、お願いできるう? 冷蔵庫の野菜はなに使ってもいいからあ」
「はい!」
余ったナスを、ジグザグに三角になるように切る。こうすると味がしみやすくておいしいんだ。それから人参を薄く切って火が通りやすいようにして。お母さんが肉詰めを焼いてる横でお味噌汁を作る。
火にかけてすぐにだしの素とナスと人参を入れて、2つが柔らかくなってきたらもやしを投入。ぼくはしゃきしゃき食感の方が好きだから最後に入れたけど良かったかな? 数分煮立たせてから味噌をといて最後にごま油を適量入れる。あたりにごま油独特の香ばしい香りがふわりと広がる。最後に味見をして、ちょっと味噌の調整をしたらはい、出来上がり。
と思ったらお母さんがぼくの方を見てた。なにかな? と思って首をかしげると、味見皿を差し出してくるからそこに少しだけお味噌汁をよそって渡す。こくりと飲んでもらって、だ、だめかなとどきどきしてると。花が咲いたような綺麗な笑みで「美味しいわあ」と言ってくれたので胸をなでおろした。……でも何回もおかわりしようとするのを防ぐのは案外大変だった。
夕飯で味噌汁は結構好評だった。ビターもブラックもおかわりしてくれたし。ごま油を入れるのが珍しかったらしく、すごく褒められてホワイトと双子に頭撫で撫でたくさんしてもらった。髪の毛はぐしゃぐしゃになったけど、すごく嬉しかった。
ご飯のあと、少しホワイトの姿が見えないなと思ったら。
「潤ー、花火やるわよ!!」
花火の準備をしていてくれたらしい。なんか色々準備してもらって悪いなあと思いぼくが謝れば。ホワイトは自信満々に胸を張って。
「若い衆にやらせたから大丈夫よ!」
「こいつ、若い衆パシリすぎだろ」
「ぼく、大きい花火は見たことあるけど手持ち花火ってはじめて!」
「手持ち花火もなかなかいいものだよ」
と思ったらまた活躍してくれたのは若い衆さんらしい。ありがとうございます、心の中で唱えつつ。呆れた目でホワイトを見ているビターはともかく、ブラックにはじめての経験だと自己申告したぼくに。ブラックは笑いながらろうそくで火をつけて、終わったら横にある水の入った缶のバケツに入れてねと言われる。手持ち花火ってそうやって遊ぶんだね! なんか変わってる! 返事をしようと思ったらホワイトが両手にいっぱい花火を持ちながら1つに火をつけて、もらい火をしてた。ああゆうのもいいのか。ホワイトの両手に持った花火が次々に赤や黄色オレンジに青に緑にと色を噴射して、ホワイトはくるくる回って楽しそうだった。色のついた台風みたいな感じ!
そしたらビターが近くに来て、こそっとぼくに耳打ちした。
「ヒーローはあーいう馬鹿な真似すんなよ?」
「危ないからね、やめといたほうがいいよ?」
「ってかあのゴリラ花火半分以上持って行きやがった……!」
ビターがヤンキー座り? って陛下は言ってたけど、そんな座り方をして。まだ未使用の花火が入っている方のバケツの中をのぞく。その後ろにカラフルな色を両手に携えながらぬらりと現れたのはホワイトだった。
「だああれが、ゴリラですってえええええ!?」
「ばっか、花火こっちに向けんな!!」
「ヒーロー、ああいう行為は危ないから絶対しちゃダメだよ」
「はーい!」
ホワイトがビターに向かって走りながら花火を噴射してるのを眺めながら、ブラックに危ないからやらないようにと言われていたぼくは、素直に返事をした。ビターは逃げ回ってた。
初の手持ち花火にどきどきしながら、ろうそくで火をつけると、しゃーと音を立てて火花が噴出される。僕がとったのは火花の色が変わる花火だったみたいで、だんだんと色が変わっていくのが面白かった。他にもいろんな花火を試して、最後は線香花火をした。
ろうそくにちょっとだけ火をつけて、じっとしてるといいよというブラックのアドバイスで屈みこんで花火の先の火の玉を見ていると。誰かが横に来た。
「ヒーロー、全くひでえめにあったぜ」
「ビターはホワイトに突っかかりすぎなんだよう」
「反応が面白くて、ついな」
「あー、わかるかも」
いっつも全力って感じだよね。とぱちぱち音を立てながら花のように火花を散らす線香花火。そろそろ落ちそうに火の玉が揺れたところで、ビターがぼくの腕を引いた。何かと思って顔を上げたぼくの唇とビターの唇がくっついたのと、涼やかな風鈴がなにかを知らせるように音を立てたのは同時で。
結構長い間どこか涙に濡れたようにしっとりとくっついていたような気がしたけど、ゆっくり離れた時に火の玉がぽとりと落ちたのを見たから時間はそんなに経ってなかったらしい。
そんなぼくたちには気づかなかったようにホワイトが今度はブラックを追い回してたから、あわてて止めに行った。その後ろで、くははっと力なく笑ったビターがくしゃりとオールバックになりきれない前髪を悲しそうにうつむいて掴んでいたことを、ぼくは気づかないふりをした。
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