第17話 スイカ割りをしようね?

 スイカ割りは始まった。

 まず、先頭バッターとして、ブラックから。


「ブラック、右、みぎー」

「ブラック、もうちょっと右! ……いえ、やっぱり左よ! そのまままっすぐ!」

「おいホワイト! お前俺のこと殴らせようとしてるんじゃねえだろうな!? ブラックこっちじゃねえ! ホワイトの方いけ!」

「そのホワイトがどっちにいるのかわからないんだけどね!?」


 ぼくはスイカを割るつもりで指示を出してたのに、なぜか右でよかったはずのところをホワイトが左とか言い出して。そっちにはビターしかいないのになんでだろうと思ったらビターを割るつもりだったらしい。流石にブラックもそんなことはできないと思ったのか、焦ったビターの声に目隠しを外したから、ブラックの番は終わった。


 次、ビター。

 スイカから100メートルくらい離れたところから始まって。まるでスイカが見えてるようにすたすた歩きながら右にあるスイカを割ろうと___。


「ホワイト危ない!」

「え? はあ!?」


 しなかった。むしろホワイト一直線に棒を振るったところで、ホワイトが空中でその棒をつかんだ。思わずホワイトに危ない! と叫んだがその行動には危なさのかけらもなくて。

 なにも声を出さなかったブラックを見れば、いつものことだよと言わんばかりに苦笑していた。いいの? これで? ちっと舌打ちしたビターが目隠しをずらして、ビターの番は終わった。


 次、ホワイトの番。

 ひゅおっと鋭い音がして、なにか白いものがビターの頬の横をすり抜けた。


「「「!?」」」

「あら、残念だわ」

「てめえ、ホワイト」


 それは棒で、信じられないことに先端が尖ってるわけでもないのに木でできた塀に突き刺さってた。ひえっと震えていれば、ブラックが手を握ってくれるけどブラックの手も震えてた。こわいよね!? こわいよね!?

 可愛らしい声で「残念だ」と言ったホワイトに、ビターが立ち上がった瞬間。ホワイトは走り出して突き刺さってる棒を抜き取ると、そのままスイカ割りならぬビター割りでもするかのように走って逃げ始めたビターを追いかけ回し始めた。スイカそっちのけだ。

 ぽかんと口を開けていれば、現実に引き戻すように縁側に飾られた風鈴が音を立てる。未だに走り続けている2人に、どうしようかとブラックを見れば。

 ほっぺたにちゅーされて、そのまま涼しげな音のもとでき、き、きす、もされた。ぼく、いま顔が真っ赤だと思う。怒鳴り合い罵り合いながら逃げ回り追いかけ回してる2人とは隔絶した空間で。ぼくはブラックに抱っこされていたのだった。っていうかあの2人はあのままでいいの? ホワイトは目隠ししてるのによく追いかけられるなとか色々思ったけど、恥ずかしいけど嬉しくてブラックにすがりつき顔を隠していたぼくにはどうでもいいことだった。

 それからしばらくして。


「ブラック!! てめえ共有同盟どうしたああ!!」

「ブラックいいわよ、そのまま潤といちゃいちゃしてなさい。あたしはこいつ片付けるわ!」

「ふぇ、い、いちゃいちゃなんて……その、照れちゃう」

「「「あっとうてきにかわいい」」」


 ぼくとブラックに気づいたビターがこっちに走ってきて、胸ぐらをつかむ勢いでブラックに詰め寄ってたけど。ぼくがいちゃいちゃしてるなんて照れちゃうといえば3人とも目元を覆ってなんか呟いてたけど、照れ照れしてたぼくには聞こえなかった。だって「いちゃいちゃしてる」なんて、恋人同士っぽくってぼく言われたことないよ!

 その目元を覆った時に、棒を落としたからホワイトの番は終わりになって。


 最後はぼくの番!


 ビターに目隠しをしてもらって、ブラックかな? 棒を持たせてもらって。100メートルくらい離れてそろそろと前に進む。


「潤、もうちょっと早く進んでも大丈夫よ」

「ヒーロー、もうちょっと右だぜ」

「ヒーロー行きすぎ行きすぎ、少し戻って」


 みんなの力を借りしばらくうろうろしたところで、ストップ! と言われたから思いっきり棒の先にあると思われるスイカに棒を振り下ろした。ホワイトが歓声をあげてくれているのが声でわかる。よし、いくぞ! と決意して。


 ぽこん。


「わーい、やったよ! ぼく、スイカ割ったよ!」


 一瞬場が静まり返った。なにかあったのかな? 手応えはあったからスイカは割れたと思うんだけど。確かめたいけど、目隠しは案外頑丈に縛ってあってなかなか取れない。


「潤、ちょっと棒貸して」

「ホワイト? どこ? いいよ」

「ありがと」


 ばきゃっ。ものすごい音がしてなにかが割れる? 折れる? 音がした。心の中ですくみ上がりつつも、誰かが目隠しを解いてくれて。その先には。

 綺麗に割れてるスイカがあった。

 自分でも顔が緩むのがわかるくらい満面の笑みを浮かべてブラックたちがいる方を振り向けば。なぜかブラックとビターが顔を青くしてて、ホワイトだけが拍手してくれた。その手には棒と目隠しがあったから、ホワイトが外してくれたみたい。


「ぼくやったよ! スイカ、割れた! みんなで食べよ!」


 割れたスイカからにじみ出てきた果汁で汚れた足を洗いたいなぁと呟けば、ちょっと待っててとホワイトがホースを持ってきてくれて。

 それで足を洗ってから、縁側に腰掛け一応ホースの水でスイカを洗ってからビター、ぼく、ブラック、ホワイトの順で並んで食べた。ほっぺたが落ちそうなほど甘くて、スイカの種は小さくて。すっごく美味しかった。さりげなくホワイトが1番大きなかけらをくれたのが嬉しかった。

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