第6話 パクったはぱくぱく?
それからはなぜか文化祭巡りのお誘いはなく。いや、別に待ってたわけじゃないんだけど。けどお誘いがないことに3人……特にホワイトが嬉しげだった。なぜに? と首を傾げたらビターとブラックから何とも言えない視線を頂いた。
ブラックとビターはなにか知ってるのかな? と思ったけど、そういえばブラックがあの時の先輩に「ぼくはブラックとまわる」って言ってたから、そういううわさが流れてるのかもしれない。でもブラックから誘われてるわけじゃないし……いや。1人でも文化祭なんてまわれるし、さみしくなんてないし! 強がりなんかじゃないよ! 鼻息も荒く、ぼくがこぶしを握っていると。これから始まる文化祭の準備のために机をどけていてくれたホワイトが首を傾げる。
「潤、どうかしたの?」
「ううん、別に1人でも文化祭はまわれるからいいもんねって思って」
「……ブラック、ビター。ちょっと集合。あ、潤は委員長のところに行ってあたしたちの担当時間とかやることとか聞いてきて」
「わかったー!」
「「……」」
「どういうことかきっちりかっちり説明してもらおうかしら?」
後ろの方でブラックとビターが顔を引きつらせながら、ホワイトに詰め寄られてたけどなんのことかわからないし。ぼくはぼくの仕事をしようと思って黒板のところで、担当の時間を話し合っている委員長のところに行ったのだった。
「委員長、ぼくたちなにすればいいの? 時間とかもう決まった?」
「ん? ああ、水花くんかい? ボクたちのクラスは休憩所ってことで決まっただろう? だから誰かがクラスにいる必要はないし、教室を飾り付けるだけなんだ。前日までに飾りつればいいから……そうだな、やること……。じゃあペーパーフラワーや折り紙で紙薔薇や花輪なんか作ってくれると嬉しいな、でもまだ買い出し組が帰ってきていないから帰ってきてからだけどね」
「担当時間はなしで、やることはお花造ったり花輪作ったりすることだね! ……じゃあ買い出し組が帰ってくるまで待ってればいい?」
「ああ、そうしてくれ」
どこか白さの抜けない、綺麗な女の子なのに王子様みたいな委員長。中等部までは女子校に通ってて、高校までは男子を見ることもなく育ったからこういう喋り方になっちゃったんだって。この子もぼくに文化祭のお誘いをしてくれた子だけど、それは好意とかじゃなくて。ぼくが留学生だから、って理由だったらしい。とりあえず言われたことは聞いて、3人のところに戻ろうと振り返ったら。
「こんのバカ2人がぁぁぁぁぁ!!」
とブラックとビターがホワイトに頭を叩かれてるところだった。
その叫び声に、ブラックはともかくビターという不良に対するまさかの行いにクラスメイト達の口が開きっぱなしになった。が、すぐにやったのはホワイト、ビターとも親しい人物だと考えたのかな? みんなはぎこちなく買い出し組が帰ってくるまでの談笑に戻ったり、友達とわいわい騒ぎだした。
っていうか、なにがあったんだろう? 3人のところに戻れば、ホワイトに抱きつかれる。というかのしかかる勢いだった。
「潤ー。大丈夫よ、文化祭、1人なんてことにはならないからねー」
「ホワイト、ヒーローから離れて」
「ヒーローから離れろメスゴリラ」
「その独占欲があってなんで誘えないのよ! というかビター! 誰がメスゴリラですってぇ!?」
「てめえだホワイトメスゴリラ!」
「そういうこと言ってると誘い方教えないわよ!」
「「すみませんでした」」
なぜかブラックも一緒になって謝ってたというか、ブラックがビターの後頭部を押さえつけながら一緒に頭下げてた。なにがあってこうなったの? というかブラックなにも暴言吐いてなかったと思うんだけど。にしてもあっさり謝りすぎでしょと考えつつ。その間ものしかかる感じに抱きつかれていたから正直背骨折れるかと思ったことは内緒だ。謝った途端に解放されて、ホワイトがビターとブラックの2人になにかを囁いた。かと思ったらぼくは頭を上げたブラックとビターの方に背中を押されて。つんのめりそうになりながら2人に支えてもらった。なにをするのかとホワイトを振り返ればしっしっと手のひらを振られあっちに行けのポーズをされた。え、なに? どういうこと? キャッチャーミス? 分からなくて、1人わたわたしていれば。
「行こうか、ヒーロー」
「行くぞヒーロー」
腕から手、手から指を当然のように絡めてきた2人に。教室から連れ出されたのだった。
ただ悲しいかな、ぼくの身長が足りなさ過ぎて、恋人つなぎで連れ去るというよりは中途半端な位置で手をぶら下げられていたから、借り物みたいになっていたけど。
「ねえねえ、どこ行くの?」
「んー? ちょっと人がいねえとこな」
「ヒーローとちょっとお話ししたいんだ」
階段を上りつつにっと悪く笑ってウインクしたビターと、天使のような笑顔でもう一度「お話ししたいだけなんだよ」と言ってくるブラックに。首を傾けながら「教室じゃだめなの?」と再度尋ねれば、2人ともちょっと困ったような顔になって。緩く首を横にふった。ダメらしい。
なら仕方ない、2人に黙ってついていけば。足を止めたのは屋上だった。でもこの時間帯って屋上の鍵閉められてるはずだけど……開放されるのはお昼休みだけだよね? と考えていれば、手を離したブラックがさりげなくポケットから取り出した鍵を使い簡単に開けちゃった。え、いいの? これ? 間抜けにもぼくがぽかんと口を開けていれば屈んだビターに耳元で囁かれる。
「ブラック、優等生面して職員室からパクった屋上の鍵コピーしたんだぜ。悪党だよなあ?」
「聞こえてるよ、ビター。おかげで屋上使いたいとき使えるんだからありがたく思ってよ」
「あー怖い怖い、ってどうした? ヒーロー」
「あのね、パクったってなに? ぱくぱくするの?」
「「……」」
両手を使い口のみたいにぱくぱくと動かして右手、左手を順に見てから2人を見上げれば。ブラックは屋上のドアに頭をくっつけてなにか呟いてたし、ビターは目元を片手で覆いながら黙り込んだ。
その反応で違うらしいとわかったぼくが、思わず恥ずかしくなって手を引っ込めて後ろでもじもじしていれば、急激な浮遊感。目を丸くして周りを見ていると、ブラックよりも高い位置にいて、側にはブラックと同じ顔のビターがいた。どうやら抱えあげられたらしいと気づく。
ぱくぱく? ぱくぱくがいけなかったの? と不安が顔に出たのだろう。ブラックとビターが。
「ヒーローはずっとそのままでいてね」
「ヒーローはずっとそのまんまでいろよな」
違う言葉で同じ意味のことを言われた。
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