第4話 倍率!!って叫ばれた
授業も終わって、クラスのみんながそれぞれ帰り支度をする中。ぼくたちは机をくっつけて棚におかれたホワイトがとってきてくれた反省文用紙1人5枚を前にうんうん唸っていた。
「ってか反省文なんて毎回毎回何書けばいいんだよ。スミマセンデシター以外にねえだろ」
「……それがわかってるなら毎回毎回反省文なんて書かされんじゃないわよ。まったく」
「しゃあねえだろうが。ムカつくもんはムカつくんだよ」
「っていうか別に殺したわけでもないのに反省文とかなんで書くの?」
「いや、殺したら反省文どころじゃないから、ヒーロー」
「潤の思考が殺伐としすぎててこわいわー」
「「まあすみませんでしたなんて思ってないけど」」
「思ってないんかい!」
所詮反省文なんて相手方が気にいるような言葉を並べておけば良いんじゃないかなと本音を漏らせば、ホワイトの頬が引きつった。だいたいこんなの真面目に書いたって先生が気に入らなければやり直しなんだから、ネットで検索して耳に触りの良い言葉を適当に並べておけば良いんだってうちの陛下も言ってた! と追加して言えば、ホワイトだけじゃなくてブラックもビターも引きつってた。
ホワイトに至っては「上に立つひとがそんなんで良いの!?」と呟いていたけど、いいのだ。だって彼女は絶対的悪でありぼくの正義だからね。
あーでもない、こうでもない。むしろなんで反省文なんか書かなきゃならねえんだ、突っかかってきたの向こうだろあなたの服装が乱れてなければ向こうだって絡んでこなかったわよ、ふふ2人とも落ち着いて聞いてよブラックー! ぼくいいこと考えた! これみて! ヒーロー天才かよ! ナイスアイディアよ! 何言ってるの!? さすがにダメだよヒーロー!!
もうビターとホワイトは睨み合うし、あわあわ2人を交互に見ているブラックは手を彷徨わせてるし。ぼくの反省文用紙に大きく1文字ずつ「す」「み」「ま」「せ」「ん」と計5枚を使って書くという天才的な案は却下されるし。ビターとホワイトは絶賛してくれたのに。ブラックだけが頭を抱えてた。
結局下校時間ぎりぎりまで粘ってなんとかネットでそれらしい反省文を探して丸写しするという作戦でいった。これもブラックはあんまり賛成じゃなかったけど。先生がいないときに書く反省文なんてこんなもんだよね! 次もこうしよう。まあ次なんてない方がいいんだけど。
反省文用紙を出しに行ったら職員室に誰もいなかったから体育の先生の机の上に紙だけだしてさっさと職員室を出た。っていうかさ、机からお尻がはみ出してたんだけど、あれで隠れてるつもりとかまじ笑える。
帰りはいつもみたくみんなで下校。
駅までは同じ道だから一緒に帰ってたんだけど、駅前のバーガー屋さんの前を通りかかったとき。ホワイトがシェイク飲みたいって言い出して、最終的にぼくが買いに行った。
最初は反省文の責任をとってビターが行くべきよ! ってホワイトが言ってたんだけど、ビターがてこでも動かなくて。ブラックが「僕が行くよ」と名乗りをあげてくれたんだけどそこでなんか悪い笑みを浮かべたホワイトが「潤、お願い行ってきて」と言われてしまったから仕方ないなあとぼくが行くことになった。
店の中で4つのシェイクを注文して5分。早く作ってくれてイチゴとチョコと杏仁とバニラのLサイズを紙袋に入れて渡してくれたからそれを抱えて意気揚々と外に出ると3人が顔を付き合わせて何事かを話していた。っていうか、わざわざぼくが買いに行ってるときに話さなくてもどうせ3人は同じ家に帰るんだから家に帰ってから話せばいいのに。
どうして兄妹でもない、幼馴染のホワイトが同じ家に帰るのか。それはブラックとビターの家の事情というかホワイトの家の事情も重なっているらしくて。ホワイトは2人の側近なんだって。だから2人のお世話をするために、小さい頃から幼馴染として側に控えているらしい。って、3人から聞いた。
「……から、文化祭を……」
「わかったけどよ……」
「でも……」
「わかってるなら実行に移しなさいよ!! あの子誰にでも優しいから結構倍率高いんだからね!」
キレたホワイトの怒鳴り声で、一瞬バーガー屋さんの周囲にいた人々の視線が3人に集まる。それに気まずそうにしつつ頭を下げたホワイトに何でもなかったみたいにみんな視線を戻したけど。
なにを実行に移すんだろう? 倍率高いってなに? 首を傾げながらさらに近づくと、ぼくに気づいたビターがひらっと手を振ってくるから。つい満面の笑み……というかふにゃりと崩れた笑みを浮かべれば、そっぽを向かれた。見るに耐えなかったのかなとうなだれていれば、ホワイトとブラックにビターが殴られてた。それぞれ鳩尾と胸を狙うあたり始末に悪いと思う。だって服に隠れて見えないからさ。ここらへん、不良と優等生の区別がわからなくなるところだよね。ってことで。
「シェイクお待たせ、なんの話してたの?」
「ありがとう。潤、潤は文化祭誰とまわりたい?」
「あ、ありがとってちょ……ちょっとホワイト!!」
「サンキューな、ヒーロー。ホワイトおま」
「どういたしましてー。えーっと、文化祭……。誰とまわろうかなあって悩んでるところ?」
どうやら話は文化祭を誰とまわりたいかについてだったらしい。別にぼくがいる時に話してくれていいのに。とか思いつつ返事をすれば、顔を赤らめてホワイトを制止しようとするブラックとなにか言いかけるビター。ぼくはさっき貰った紙袋に目線を落としてがさがさと中を漁る。
「……え、ちょっと待って。まだ文化祭まで2週間あるわよね? もう誘われてるの?」
「えと……男女含めて28人くらいから」
「「「倍率!!」」」
それぞれブラックがバニラ、ホワイトがチョコレート、ビターが杏仁、ぼくがイチゴっと紙袋の中からシェイクを取り出して渡しつつ答えると。3人とも目元を押さえながら叫んだ。おかげでまた視線を集めてしまった。ホワイトは口から呪詛のように「あたしみたいな美少女が5人からしか誘われてないのに28人? 28? は? あと1人増えたら29……ふふ、肉かあ。つまりひき潰してミンチ。血祭りってことね」とか怖い言葉が口からもれてる。っていうか肉がなんなの!? 怖い。紙袋はバッグに仕舞いついシェイクを両手で持ったまま震えていればホワイトに引き気味なブラックとビターがぼくに向かって手を伸ばしてきた。んだけど、ホワイトががばっと顔を上げたのに驚いたのかその手が止まる。そしてぼくは、がしっというよりはぐわしって感じでシェイクを持っていない方の手でホワイトに肩を掴まれて。すごんだ笑顔を向けられる。
「潤? 絶対に、ぜえええええったいに! あと1人から文化祭まわろうって受けちゃダメだからね! いいわね!?」
「え……そんなのぼくの意思じゃ」
「い・い・わ・ね!? じゃないとそいつ、ミンチの血祭りにして」
言い訳に聞こえるかもしれないけど、誘ってくれるのは相手の意思であって誘われる側のぼくがどうこうできる問題じゃないということを伝えようとするものの。血走った目のホワイトが怖すぎてできなかった。
そのうちに、だんだん日も暮れてきて空の半分が紺色になってきていた。さすがにこれ以上暮れるのはまずいと思ったのか、あるいは前言っていた門限に引っかかるのかホワイトの肩をビターとブラックが片手で片方ずつ掴むと。
「へえへえ、女の嫉妬は見苦しいぜホワイト。じゃあな、ヒーロー」
「ホワイト落ち着いてよ。ばいばいヒーロー、また明日会おうね!」
「う、うん。ビターもブラックもホワイトもばいばい! また明日!」
まだなにかぶつぶつ呟いているホワイトを引きずって、駅の構内に入っていったのだった。
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