第6話 より深い魂の世界へ

 さて家に戻った私は、急に寂しい気持ちが湧き起こってきた。


  勉強しようと思ったのだがなんだか落ち着かなくなった。


 そうだ、私は今現在一人ぼっちではないか...


 家族もいなく、テレビだけ観て晩年のある時期を思い出した。





 ピンポーン、チャイムの音がした。

 誰か訪問者か?


 玄関のドアを開けると女性が立っていた。


「こんにちは初めまして私はヘルパーです。お部屋の片付けなどの用事をしにきました」


「あ!そうですかそれは嬉しいこと、おおきにです」

 ニコニコした小太りの気の良さそうな人だ。



 生前も介護を受けていてヘルパーさんにはよくしてもらった。


 女性に親切に世話を受けることが若い頃からないもんだからすっかり気に入ってしまって、恋心を抱いたこともあったものだ。



  「何か召し上がりますか?食べたいものあればおっしゃってください。」


  「ああ~こちらに来てからたこ焼きしか食べていないな、カレーが食べたくなってきたのでお願いします」


 冷蔵庫を開けるとちゃんと材料が入っている!


 包丁はないが手の中で細かくなっていくではないか!


「珍しいでしょう?こちらの世界では本当は食べなくていいのですが、まだ現世の記憶が残っている人は好きなものを食べることができます。

 作り方は少々違いますけどね、イメージすれば形になっていくのでこちらの調理もまた面白いものです」


 話している間にいい香りが漂ってきて鍋の中ではなく、お皿の上に材料を置いて手で覆うようにすると湯気のたったカレーライスができてきた!


 まるで手品のようだ。




 テーブルで向かい合わせに座り、いただいた。美味しいカレーライスだ。


「〇〇さんはここで好きなように過ごしてくださいませ。

 私は守護霊様からお聞きしてこちらに参りました。


 実は遠い親戚なのですよ。」


  驚いた!私の名前を知っているし、遠い親戚とは...。



「〇〇さんの父方の明治時代の親戚だった者です。武家の時代からの繋がりです。」


「そうなんですか、それはそれは。」


「〇〇さんは、ご先祖様についてこれから思い出していくと思います。

 よろしかったら私がお手伝いして差し上げたいと思います。」


「記憶が出てくるということですか?

 まあ、ご先祖様はこちらに皆おられると思いますが、会えたりするのですか?」


「そうですね、会える方もおられるでしょう。

 思い出していくうちに〇〇さんの魂の故郷がわかってくるようになると思います。」


「ほう~それはすごい、魂の故郷ですか...

 今は想像もできませんがそこへいずれ行くということですかね?」


「そのとおりです。こちらで過ごす間にそれがわかられるでしょう。

 そうすると本来の住まれる世界へ移れることになります。」


「霊界なのか?どこへ行くんだろう...楽しみのようなちょっと現世と離れすぎて怖い気もする が...。」


「それは皆さんそうです、でも魂の奥底の導きというのは不思議なもので、地上の故郷が懐かしいのと似てやはり戻りたい気持ちが増してくるものなのです。」



「なるほど...ごちそう様。美味しかったです。」


「はいどうもでございます。コーヒーお入れしましょうか?果物などもどうですか?」


「はいありがとう、コーヒー飲みたいな!

 果物はバナナがいい。」


 食器棚からコーヒーメーカーを取り出し、手際よくまた手品のようにコーヒーができあがった。


  いい香りだ。


 クッキーも欲しくなった、そしてチーズも...


 急にいろいろ食べたくなった。


 何日食べていないのか?

 昼夜がないので時間の感覚も腹時計もさっぱりわからない。


「はい、どうぞお好きなだけ召し上がってください」と次々出てくる。


  味も食感もそのままで懐かしい。


 チョコレートも欲しくなった。


 なんだか子どものようでちょっと恥ずかしくなったが私の好みなので仕方がない。

 ここでブランデーもと言おうとしたがやめた。


「ブランデーはサイドボードの中にありますのでご自由にどうぞ」


 と、心を読まれていた...ここでは全てお見通しなんだなぁ



 ひとしきり食べ終わると満足感と幸福感で満たされた。


 また昼寝?がしたくなった。

 生前の隠居生活と変わらないな。

 自由気ままは一緒だ。


「どうぞごゆっくりお休みなさいませ、いつでも私のことを思い出して呼んでいただけますのでご安心ください、では失礼いたします。」


「ありがとう、とても嬉しかったです、またよろしくお願いします。」





  私はベッドに横になり、すぐに夢を見た。


 子どもの頃の夢だ。

 父や母、兄弟やいとこや祖父祖母など...いろんな懐かしい人たちがでてきた。


  そしてある日親戚の家に行った時、古い巻物を見せてもらった情景が出てきた。


  婆さんが「これは戦国時代のもので、殿様やった先祖さんが書かはったもんやで」と説明している...



 しばらくすると巻物が光りだして、その光が伸びて立ちあがってきた。


 みるみる人の形になって光輝いて、眩しい!と目を開けたらそこに守り人さんが立っていた。


 びっくりして起き上がった。


「驚かせてすまぬ。その巻物は我が書いた。」

 とおっしゃった。


 ご先祖さんやとそういえば言っておられたことを思い出した。


 うんうんと頷かれ、ニコニコされ て、


「ずっとぬしの側にいたのだ。これからも家族としてここの世界しばらく共に過ごそうぞ」

 

 そう言って私の手を取られた。


 するとまた目の前が眩しくなり、身体が浮き上がるような感覚になった。





 目を見張ると広い場所にいる自分に驚いた!


 一瞬で景色が変わり、どうなったのかといぶかっていると守り人さんが山の方を指差した。


 なだらかな山が連なっている、広大な見たこともない荒野というか平原の果てに山々がある...


 全体が霞のような空気自体が輝いているような、日本画の 絹本に金粉を蒔いたようなとでも表現できるか...



 何かが起きるような、近づいて来るような気配。


 だが、胸が高鳴る高揚感が内から湧き上がって来る。

 

 どこからともなくお経の声?が聞こえる。

 極楽浄土とか言っている...


 なんだか夢の続きだろうか?


 なんとも不思議な感覚に襲われて来る。



 気づくと山の向こう側が明るくなってきて、シャリンシャリンという鈴のような微かな音色が聞こえて来る。


 ますます光が強くなって黄金色に輝きだした!


 音も大きくなって、オーケストラのようにいろんな音色が重なり広がり、山の上に大きな光の塊のようなものが出現した!


 私は思わず「UFOか!?」

 と叫んだら、守り人さんがジロッとこちらを見て、プッと吹きだし笑いをした。



 後でわかったのだが、私は子どもじみていたのだな......。




 次の光景を見た時、私は宇宙人どころではないものを目の当たりにして、驚愕で気を失いそうになったのであった。



 この体験は私の魂の変容の大きな始まりとなった。

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