第4話 幽界の実態

 さて大満足で映画館を出た私は、町を散策に出かけた。


 一見普通の商店街のようだが、整った雰囲気の店ばかりという印象でゴミゴミした感じがない。


 商売人の「いらっしゃい!」の声かけやゴテゴテした看板などもない、歩いている人たちは穏やかな表情で皆のんびり散歩を楽しんでいる風だ。


 気になった店に入ってみる。


 そこは『骨董品店』と書いてあり、風変わりなものがたくさん置いてある。


 店員は、地球の数十万年もの歴史の遺物のレプリカだ、と言う。


 数十万年!?私が驚いていると、いろいろ親切に説明してくれた。


 地上では真実の歴史が正確に伝わっていない、いわゆる“オーパーツ”として不思議なオカルト的解釈で片付けられているものは、真実の歴史を知ると何のことはない、納得のいく立派な遺物だという。



 恐竜と共に生活していた頃の懐中電灯や、コンピュータの役目をする円板状の記憶版など、 ここは地上の物質圏ではないのでレプリカだが、正確に使用できるとのこと。

 欠けた部分も補われていて当時の姿が再現されているという。


 なんとも言葉では語り尽くせないような表現に困る形のものも多い。


 真実の歴史がここでは知られているということか?



 私が驚いているとまた、察知して店員は


「お客さん、歴史を知りたかったら図書館へ行きなさい」 と言ってくれた。


 そうだな、行ってみようかという気になったが、もう少し他の店も見てからにしようと思った。

 またどうぞと店員に快く見送られた。




『ペットショップ』と書いてあるビルが目に付いた。なんだかやたら背の高い建物だ。


 入るとなんと、吹き抜けになっていて、いろんな動物が宙に浮いていたり歩いたりしている。


 店員がニコニコして寄ってきた。

「ようこそ初めてですね、ご案内しましょうか?」


  宙に浮いているのに驚いているので、これは本物ではなく立体映像だと説明してくれた。


 人に飼われて愛情深く育てられた動物たちは、野生種に比べて進化する速度が速まるそうだ。


 ここ、霊界でも動物、ペットを飼うことができる。

 前飼っていたペットと再会することもできるらしい。


「ここにいる動物たちは飼われていたものですか?」と聞くと、


「それもいます」とのこと。


 ふと生前飼っていた猫のことを思い出した。

 するとまた店員はすぐ察知して、

「連れてきましょうか?」と言うではないか!


「お客さん、ハッキリとそのペットを思い出してください」と言う。



 リアルに思い浮かんだ、その時、浮かんでいる動物たちの上の方がピカッと光り、流れ星のように落ちてきて、店員の腕の中にストンと乗った!


 おおっ、バロンだ!


 おとなしく抱かれている。


 生前はキツイ性格の猫だったが、穏やかそうな顔つきになっている... 私も抱いた。


「久しぶり」 えっ!?喋った!

 ニコッと笑っている、ように見える...ここでは猫が喋るのか、またまた驚いた。


 店員はニコニコ笑って見ている。




  ふと気づくと、猫の後ろの方から女の人が現れた。

 頭を下げて「こんにちは」と丁寧にお辞儀をした。


 私も「こんにちは」とお辞儀を返して、顔を見てまたびっくりした。


 妻ではないか!なんと、30代の頃の姿をしている。懐かしい。


 しばらく椅子にかけて、この店で話すことにした。


  妻との再会は突然で「何から話せばいいのか?」と思っていると、妻の方から、


「いろいろお世話になりました、病気の私をよう看てくれて本当に感謝しています。」


 なんとしおらしい。生前はそうでもなかった。

 猫と同じく性格が穏やかになっている。


「こちらの暮らしはどうや?」と聞くと、


「ペットたちの世話をしています、これがこちらでの仕事で、生前のさまざまな苦労や苦しみは徐々に癒やされて、反省と学びの生活をしています」


「そうか、生きていた時はいろいろ辛いことが多かったからなぁ、良かったな」と少しホッとした。


 どうもしかし、妻と話すのはなんだかよそよそしい感じで、話もあまり進まない。


  「住む世界が違うみたいです。

 夫婦だったけれど、魂の繋がりは薄かったようです。先祖の繋がりで一緒になったけどもう地上でのかかわりは解消したので、こちらの世界では別々に歩むことになるようです」と言う。


 そうか、夫婦だったが心は離れているのがよくわかった。

 感情的なことではなくどうも相容れない、共感部分があまりないような感覚だ。

 お互い他人のように、あといくつか家族のことなど話して会話は終わった。


 一つ面白かったのは、娘が現世で猫を飼いたいと思っていた時、引き合わせたのは妻の働きかけだったということだ。


 そういうことができるのかと、現世に影響を与えることができるのかと、 そこに興味がわいた。


 まあ妻は生前猫をしょっちゅう保護しては飼い主を探したり、庭に猫がたくさんいたりと、そういうことばかりしていたから、こちらでもペットの面倒をみる仕事に就いているのは合点がいく。





 さて、思わぬ再会を果たしてなんともこちらは不思議なところだ、と、つらつら思いながら店を出て、外を歩いていくと兄が現れた。


「映画は楽しかったか?」 とニコニコして聞いてきた。


「すごかった!映画の中に入れるとは驚いた、ここはすごいなぁ」と興奮して言った。


「ははは、良かったな。だがこれからもっとすごい所へ行くようになる」


「もっとすごい所?」


「そうだ、だがその前にちょっと必要なことがあるから、案内しよう」


 と言って、私の手を取りまた空を飛んだ。





 やがて小高い丘に降りたった。


 なんだかどこかで見たような景色に感じたが、ハッキリ思い出せなかった。


 兄は、「ある人に会ってほしい」と言ったと思うとすぐに人が現れた。


 あの老人だ。最初に出会ったあの...。


「幽界を楽しんできたようぢゃな」

 と微笑みながら手を差し出した。


 私も思わず手を出し、握手をした。


 すると急に頭の中がグルグルしだして、立っていられなくなった。


 近くの岩に座らされたが、何が起こったのか...



 兄の姿はいつの間にか消えていて、老人の声だけが頭に響いてくる。




「ぬしは眠ったまま亡くなり、脳の様子が思わしくなかった。

 しばらくこちらの病院で治療を受けていたのだ。

 そして心身を目覚めさせるために幽界で楽しい体験をしてもらったというわけぢゃ。


 本来ならば、先に現世での人生の振り返りをするのだが、やっと回復したようぢゃからこれから始めるとしよう」


 私はわけがわからず、依然クラクラする頭の中で、次第にはっきりと生前の生まれた時の様子が見えてきた。



 それからは走馬灯のようにと、まさにそのとおりに人生のあらゆる場面が映画を体験するようにリアルに出てきた。


 相手の気持ちや周りへの影響など、自分から離れた意識まで立体的に出てきて、その時々の感情を再体験していく。


 度々あの老人の声がして、体験ごとに質問や反省点などチェックが入る。


 それはとても愛情深い指摘で責めるような感じはないが、自分自身は深く反省したり感情的に苦しかったりと少々キツイ体験が続いた。


 最期のところまで丁寧に再現され、なんだか涙が出てとめどもなく嗚咽をして泣きじゃくってしまった。




「しばらくここで好きなだけ座っていなされ、静かで誰も来ないからの」

 と優しく声をかけて去って行かれた。



 何度も何度も思い出したり、その時の感情が蘇っていろいろ思いが巡ったりと、自分の人生にとことん向き合っていた。


 やがて誕生から最期までひととおり終わったが、どうしても気になることやもっと突き詰めたい事柄などが振り分けられるように心に残った。


 それらの中でも、この世界で体験して学べるものと、また現世に戻ってしか解決できないものとがあるという。


 とりあえずはこの世界で多く学べることを学んで、それから次を考えていこうという結論に達した。




「もうすぐ現世の時間で四十九日になる。ぬしが思ったように、あともう少しここで学ぶことを成してから次の段階へと参ろう。」


 守護の老人がそばに来て優しく語りかけてくれた。



 そこで、ふとこの老人の正体が気になった。


 間髪入れず察知されて、


「そうぢゃな、わしがどういう存在か気になるところぢゃろう。では申すことにしよう。」


 と言うなり老人の身体が光り、ひとまわりも大きくなり、白い神主のような衣装を身につけた3、40 歳くらいの立派な姿に変身した!



「我、そなたの護りを務めたもうた◯◯ぞ。」



  名を名乗られたが、どうも日本語かどうか言葉に置き換えられない発音だ...。


 これから便宜上「守護霊どの」と記述することにする。



「よく神の名などを名乗り神懸かりで言葉を下ろすというが、現世の言葉では半分ほども伝わらないのがこちらの言葉である。

 そもそも言葉というよりテレパシーといった西洋の言葉が的を射ているかもしれぬ。

 以心伝心というても良いぢゃろう。」


と説明してくださった。


「そなたが生まれる前にこちらの世界で師であった者ぞ。

だんだん記憶が蘇ってくると思う。

 これから次の世界へ行くことになる、そなたの本来の故郷ぞ。


  我、地上での生は800年以上前になる。

 そなたの過去世で家族であった者ぞ。


 これから現世の習慣や癖などをそぎ落としていくことになる。

それは現世を忘れるのではなく、こちらの世界に前もいたことを思い出していく作業でもある。」


「ああ、そうなのですか!

 初めて、ではないですがお会いした時になんだか懐かしい感じがしたのはそういうことだったのですか。


 次の世界が故郷だということ、もともとこちらの世界の方が真実の世界で現世は夢のようなものと言われるのは本当なのですね。」


 私は驚きと納得とで感動した。


「そうぢゃな、もともと霊といわれる姿が本来の“生”である。

 地上で“霊”というとやたら怖がったりややこしげなものと思われたりしているが、ある意味こちらに容易に来られないようにしているということにもなろう。


 死ぬのが楽しみになり過ぎると生きるのが嫌になるからのう」


 と言われてハッハッハッと明るく笑われた。


  「それはそうですね、生老病死の現世は修行ですから。」


  「そなたはな、現世でのお役目を果たせたようぢゃが、少々心残りがあるのは致し方なかろう。

 さてこれからある場所に案内しよう。」


 と言われるやいなや一瞬でそこにたどり着いた。

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