第3話 幽界の映画

 とにかく驚いた。


 映画というより体験しているような...3D映画なんて目ではない。


 初めに声が聞こえ、「これはあなたが望む観たい映画の中に入れるものです。」と言う。


 映画のストーリーでもSFものなどにこういうのがあったなと考えたが、気がついたら荒野のような所に立っていた。


 西部劇か?草が丸くなって風で転がっている。

 ウエスタンでよく見る光景だ。


 遠くからひづめの音が近づいてくる、馬に乗ったカウボーイだ!

 おおっジョン・ウエイン(往年の西部劇大スター)ではないか!

 私のすぐ前を、砂煙を立てて通り過ぎていく。


 するとその先に大勢の馬に乗った男たちが向かってくる、山賊のようだ。

 しばらくお互い立ち止まってなにやら話している。


「これは何かの映画で見たシーンだ」と、とっさに思った。

 が、映画を見ている視点が違う。

 また撮影をしているふうでもない。


 まさにその物語の中にいるようだ。



 誰かが囚われていて、それを助け出そうとしているようだ。

 やがて撃ち合いが始まった!


 私は本当に当たりそうだったので岩陰に隠れて見た。

 なんと、音楽も流れている!効果音や銃の煙、火薬の匂いまで漂ってくる。


 助っ人も現れて無事に救出、場面が変わり酒場になる。


  私はエキストラのようでカウボーイの衣装を着て、テーブルに腰掛け酒を飲んでいる。


 演技をしているのか自分ではわからないが、邪魔にならないようにジョン・ウエインの方をチラチラ見ている。

 何かお金のやり取りをしている場面だ。


 どうも先ほどの救出で謝礼をもらっているようだ、 賞金稼ぎなのか...


 そして彼は酒場を出て行こうとする。

 あの特徴的な歩き方だ。


 突然銃声が響き渡る、背後から狙われるがすでに気づいたジョンは振り返りざま相手を撃ち倒した。


 おお~名場面だな!



 と、このような感じでいくつか映画の中に入って行き、時には配役になったり主人公の目線で本人になった体験ができたりと、なんともはや、すごいリアルな映画体験だ。



 私は疲れを知らないし、またここでは時間の観念がないので延々楽しんだ。


 中でもSFものはすごかった。

 宇宙船に乗って本当に宇宙を旅したり宇宙人に会ったりするのだから。




  実はこの映画館のプログラムで、創作ができるというものがある。


 ある程度元の映画は参考にするのだが、好きなように脚色を加えて作れるというのだ。


 俳優などはイメージで選べる。

 実際の名優でもいいし、このようなタイプの人という設定の俳優を作り出すこともできる。


 これは楽しい!私は芝居の脚本家に憧れていたので、ここで夢が叶えられてとても嬉しい!


  現世での撮影とは違ってカメラを回し、はいカットとかいうやり方ではない。


 第一フィルムに写す必要がなく、イメージがそのままリアルに形になっていくのだから。


 これは私にその能力があるというより、この部屋の中での仕組みというか、この場にいながら想像力でなんでも作れる空間になっているようだ。


 3D映画のもっと実体感のあるようなものだ。




 どれだけここで過ごしただろう、もう飽きたという気持ちになるまで続けていたことは確かだ。


  現世での何日か経っている感覚ではないか?

 飲まず食わずで集中して、こういうことを思いっきりできるというのは、現世ではありえないだろう。


 この時は死んで良かったと思ったものだ。

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