第2話 幽界の街並み
実は今回、兄弟全員に会えたわけではない。
特に仲の良かった者だけなのだ。
これは、この世界 が「親和性」で成り立っているからだという。
引かれ合う者のみが構成する場所なのだ。
小高い所なので街まで距離がありそうに見えるが、兄は飛んで行こうと言う。
手を繋ぎ浮き上がる練習をする。
意外とすんなりできた。
その調子で前のめりになり道の上を低く飛んでみる。
なるほど気持ちのいいものだ。
身体に重さがあるというのは現世でのこと、ここは自在の場所なのだ。
一気に飛び上がり空を飛んだ!鳥になった気分だ。
「きゃっほー!」と歓喜の声をあげてしまった。
兄も楽しそうだ。
「下に見える景色で興味のある所へ行こう、どこがいい?」と聞かれる。
私は大きな建物が気になり、よく見ると映画館と書いてある。
あの世の映画館とはどういうものだろうか?興味を持ったのでそこへ行くことにした。
「映画が好きやったもんなあ」と兄は嬉しそうに微笑んだ。
降り立つと繁華街のようだ。
食べ物屋やいろんな店がある、現世とそっくりだ。
兄がたこ焼きを 持ってきてくれた、買うのではなくもらえるのだそうだ。
貨幣制度はあの世にはないからと言う。
たこ焼きは良い温かさで美味しかったように感じた。
食べたのだが、なんか現実味がない。
味はするが嚙み応えとかソースがベタベタ付くとかそういうのがなく、香りと味のみを感じる。
まあ、 食べる必要もこちらではないのだろう。
「最初は現世の習慣で飲食するが、お腹も空かないし必要なくなってくる」 と兄が解説してくれた。
そりゃあそうだ、この身体は物質でできていないのだからなあ、では何でできているのだろうか?
そう思ったらすぐに兄が答えた。
「霞のようなものや。
こちらの世界の物質でというか、こちらの世界を構成しているものでできているから、現世での土や水で身体ができているのと基本は変わらない。
が、こちらの土や水の造りが異なる、変幻自在の粒子というらしい」
なるほど、私は生前サイエンスが好きで、専門家ではないがブルーバックスなどを愛読していた。
量子というのが幽霊のようだと書かれてあったのを記憶している。
まさに物質を貫通する変幻自在の粒子=量子ということなのか...。
兄は「こちらでも本や映像を観て勉強できる」と言う。
現世よりも進んだ技術やさまざまな分野のことが学べるそうだ。
なかなか楽しみだ、が、ここでは映画館へまず入ろう。
兄は「ここで失礼する」と言う。
またいつでも会えるので、ゆっくり楽しんできたらいい、と言い残して去っていった。
映画館は洒落た造りだ。
曲線でできていて、ガラスでもなく壁が不思議な光を放っている。
ケバケバしいネオンのようなものはない。
上品でなめらかなもので作られているようだ。
説明が難しい... 普通なら看板に大きな放映中の映画の場面が描かれているのだが、それはなく、タイトルがいくつか並んで書いてあるだけだ。
日本語なので読めるが、
例えば『森の生態集』『歴史の裏側の仕組み』などと堅苦しいタイトルが多い
が、唯一興味を持てたのは
『地球の映画の総まとめ』というものだ。
これは映画らしいものが観られそうだ。
入るとドアがズラッと並んでいる。
人がいないのが不思議な感じだ。
すると、あるドアが開いて人がゾロゾロ出てきた。
皆楽しそうに映画の感想などを語り合っている。
そこのドアには
『進化の様相・地上と天界の繋がり』と書いてある。
なんとも難しそうな学術論文が出てきそうなタイトルだ。
ここの人たちはどうも勉強熱心というか、映画の感覚が地上とは異なっているということなのか?
ふと気づくと近くに女の人が立っていて
「『地球の映画の総まとめ』はこちらです」と言って案内してくれた。
中に入ると、
「個室と団体で観るのと選べます。どちらにしますか?」と聞かれた。
とりあえずここに慣れてないので、人と一緒というより個人で観たかったので個室を選んだ。
丁寧にタッチパネルというものの使い方を教えてくれた。
とにかく興味のあるタイトルを選んで触れれば良いと言う。
なんだか地上でも見たことあるようなパソコンに似ている。
とにかく目に付いた『アクション映画の記録』というのを触った。
私が生前最も好きだったジャンルの娯楽映画が出てくるのを期待した。
あの世でも観られるとなると、蓮の上に座ってるだけのあの世のイメー ジとは大違い!
これこそ天国か!?とワクワクしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます