第一章 最初に行ったところ

第1話 お迎え

 私は眠っていた。

 目が醒めると花がたくさんある所にいた。

 よくよく見ると棺桶があり、自分が入っていた!


 娘がいるのが見えた。声をかけた。

「わしはどこにいるのや?」


 娘はすぐに答えた。

「お父さんは死んだんや、前に言っていた宇宙に行くのと違うか?」


 私は「そうか!」と答えてすぐに宇宙へ飛び立とうと思ったら、瞬時に宇宙空間へ行った。


 本当に宇宙の中、私が子どものころ夢で見たような、星々に囲まれ包まれるような空間へ......


 どこの宇宙だろうかといろいろ飛びまわった。

 記憶にある、写真で見たことある銀河や惑星などを思い浮かべると、すぐに目の前に現れた。


 どれくらいそうしていたのかわからないが、ふと自分はどんな姿をしているのか気になった。

 手を見た。


 普通に感じたが少し光っているような、星の光が当たっているからだと思った。


 身体は普通の服を着ていた。

 息もしている、が、心臓の鼓動は感じられない。


 ふと気づくといつの間にか見知らぬ場所にいた。


 ぼんやり霧のような景色に灯りがポツンと見え、 だんだん近づいて来る。



 恐怖はなかった。


 やがて灯りは人の姿になり奇妙な格好の老人に見えた。 着物を着て古い時代の人だ。


「迎えに来た」老人は言った。


 私は「どなたさんです?」と聞くと


「ぬしの守り人ぢゃ」とおっしゃった。

 急に敬語になったが、高貴なお方に感じたからだ。


「我はぬしの祖先の霊である。これから案内する」


 私はなんだか親しみを感じたので付いて行った。

 磁石で引きつけられるように、吸い込まれるように進んでいくと、明るい部屋の中へ入った。


 広くて大きな会館の大広間のような感じで、人々がポツンポツンと静かに座ったり佇んだりしている。


 何かを待っているようだ。

 一つの扉の所へ順に入っていく。



  私の番になった。

 守り人さんは何も言わず付いて来るように促した。

 強制的な雰囲気ではなく、穏やかに「どうぞ」という感じだ。


 扉の向こうは、なんと青空の広がる自然豊かな場所だった。

 とても気持ちよくて元気が出るようだった。




 私は老人で亡くなったが、今の感覚は若い頃のようにとても身体が軽く、気分も良かった。


「しばらくここで好きなように過ごしなされ」と守り人さんは言ってスッと消えた。


 まあ、ここはあの世のようだから消えたりもするのだな、と驚かなかった。



 さて、ここは天国か?地上にとても似ているが常春というか、そうか常世の国ということか...などいろいろ考えていた。


 人々はそれぞれバラバラに好きな所へ歩いて行っている。


 自分もいろいろ探検してみようと思い、とにかく前の道を歩いた。


 それからしばらく歩くと、石畳のような道に変わった。


 石畳といっても石のような固い感触がなく、かといって柔らかいこともなく、そのような形であるだけで物質感がない。


 なるほど...と妙に納得している。


 ここはあの世なんだという意識がはっきりしているので、見るもの全てしっかり観察してやろうと思った。


  草木は触るとそのもののようだが、軽いというか半分透き通っているような感じだ。

 そして、それぞれの葉の形は完璧で、虫食いや枯れたものがない。


 花や実がなっているものもあるが、季節 は関係ないようだ。花と実が同時にあるものも存在する。



 さて、自分の姿もしっかり見てみたいと思った。


 鏡がないがどうしたものかと思っていると、目の前の枝になんと鏡が架かっている!


 あの世らしいななどと瞬時に思う。

 見ると、若い!30~40 代の自分の姿だ。


 嬉しくなった、生前本で読んだあの世の話は本当なのだと感慨深かった。


 やったぞ!という気持ちで足取りも軽く進んでいった。




 やがて目の前に山が見えてきた。

 それまでの道は深い並木で覆われて見通しが悪かったのだ。

 開けてますます先が見たくなった。


 家や川、高い建物もある街が山の麓にある。

 日本の現代の景色に似ているが、電線や車の姿がないようだ。


 とても静かで鳥の声が聞こえる。


 昔の電話などない時代の雰囲気だ。


 少し高台を歩いているのに気づく。

 遠くに海が見えるが霞などなく快晴で視界良好だ。




 近くの家を観察してみる。

 一見普通だが、何でできているのかわからない。


 新建材のようだが、やはり少し透けてすりガラスのような壁で、窓にはガラスはないようだ反射がない。


 キョロキョロ覗いていると、中から人が出てきた。


 不審者に思われたかと少々バツが悪かったが、その人は満面の笑みで旧知の友に会うような態度で近寄ってきた。


 なんと! 実際旧知の友であった。


 十代の頃仲が良かった近所のアニさん。

 三つほどの年上で小さい頃からよく遊んでもらった。


 続いて何人か家から出てきた。


 兄貴だ!一番仲が良かった兄だ。

 それから母と、父もいた。

 みんな若い。


 自分の記憶が一番鮮明な時代の姿をしている。


 お互い嬉しくて、抱き合い涙を流して喜んだ。


 家の中に案内されて、懐かしい思い出やさまざまな話に花を咲かせた。


 家の中は昔のままになっていた。

 私が育った家だ。


 外装とは全く違うが、中は大正・昭和のままなのだ。


 これは、私を歓迎するためにしつらえたのだそうだ。


 皆の共通の思い出がありあり蘇るように、鶏小屋や小さな畑も庭にある。

 匂いまで当時のままなのだ。


 親子兄弟友人だから皆子どもの頃の話で大笑いした。



 本当に会わなくなって久しいが、あの世というのは時間がないものだ。


 過去も未来も実感がなく、今ここに皆が存在している。



 皆、私のために集まってくれたのだそうだ。


 時代を超え、それぞれ今は住む世界・場所が違うらしいが時々会うそうだ。


 仲がいいことには変わりないが、それぞれのこちらの世界での仕事や役割があるという。



 またこれからだんだ ん詳しくこの世界のことはわかっていくのだろう。




 兄がこの街を案内すると言うのでついて行くことにした。

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