第10話
「そこをどくんだ、クック。なんだい、ちょっと料理関係のスキル持ちだからって調子に乗って。そんなチートくらいあたしにだってできるんだからな。コントローラー貸してみろ。十字キーをこうやって、ボタンをこうすれば……ほら、見てみろ」
そうアメニティに言われて、テレビのゲーム画面を見たらハルのコンビニの周りにばかでかいテーマパークができていた。ハルのコンビニの大きさから推測すると……そのテーマパークの大きさはちょっと計算できそうにない。僕が驚いて後ろにいるアメニティを振り返ると、アメニティが得意げになっていた。
「どう? この住環境をつかさどる魔法のエキスパートのアメニティにかかれば、コンビニ経営シミュレーションゲームの世界にテーマパークを建設するくらい簡単なんだから」
「うん、すごいね」
周りをテーマパークに囲まれたコンビニかあ。出入りも大変そうだな。職場のコンビニに寝泊まりしたりするのかな。そもそもお客さんなんて来るのかな。テーマパークに来た客が買い物に……来ないだろうなあ。テーマパークに行く前に寄るような立地じゃないし。テーマパークに入場したらハルのコンビニに行くにはテーマパークを退場しなきゃならないんだろうなあ。どう見てもハルのコンビニはテーマパークの敷地の外だし。
あ、ハルのコンビニからハルらしきキャラクターが出てきた。クックの時のムービーみたいに現実世界のハルみたいな見た目じゃなくて、デフォルメされたキャラクターになっている。そんなハルっぽいキャラクターが、自分の店の周りがテーマパークになったことに驚いている。ハルっぽいキャラクターがびっくりして、テーマパークに侵入しようとしたら、たちまちテーマパークの警備員に叩き出された。
これじゃあハルは一生コンビニに住み続けることになるんだろうな。そう僕が思っていたら……
「そ、それだけか。あたしのテーマパークはじつはたいしたことなかったのか」
僕の感想が短かったことに不安になったのか、アメニティはあせっているみたいだ。僕はあわてていろんな感想を言うことにした。
「い、いや、すごいなあ、アメニティは。コンビニ経営シミュレーションゲームでテーマパークを建設しちゃうだなんて。スケールが違うよ。これこそチートだなあ。あまりにびっくりしちゃったんで、逆に言葉が出てこなかったんだ」
そんな僕の感想にアメニティは安心したようだ。
「そうか、やっぱりわかってるじゃないか。よし、これからは敬意を評して“ケイ殿”と呼ぶことにしよう。それでいいかな、ケイ殿」
「い、いいんじゃないかな」
僕はアメニティが僕のことを“ケイ殿”と呼ぶことにはなんの不満もなかった。だけど、クックが不満いっぱいな様子で僕に後ろから抱きついているアメニティに文句を言い出した。
「アメニティ! なにが“ケイ殿”ですか。ついさっきまではケイ様のことをろくな魔法技術も持たない低級世界の住人みたいな目で見てたくせに。よくもまあそんなにコロコロと態度を変えられますわね」
「べつにいいじゃないか、クック。あたしはケイ殿に敬意を払うことにしたんだ。そりゃあ、この部屋にきた最初はいろいろ失礼なことも言ったかもしれないけど……ひょっとして、ケイ殿、あたしのあの時の無礼な振る舞いを許してくれないのか」、
アメニティがそう言って、僕にさらに激しく抱きついてきた。僕はあわてて答えた。
「い、いや、別にそんなことはないけど……」
僕の返事を聞いて、アメニティが得意げにクックに話し出した。
「ほら、聞いた、クック。ケイ様は昔のことをいつまでもぐちぐちと言うような器の小さい男性ではないんだよ。クックと違ってね」
「なんと言いました、アメニティ。どう言う意味ですか」
アメニティの言葉を聞いて、クックが怒り出した。
「そのままの意味だよ、クック。気にさわったかい」
「ええ、おおいに気にさわりましたわ、アメニティ」
まずい、このままではクックとアメニティがケンカを始めそうだ。どうしよう……
「だいたい、クック。なんだあのリアルならそれでいいと言うような見た目だけを追求したグラフィックのムービーは。ムービーが実写みたいならそれでいいのか。ゲームとはそう言うものではないだろう。もっと、こう、プレーヤーのイマジネーションを刺激するような作品は作れないものかね」
「なんですって、アメニティ。そちらこそ、どうせ『写実的な表現ができないからデフォルメキャラでいいや』って言う短絡的な考えであんなコミカルなキャラクターデザインにしたんでしょう。基本のデッサンがろくにできないくせにピカソみたいな絵なら自分でもかけるなんて考えだと言うことが簡単に想像できますわ」
まずいな。話がゲームのあるべき姿みたいな大げさなものになってきた。どうしよう……僕は考えた結果、ゲーム機のリセットボタンを押した。
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