第9話

「え、今回も僕がこのコンビニ経営シミュレーションゲームに参加できるの」


 僕の質問に、クックが当然だというようにうなづいた。


「当たり前ですわ、ケイ様。コンビニ経営シミュレーションゲームに何のスキルも持たずに召喚されたあのいじめっこを、ケイ様が思う存分この部屋でチートスキルでいたぶるためにわたくしは存在するのですから」


 クックに引き続いて、アメニティも僕を応援した。


「まあ、この部屋はあたしがあたしの世界の魔法の技術を駆使して快適にするよ。だから、おおいにくつろぎながらあのいじめっこをひどい目に合わせるがいいさ」


 クックとアメニティにそう言われて、僕はコンビニ経営シミュレーションゲームを始めることにした。とりあえずコントローラーを握ってみたけど……


「でも、チートスキルってどんなのがあるの。ハルの店の周りに僕の店を何軒も建てて囲んじゃったりできるの」


 僕の質問にクックが答えた。


「そんなものはチートでもなんでもない普通のゲームテクニックではありませんか、ケイ様」


 クックに言われて、僕は驚いた。


「え、だけど、ハルが必死になって建てたコンビニの周りに、僕がコントローラーのボタンを押すだけで何軒もコンビニを建てちゃったら気分良くなるけど」

「あたしの魔法の力で、あっという間にコンビニを建てられるわけだけどな。このアメニティに、住宅関係は任せてもらおう」


 僕がびっくりしたら、アメニティが自分の力でゲームの世界でコンビニをすぐ建設できると言った。アメニティは僕の部屋だけでなく、ゲームの世界でも住宅関係に強いのか。


「ケイ様、あのいじめっ子がゲームの世界で苦労しているのは、ゲームのキャラクターがお約束として持っているスキルを持っていないからですわ。この部屋でゲームをプレイしているケイ様がコントローラーのボタンを押すだけで、コンビニを建設できるのはゲームなら当たり前ではありませんか。そんなものはチートとは言えませんわ」

「じゃあ、僕はハルのコンビニにどんな妨害がしかけられるの」


 僕がたずねたら、クックはあっけらかんとしてこう答えた。


「あのいじめっこがやっとの思いで建てたコンビニで、食中毒を発生できますわ」

「それはチートだね。コンビニ経営とはなんの関係もなさそうだ」


 クックの出した一例に、僕はあっけにとられた。


「わたくしは料理担当ですもの。食べ物に食中毒の細菌を仕込むくらい朝飯前ですわ」

「そうなんだ……」


 クックにそんな恐ろしいことを言われて、僕はクックが机の上に用意した料理に目をやった。


「あっ、もちろんケイ様に食べていただく料理にそんな食中毒の心配をする必要はありませんわ。安心してください。さあ、ケイ様、早くチートしちゃってください。ま、わたくしったら、とんだそそうをしてしまいました。チートと申しましても、まだチュートリアルもしていませんものねえ」


 クックがそう言うと、僕の後ろに回ったら二人羽織みたいになって僕の握っているコントローラーを握ってきた。


「さあ、ケイ様。十字キーをこうして、ボタンをこうすれば食中毒が発生して、あのいじめっこのコンビニが保健所に営業停止をくらいますわ」


 僕の後ろから僕の握っているコントローラーを操作して、クックがチートで食中毒を発生させようとしている。すると、画面がムービーに切り替わった。


 ゲームの世界にいるハルがテレビの画面の向こう側で、僕が見ているテレビの画面をみがいている。その奥には店内の飲食コーナーで食事をしている客が見える。ああ、これはコンビニの窓拭きをしているハルを、テレビ画面を窓に見立てて描写しているんだな。最初の格闘ゲームの時と違って、今度はハルからは僕の部屋の様子は見えていないみたいだ。


 そしたら、いきなり食事をしていたお客さんが吐き始めた。ずいぶん効果の出るのが早い食中毒だな。ハルがお客さんに駆け寄っていって介抱していたら、店に保健所とロゴが入った白衣を着てマスクをつけた保健所職員が駆け込んできた。で、僕の見ているテレビ画面、つまりハルが建てたコンビニの窓ガラスに“営業停止”の張り紙をベタベタ貼っていった。


 気合いの入ったムービーだな。そう思っていたら、クックが僕の後ろから抱きついたまま、僕にこんなことを言ってきた。


「どうですか、ケイ様。わたくしの能力によるチート食中毒。食べてすぐに吐くなんて症状があらわれる食中毒なんて、そうはないでしょう。ほめてくださいまし」

「ああ、そうだね。クックの食事に関するスキルはすごいね。クックが僕の部屋にきてくれてよかったよ」


 僕がそうクックをほめたら、僕に後ろから抱きついていたクックはますます力強く僕に抱きついてきた。


「うれしいですわ。ケイ様にそうおっしゃっていただいて、このクック、感動ですわ」


 そんな僕とクックの様子を見ていたアメニティが、突然クックを突き飛ばして僕の後ろから抱きついてきた。

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