コンビニ経営シミュレーションゲーム
第6話
ピンポーン、ピンポーン
気がつくと、僕は部屋のベッドで横になっていた。玄関の呼び鈴の音が聞こえる。さらに、いままでさんざん聞かされてきたハルの声がした。
「おーい、ケイ。俺だ。俺様だ。友達なんて一人もいないだろうお前のために俺様がきてやったぞ。わかったな。わかっただろうから入るぞ。ちゃんと俺様をおでむかえするんだぞ。俺様へのおでむかえが遅れたらどうなるかわかってるな」
そんなハルの言葉を聞いて、僕は条件反射でベッドから跳ね起きて部屋を飛び出し、玄関までハルを迎えに行った。玄関ではハルが偉そうに靴を脱ぎ散らかしている。
「お、ケイ、出迎えご苦労。ちゃんと俺様を玄関までむかえにきたな。感心感心。部屋のクーラーは効いているか? 俺様用にジュースやアイスは用意しているだろうな。ケイのために夏休み中、今日の八月三十一日まで俺様がケイの部屋に来てやっているんだからな。そのくらいのおもてなしは当然なんだからな」
「わかってるよ、ハル。ちゃんと冷蔵庫でハル好みのジュースもアイスもキンキンに冷やしてあるから」
そうして、僕の家を我が家のように突き進んでいくハルの後ろを僕はついていく。そして、僕の部屋にハルが入っていって、そのあとにおずおずと僕が自分の部屋に入ってドアをていねいに閉めた。
「おう、涼しいな。さすがケイ。俺様好みの部屋の温度になってるじゃないか。ほめてやるぞ」
ハルは僕の部屋が寒いくらいにクーラーで冷やされていたのでごきげんだ。そのためには、僕は夜寝る前にクーラーの設定温度を思いっきり下げなければならない。そのおかげで、僕は真夏なのに夜寝るときは厚手の掛け布団を首までかけていなければならないのだが……
「さてさて、今日はどのゲームで楽しもうかな。夏休み最後にふさわしいゲームで楽しまないとな。なあ、そう思うだろう、ケイ」
「うん、そうだね」
ハルの有無を言わせぬ態度に、僕は同意せざるを得ない。そしたら、ハルはこんなことを言い出してきた。
「その、夏休み最後の日にふさわしいゲームとはなんだ、ケイ。答えてみろ」
「えっ、夏休み最後の日にふさわしいゲーム? なんだろう、格闘ゲームとか?」
僕はそう答えたが、ハルはお気に召さなかったようだ。
「ケイはバカだな。格闘ゲームなんて、スペシャルでもなんでもないじゃないか。ケイは全然ダメだな。まあいいや、ゆっくり考えるとしよう。おい、ケイ。ジュース! アイス! 早くもってこい。頭脳労働には糖分が必要なんだ。そのくらい察しろよ」
そう言いながら、ハルが僕にいろいろ投げつけてくる。その攻撃から逃げながら、僕は台所に走っていった。
「お待たせ、ハル。ジュースとアイスだよ。あれ、どうしたの」
さっきまであんなに不機嫌だったハルが、うってかわって機嫌よさそうにしている。何があったんだろう。
「おっ、ケイか。ケイもなかなかしゃれたまねをするじゃないか。格闘ゲームなんてやぼな答えをしておいて、こんなステキなゲームを俺様のために準備しておいただなんて」
そう言ってハルが僕に見せたのは、コンビニ経営シミュレーションゲームだった。ハルは上機嫌で僕にしゃべりだした。
「たしかに、ケイも俺様の教育のおかげで客へのもてなしってものがわかってきたみたいだからな。こういう経営シミュレーションゲームに興味を持つのも当たり前だな。俺様がしこんできたかいがあったってものだな」
「はあ……」
僕はよくわからずに適当な相づちを打った。すると、ハルは僕が何か口をはさもうとしたと勘違いしたのか、僕の口の前に人差し指を出して僕をさえぎった。
「おっと、全部言わなくていいぞ、ケイ。どうせこんなことを考えているんだろう。『ハルのやつ、今に見てろよ。社会に出たら僕が成り上がってお前をこき使ってやるんだから』みたいなことを。でも、それは甘い考えなんだなあ、ケイくん」
ハルは調子良さそうに話し続けている。
「社会で成功するやつしないやつってのは、俺たちくらいの年齢になるとわかるものなの。いまケイをおれがこき使っているだろう。そうなると、ケイは使われるがわの人間のメンタリティに、俺は使うがわの人間のメンタリティにできあがるんだなあ。そんな俺とケイの立場が大人になっても変わるなんてことはないの。俺が一生おまえを使い続けるの。どう、わかった?」
「まあ、だいたいは」
僕の答えに気を良くしたハルが、コンビニ経営シミュレーションゲームを始めようとしている。
「わかっているならいいんだ、ケイ。人間ってのは、分をわきまえるってことが大切なんだからな。それじゃあ、俺様がそんな人の使い方ってのをこのコンビニ経営シミュレーションゲームでケイに見せてやるからな」
ハルがそう言ったら、ハルの姿が光に包まれた。
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