第3話

「当然ですわ。わたくしがケイ様にたっぷりいじめっこをいたぶってもらうためにご用意させていただいた自信作ですもの」

「それはわざわざどうも……あっ、ハルが逃げてる」


 クックが大きなおっぱいの胸を張って得意になっているうちに、ゲーム画面ではハルが僕の投げ技キャラクターとは反対方向に逃げ出した。


「まずいなあ、ハルに距離をとられちゃったよ。この投げ技キャラクター、相手が画面のどこにいても吸い込んで投げられたりする?」


 僕がクックにたずねたら、クックはこう答えた。


「ケイ様がそうお望みでしたら、そういう仕様にもできますけど……そんな必要はないと思いますわ。ほら、ご覧になってくださいまし」


 クックに言われて、僕がテレビの画面を見てみると、ハルが画面の端からそれ以上逃げられなくなっていた。


「見てください、ケイ様。格闘ゲームのお約束で、対戦フィールドにははしっこがあることも忘れて、無様にケイ様から逃げようとしているあのいじめっこの情けない姿を」


 クックの言う通り、ハルは画面のはしっこからそれ以上逃げられない。それなのに、ハルはなんとか逃げようと、無様にジタバタしている。そのあいだにも、僕の操作する投げ技キャラクターはのっしのっしとハルに近づいていく。ハルよりスピードは遅いけど、画面端からそれ以上遠くへ行くことができないハルだったら簡単に近づける。


「お、ハルがこっちに向かってきた」


 これ以上この方向には逃げられないと理解したハルが、僕の投げ技キャラクターをすりぬけて逆方向に逃げようとしたみたいだ。


「問題ありませんわケイ様。どうせあのいじめっこには何もできませんもの」


 クックが言ったことは正しかった。ハルが僕の操作する投げ技キャラクターに向かってきたけど、ハルはすり抜けられずにジタバタ押し合いへしあいしている。


「おわかりですか、ケイ様。あのいじめっこには、相手をすりぬけるスキルは持っていないんですのよ。ああして相手を押すしかできないのです。普通はこういう場合は、ジャンプして相手を飛び越すものなのですが……」


 すりぬけることを諦めたハルが、今度は僕の操作する投げ技キャラクターをジャンプして飛び越そうとしているけど、せいぜい僕の操作する投げ技キャラクターの腰くらいまでしか飛びあがることができないでいる。これじゃあ、とても飛び越せないだろう。


「まだわかってないみたいですね、あのいじめっこは。普通の人間が、格闘ゲームみたいに人間をひょいひょい飛び越すことなんてできないってことに。さあ、ケイ様。レバー二回転パンチですわ。今度は中パンチなんていかがでしょう」


 クックに言われて、今度はレバー二回転と中パンチを入力する。


 今度も僕の操作する投げ技キャラクターが光ったかと思うと、ハルをがっちりつかんだ。今度はハルの後頭部をつかんで、ハルの顔面を地面にゴリゴリこすりつけはじめた。これは痛そうだ。


 そう思っていたら、僕の操作する投げ技キャラクターがハルの後頭部をつかんだまま、ハルを引きずってこっちに突進してきた。そして、そのままハルの顔面をテレビ画面にたたきつけた。ハルのひしゃげた顔面がテレビ画面に大うつしになって、そのままハルがずり落ちていく。そして、僕の操作する投げ技キャラクターがたくましい背中を見せながら画面の奥へ向かっていった。


 ハルの体力ゲージがまた三分の一くらい減って、残りが三分の一くらいになっている。


 で、僕の操作する投げ技キャラクターとハルがまたまた向かい合っている。もうハルは何もする気力がないみたいだ。ただぼうぜんと立ちつくしている。そして、僕の超必殺技ゲージはしっかりマックスに回復している。


「さあ、ケイ様。今こそトドメを。あのいまわしいいじめっ子に正義の鉄槌を。レバー二回転パンチで。強パンチで」


 クックにそう言われて、僕は投げ技キャラクターをハルに近づかせてレバー二回転と強パンチを入力した。僕の操作する投げ技キャラクターが光って、ハルをガチッとつかんだ。


 今度は、ハルの両足を抱えてこっちに引きずってきた。そして、画面に近づいてきたら、ハルの両足を抱えたまま体をひねってハルの顔面を画面にたたきつけた。


 ビターン!


 これで終わりかと思ったら、今後は逆方向に体をひねってハルの顔面をさっきとは逆に画面にたたきつけた。そんな左右のツイスト運動を何度も繰り返している。


 ビターン、ビターン、ビターン、ビターン!


 何回もハルの顔面が画面にたたきつけられたと思ったら、僕の操作する投げ技キャラクターが、よりいっそうちからをこめて画面にたたきつけた。


 ビターン! ガシャーン! ベキッ!


 なにやらガラスが割れたような効果音がした。さらには、テレビのゲーム画面にヒビも入っている。


「きゃー、やだー、こわーい、ケイさまー、どうしましょうー」


 そんなしらじらしい悲鳴をあげながら、クックが僕に抱きついてきておっぱいを押しつけてきた。演技が棒にもほどがある。

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