第2話
「え! 僕が?」
クックの言葉に驚いた僕だった。そんな僕をうれしそうに見ながら、フォースはゲーム機のコントローラーを操作しはじめた。
「ええ、ケイ様が対戦できますよ。操作できる自キャラもよりどりみどりですわ。すばやいコンボが得意なキャラクターに、重量級の投げ技系キャラクター、女の子のキャラクターだっていますよ」
そんなことを言いながらクックがコントローラーをカチャカチャしていたら、ゲーム画面がいつのまにかキャラクター選択画面になっていた。クックが言ったようにキャラクターの数が結構ある。
で、対戦相手のキャラクターにハルの顔が表示されている。さっきまでマッチョマンにボッコボコにされていたのに、ダメージがリセットされたのかハルの顔には傷ひとつない。ただ、どうもハルはうろたえているようだ。自分の身になにが起きているのかよくわかっていないのかもしれない。と思っていたら、こちらに向かって手を振りだした。ハルのいる格闘ゲームの世界からでも、僕がいる部屋の様子は見えているのかな。
そしたら、いきなりハルがこちらがわに身を乗り出してきて、テレビ画面の内がわに顔を押し付けた。ハルの顔がテレビ画面に押しつぶされている。そう思ったら、テレビの画面をどんどんたたいている。ハルのいる格闘ゲームの世界と、僕がいる部屋のあいだにはかべがあるみたいだ。
「まったく、さんざんケイ様をはずかしめておいて、今さらあんな情けない姿をさらすなんて。そんなことより、ケイ様。わたくしのおすすめはこの投げキャラですわ。この投げキャラは、相手をケイ様が見ているテレビ画面にたたきつける投げ技を持っているんですのよ。このいじめっこをテレビ画面にビターンビターンとたたきつけるのは気分爽快なことうけあいですわ。はい、コントローラーをどうぞ」
「じゃあ、クックの言う通りにしようかな」
クックにそう言われて、コントローラーを受け取ると僕は投げ技キャラクターをチョイスした。ゲーム画面が戦闘画面にきりかわった。
ラウンドワン、ファイト
ハルとの対戦が始まった。あっ、ハルがこっちにつっこんできた。エネルギー波は出せないけど、パンチやキックならできるんだろうな。防御しなくちゃ……
「ケイ様、防御なんて必要ありませんわ」
クックはそう言うと、十字キーを操作して防御しようとした僕の左手をにぎりしめる。
「え、でも、ハルに攻撃されちゃうし……」
僕がそう言っているあいだにも、ハルが殴ったり蹴ったりしている。だけど、僕の投げキャラクターはダメージを受けていない。それどころかダメージをくらったのけぞりモーションにもなっていない。どういうことだろう。僕が不思議に思ってクックのほうを見ると、クックは得意げに話し出した。
「この現実世界のケンカ自慢程度がやるパンチやキックなんて、ゲーム世界のキャラクターにはちっともききませんわ。さあ、ケイ様。今こそレバー二回転パンチですわ」
「でも、そんな複雑なコマンド技は超必殺技のゲージが溜まってないと使えないんじゃないの」
そう僕が言ってゲーム画面を見ると、僕の投げ技キャラクターの超必殺技ゲージが、第一ラウンドが始まったばかりなのにすでにマックスまで溜まっている。いっぽうハルのほうはゲージそのものがない。ハルにはチートスキルどころか、普通の格闘ゲームのキャラクターが持っている通常スキルすらないみたいだ。
「ケイ様には、超必殺技が使い放題のチートスキルがあります。思う存分あのいじめっ子に超必殺技をたたきこんでくださいまし」
クックにそう言われたので、僕はレバー二回転パンチのコマンドを入力した。すると、僕の操作する投げ技キャラクターが光ったかと思うと、ハルをがっしりつかんで右へ左へと地面にたたきつけだした。そして、ハルがこちらに向かって放り投げられたかと思ったら、テレビの画面にたたきつけられた。テレビ画面には押しつぶされたハルの顔が映し出されている。
「すばらしいですわ、ケイ様。レバー二回転パンチなんて複雑なコマンドをああも簡単におやりになるだなんて。あの最低ないじめっこに接待プレイで花を持たせられるんですもの。格闘ゲームがお上手に決まっていますよねえ」
そんなクックのほめ言葉を聞いていると、ハルが画面の下にずり落ちていったと思ったら、すぐに僕の投げ技キャラクターとハルが向かい合っている。ハルの体力ゲージは三分の一くらい減っていた。一方、僕の超必殺技ゲージは消費した分がすぐに回復している。
「ほら、ケイ様。ケイ様の超必殺技ゲージはいつでもマックスになりますから、超必殺技は使いたい放題ですわ。ちなみに、今の技モーションは弱パンチでのものですわ。あんないじわるないじめっこに弱パンチで攻撃してあげるだなんて、ケイ様はなんと慈悲深いのでしょうか。でも、中パンチと強パンチの技モーションもありますから、ぜひお試しになってくださいな」
「へえ、そうなんだ、弱、中、強ごとの技モーションがあるんだ。凝ってるなあ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます