テレビから出てきたゲームの女の子が僕の部屋に居座るいじめっこをゲームの世界に追放してくれて、その女の子があれこれ僕の世話を焼いてくれる

@rakugohanakosan

格闘ゲーム

第1話

「おい、ケイ。このゲームも飽きたぞ。何か新しいやつねえのかよ」


 そんな理不尽な要求を、僕の部屋に居座っているいじめっこのハルがしてくる。夏休みが始まってから、最終日の八月三十一日になるまでずっとハルは僕の部屋に居座ってゲームばっかりしている。


「かんべんしてよ、ハル君。そんなに新しいゲームなんて準備できないよ」


 僕がハルにおずおずと答えると、ハルは機嫌悪そうに怒鳴りちらしだした。


「ちっ、使えねえなあ。ゲームセンターケイも客商売なんだから、サービス良くしろよ」


 そんなハルの言葉に、僕はボソボソと答える。


「だって、僕の部屋はゲームセンターじゃない……」


 そしたら、ハルがわめきだした。


「あ! 聞こえねえよ。まあいいや、ケイ、おまえ相手しろよ。言っとくけど、きちんと接待プレイしろよ。せいいっぱい俺を楽しませるんだぞ」

「うん……」


 ハルの命令に僕がしたがおうとしたら、ハルが何かに気づいた。


「お! なんだ、あるじゃないか。新しいゲーム。『新しいゲームなんてないよ』なんて言っておきながら、こっそり新作をしのばせておくなんて、ケイもなかなかかわいいところがあるじゃないか。ふうん、格闘ゲームみたいだな。とりあえずやってみるか。しばらく俺一人でやるからな。ケイは後ろで見てるんだぞ」


 新しいゲームなんて用意してないけどな。そう思いつつも、ハルがその新作格闘ゲームをプレイし始めるところを僕は後ろに下がって見ていた。そしたら、いきなりテレビの画面がピカッと光って部屋中がまぶしくなった。


 気がついたら、部屋にハルはいなかった。代わりに、すっごくかわいくておっぱいが大きくて、エッチな服を着た、いかにも中世ファンタジー異世界から召喚されたって感じの女の子がいた。


「はじめまして、ケイ様。ややこしいあいさつは後にしまして……まずはテレビをごらんになってください」


 そう言われて、僕がテレビの画面を見ると、ハルらしきキャラクターがゲームの中のにいて、なんだか筋肉ムキムキの強そうなマッチョマンと向かい合っている。


「ほら、ケイ様。ショータイムの始まりですよ」


 そう女の子が言うと、『ラウンドワン、ファイト』の掛け声がゲーム画面でかかった。ハルらしいキャラクターは、なにやらオタオタしている。エネルギー波を出そうとしているが、なにも出ない。格闘ゲームのキャラクターみたいに二、三メートル飛ぼうとしたみたいだけど、ちょっと飛んだだけで無様に転んでしまった。それを見て女の子がゲラゲラ笑っている。


「バカねえ。チートスキルなんて持ってやしないんだから、現実世界の人間が格闘ゲームのキャラクターみたいにエネルギー波を飛ばしたり、空高く飛べやしないわよ。あ、ケイ様。今まさに、あの憎たらしいいじめっこがボコボコにされますよ」


 そう女の子が言った通りに、ハルっぽいキャラクターが対戦相手のマッチョマンにけちょんけちょんにされだした。ハルっぽいキャラクターは現実世界みたいな動きしかできなかったのに、マッチョマンは格闘ゲームらしい派手な技をポンポン出してくる。


 ハルっぽいキャラクターは、エネルギー波で丸焼きにされ、対空アッパーで空高く吹っ飛ばされ、豪快な投げ技で何度も地面に叩きつけられた。現実世界なら即死してもおかしくないダメージを食らっているだろうが、ゲーム世界なのだからかハルっぽいキャラクターは倒れたままでいることも許されずに立ち上がらされている。それをケタケタ笑いながら見ていた女の子だったけど、急に僕のほうを向くと、真面目な顔で話しはじめた。


「ケイ様、自己紹介が遅れました。わたくし、クックと申します。あのいじめっこをゲーム世界に追放して、コテンパンにさせるためにこの世界にやってきました」


 そうクックに説明されて、僕はさっきから疑問に思ってたことを口にした。


「クック……さん」

「クックでよろしいですわ、ケイ様」


 そうクックに言われたので、呼び捨てにすることにする。


「クック、あのゲーム画面にいる、さっきからマッチョマンにギッタギタにやられているハルっぽいキャラクターは、さっきまでこの部屋にいたハルなの」


 僕の質問に、クックはうなづいた。そうやって僕とクックが話している間も、ゲーム画面のハルみたいなキャラクターはマッチョマンにされるがままにされている。


「その通りですわ。さすがケイ様。理解が速くて助かりますわ。いまゲーム画面でボコスカやられているのは、いまのいままでずうっとケイ様をいじめぬいてきたあの男ですわ」

「そうなんだ……」


 僕が思っていた通りだったみたいだ。ハルってば、何のチートスキルも与えられずにバイオレンスな格闘ゲームの世界に召喚されちゃったんだ。僕がそんなことを考えていると、クックがニコニコ笑いながら僕に提案してきた。


「ハル様があのいじめっこと対戦できますよ」

 

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