願いと料理
次々に食事が運ばれてきては、テーブル一杯に広がる豪勢な食事。
「俺たちは迎えられていると考えても?」
「えぇ、勿論ですよ。その為の食事なのですから」
「どのような目的で?」
「核心に迫るには些(いささ)か早過ぎませんか? それに食事が冷めてしまいます」
「申し訳ないが、食べる気はない」
「苦手なものでも?」
「貴女とは食を共にしたくない。良ければ持ち帰っても?」
「理由を伺っても宜しいですか?」
「これ程の食を他人の私に提供出来るほどの蓄えを持ちながら、門の外に居る彼らを助けようとはしない。それに、外には美味しい喫茶店があるんだ」
席を立ち上がろうとするゼロに向かって目の前の女性はもう一度座るように促した。
「まだ理由を伺ってはいないでしょう。食事をつめさせますので、それまでの時間は語らい合いましょう」
「手短にお願いしても?」
分かりました、と告げる彼女は話し始めた。
「私は『レイ・ラグドール』と申します。エクセレス王国において伯爵の地位を授かっております」
その時、コンコンコンとドアをノックする音が部屋に響く。
「失礼します」
やって来たのは執事服を着た男だった。彼はカートを押し、その上にはコップや粉などが置いてあった。
「お話中、申し訳ございません。レイ様、珈琲と紅茶、どちらに致しますか?」
「珈琲で頼むよ。ゼロと其方の女性はどうする?」
「結構です」
「私も」
「承知しました」
気まずい空気が流れ始める。
執事の淹れる珈琲の匂いが少しだけ場を和ませる。
「ベンガル、とても美味しいよ。ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
「それじゃ話を始めようか。ーーゼロ、君は目の前にあった食事を全て覚えているかい?」
「え?」
思いも寄らない発言だった。それなら何故、食事前に声を掛けたのだろう。ただの富豪の娯楽か、それとも気まぐれか。はたまた言葉遊びをしたいだけなのか?
「全てではないが覚えている。」
「あ、いや警戒しないでくれ。何も脅そうっていう訳じゃないんだ。」
そこで一呼吸置くとレイは再び口を開いた。
「君はこの街に来てどう思いましたか?
この金持ちの暮らしをみてどう思いましたか?
ゼロ、自分の生まれ育っている街のことを悪く言いたくはないが酷いものだと思いませんか?
この富裕層に住む者たちは、現領主の息のかかった者たちが殆どです。彼の時代から次第に廃(すた)れていき、貧しい者たちはその場しのぎの食生活を送る者ばかりです。しかし、ここに住む達はそれを知ろうとしません。食べ物が不作だというのに平気で食べ物を残す始末です。その割に、税で納める量は計り知れません。
何故かここ数年、天気が気まぐれのように移り変わっている事も原因でしょう。これでは作物が全く育ちません。領主が変わらない限りこの街は発展しないのです。いつか廃れて滅ぶことは火を見るよりも明らかとやっています」
街の内情について話した後、再びレイは口を開く。
「今、お話しした通りこの街は治安も経済的にも褒められたものではありません」
レイは乾いた喉を潤そうと珈琲を口に含んだ。
その後、一回深呼吸をした後、ゼロの目を見ながら伝える。
「だから、私が、空軍にお願いしたのです。共にこの街を壊して欲しいと」
その発言を機に、応接室は静寂に包まれた。時計の針が時を進む音がする。
「それで軍人様か」
「ある意味ではそうでしょう。ただ、この街における軍人様はまた別の意味を持っています。権力や恐怖、人々は自分を守っているのです」
「二重に支配されているのか」
「そうです。そして、私は『明日』に賭けています」
「どうして明日に拘る?」
「そうですね、少しだけ昔話をさせて下さい。私には仲のいい友達がいました」
話し始める彼女の目には薄らと涙がたまっていた。
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