11
ルスカーデはエクセレス王国における五大都市の一つである。それに伴い、この街を治める領主の屋敷は必然と大きく、何処からでも分かるようになっている。
2人はそこへ向けて足を進めていた。
「これから如何(どう)するおつもりですか?」
「さぁな」
「平等を作るおつもりですか?」
「平等ね」
人は生まれながらにして“平等”であると声高らかに演説する者もいるがそんな夢世界は絶対に存在しない。
ヒトほど“不平等”を身に纏い、生を受けてこの地に産まれる種族はいないだろう。
「そうなれたらいいな」
そうなれたら、人が本当の意味で思いやりを持てたら、この世界から醜い争い事など消えて無くなるのだろう。
今より『悪しき時代』へと人類の足が向かうこともなくなるのだろうな。
ここで会話は途切れる。
そこからは2人はただ目的地に向けて歩を進める。
まだ遠くに屋敷が有るにも関わらず2人の眼前には大きな扉が姿を現した。
その扉の近くには、年端も行かぬ1人の少女が両手で籠を抱え道路脇で佇んでいるのだ。扉へ向かって近づいて行くと少女はこちらに気付き、トコトコやってきてはカゴを差し出してきた。
「おじさん、食べ物ください。家族がお腹を空かせてるの」
そう言って少女が差し出してきた籠の中を見ると何も入っていなかった。
「どうしてこんな所で?」
当然の疑問を俺は聞いてみた。
人が全然いないところよりも先程までいた所の方が、まだ人はいたし、何かを貰える確率が明らかに高いと感じたからだ。
少女はゼロ達が歩いてきた道に一度顔を向ける。その顔を私達に向けると哀しげに答えた。
「今まではね、おじさんが歩いてきた所に住んでたから初めはそこでやってたの。でもね、私は身長も声も小さくて誰も見てくれなかったの。だからね、こっちの方が見てくれるかなと思って。ほら、それにご飯いっぱいあるあっちの人たちから貰えるかもって思ったんだけどね、えへへ、でもまちがっちゃったかな」
家族に対する申し訳なさか、自らの非力に対してか、誤魔化すようにしてはにかんだその笑顔は余りにもぎこちないものであった。
同情に過ぎなかったが、俺は僅かばかりの食糧を分けた。
「家族の分とまではいかないだろうが、それでもよければどうぞ」
「仕方がないから私の分もやる。大事にしろ」
食べ物を渡された少女は初め何が起きたか分からず固まっていたが、次第に理解すると目を輝かせてお礼を告げる。
「ありがとね、おじさん! お姉さん!食べ物大事にするね」
「どういたしまして。みんなで仲良くお食べ」
その後も何度もお礼を言ってくれる少女に別れを告げるのと同時に、少女には早く帰るように促した。最後にお礼を述べると少女はゼロ達が歩いて来た道へと帰って行った。
「いいとこあんじゃん」
「私はゼロから貰った温かみを周りにも分け与えているだけです、ほんの少しだけ」
「許容を超えない程度にな」
「はい」
少女と別れた後、俺は門をノックしその中で待機していた門番に対して空軍本部からの文書を見せた。
門を潜った先は、別の街や世界に通じたのではないかと錯覚させるほどの違いがあった。街並みだけでなくそこで生活しているであろう人々の雰囲気までもがガラリと変わった。
門の中で暮らす人々は、お金の掛かっていそうな家や洋服、そして手には宝石をはめ幾人かの騎士を引き連れ我が物顔で歩く様々な年代の者たちが生活していた。
空軍服の2人は周りから浮いており、皆、好奇の目で此方を見ていた。
纏わり付くような嫌な視線だ。
「行くぞ」
「はい」
その時、歩き出した2人の前に割って入るように女の子が姿を見せた。
「少しお待ちを軍人様」
「ここでもか」
「なんですか?」
「いや、何でもない」
小さな人だかりができ始めた。
「1つ聞きたい。『約束』とは何だ?」
女は一瞬、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をすると、クスクスと笑い始めた。
「あははは。これはこれは、軍人様もお人が悪い。この場でまさかおとぼけになるとは。それともこれは何かの趣向なのですか」
女は続けて口を開いた。
「ここでは何です。取り敢えず私の屋敷でお茶でも致しましょう」
場所は変わり、ここはルスカーデにある大きな屋敷。
この屋敷の中では訓練によって汗を流す男たち、腕によりをかけて料理を振る舞う男や女といった料理人たち、そして執事やメイドの姿など様々な役職の者たちが清潔さを併せ持ち日々職務を全うしていた。
屋敷の最上階。
そこに置かれている豪華な椅子にはブクブクと太り脂汗を流している、お世辞にも清潔とはいい難い男が座っている。
その近くには、小さな眼鏡をかけ白髪に染まった髪をオールバックで綺麗に纏め上げた初老の男がいた。
この部屋にいても違和感のない彼らとは対照的に清潔さとはかけ離れた、品位を落とす薄汚い集団と1人の紳士服を纏った男の姿が見受けられる。
本来ならば、この街において最高権力者である男の前では頭(こうべ)を垂れるべき場面において異端者は動きを見せない。
「おい、貴様らが俺の依頼を受注した者で間違いないか?」
「はい、この度は私共の商会を選んでいただき誠に嬉しく思っております」
返事を返した男は、一言でいえば掴み所のない信用に足らん人物であった。
銀縁の眼鏡を付け黒い燕尾服を身に纏い、片方には杖を、もう片方には黒いシルクハットを持ち、明らかに胡散臭さが滲み出ている男だったからだ。
「では、早速、依頼に取りかかるんだ。貴様らが居ては空気も不味くなって叶わんからな。なぁに、依頼分の報酬はキチッと出してやるさ」
「かしこまりました、私共にとっても此処は毒みたいなもんですからね。クフフフフ」
不気味な笑いをしながら身体を翻(ひるがえ)し、部下を引き連れ部屋を出ていく男。
「薄気味悪い連中め、失敗したらただではすまさん」
「噂には聞いておりましたが、実在するとは思いませんでした」
「この国も狂ってきておるのだろう。私は静粛の第一歩を歩み始めたに過ぎんが、他の4都市も既に動き始めている可能性もある。出遅れるわけにはいかん」
「仲介人(メディエーター)とは上手く付き合っていきませんと、此方が足元を掬われる可能性があります」
「分かっている。国の静粛に向け、税を納められぬ不届き者どもを早く一掃せねばならないからな。奴らは税を納めん癖に、いつまでも人の領地にいやがる。無能な奴はいつまで経っても無能のままであるな。領主というのも面倒くさいとそうは思わんか?」
「仰る通りかと」
部屋に響くのは太った男の汚い笑い声。そして表情を崩すことなくただ立ち続ける初老の男。そんな2人の相反する光景を尻目に物語は進んでいく。
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