第5戦記

レイエンドは森の奥へと進路をとる。

その頃、外界では国の希望が突撃体制を編成していた。



「総員注目! 敵の殲滅と並行して原因を探れ! よいか! 今、無能たちは森の中で小鬼ごときに弄ばれている。我が国の恥だ。だが、貴様らは違う。国の宝である――我らの力を小鬼に知らしめてやろうぞ! ――戦え! 戦い抜け!その身散るまで! 突撃っ!!」


ガデュワンダーの激を身体に受け覚醒者は次々と戦場へ身を投じる。







ある者の手からは火が、またある者の手からは鎌鼬が、空軍兵個人の所有する能力が具現化され、様々な形を彩り、生らずの森へと襲いかかる。

ガデュワンダーは中隊長からの報告を完全に信じることは出来なかったが、国が保有する各国への牽制兵器を損なわないための措置として、森の上から攻撃を繰り出す作戦へと切り替えていた。


だが、そこには実に不気味な光景が広がる。

彼らが攻撃を与えている森には何がいる?

殲滅対象の小鬼だ――いや、果たしてそれだけか?

違う――同国の、それも同軍の味方もそこには居るのだ。

誰が国にとって有益で、誰が有能であるかを教えられ生活してきた背景が、たとえ自らの攻撃が同国の第1部隊に当たる可能性がある事を知りながらそれには躊躇は一切感じられない。

敵味方関係のない攻撃は続く。

空軍の基本理念は生きて仲間の命を奪い続けていた――。







『覚醒者』とは独自の能力が発現した者たちを総称した名であり、彼らは多種多様な能力を持ち得るため存在自体が極めて重要なのである。

つまり覚醒者数が減ることは何としても避けねばならない絶対的事項の一つだ。

無能と覚醒者、この両者を比較した場合の価値の大きさは自ずと見えてくる上に、両者の格差は世界という概念によって守られ、今もこうして存在し続けている。






「こんな雑魚に手こずるなんて無能はやっぱり使いモンにならねぇな」


「ま、そういうなよ。奴等にも仕事はあるんだ。有能な俺らの的役としてな」


「 「 ア ハ ハ ハ ハ ハ ! 」 」


ガデュワンダーが指揮をとる以上、複雑な作戦は存在せず、特に考える事なしに遠くから能力を発現させるだけでいい簡単な作業で済むのだから今回の任務は彼らにとって遊び感覚で済むが故に笑いが起きていた。


「お前もそう思うだろ? 新人のラッセル君」


「的になり得るのなら有能だと思いますよ」


「上手いこと言うなよ、お前」


再び笑いが生まれる。

まるで別次元の時間軸に拠点を構えているかのような緊張感のない空気感が戦争である事を忘れさせる。


「無能なんて俺ら覚醒者を守るために居るのに、どうして奴らの尻拭いをしなきゃいけないのか、奴らなんて見捨てても幾らでも湧いて出てくるのですから」


彼らが戦時中にも関わらず談笑していようとも、森から空へと黒矢が飛来する予想外の攻撃があったとしても、彼らの飛行領域まではやって来ない。

また、敵が自らの隠れている場所を示してくれるのだから何とも簡単で危険の存在しない任務である事か。

しかし、敵数の把握が難しいことに加え、広大な森であること、覚醒者の数が少ないことといった多様な要素によって殲滅まで長くなりそうであるが、どうやらそれは絶対的有利の構図により時間が解決しうる問題であることは明白であった。

無能者が苦労し、壊滅状態に陥れられようとも彼らはまるで空からの景色を楽しむ旅行をするだけの余裕があるのだから、やはり覚醒者というものは無能者とは比べ物にならないほど強大な力を有していた。




「小隊長、原因は大方追撃に向かったが森に潜んだ弓持ち小鬼に倒されたってところですよ。これからはどうします?」


「第三小隊は推測ではなく確固たる原因究明を発見次第、無能者部隊の生存者捜索と小鬼の殲滅作戦を同時並行する」


本来であれば、森に侵入し原因究明を行うべきだろうが自らの勝手な作戦により隊員を危険な場へ連れていくことは気が引け、また森は小鬼の棲み処になっている可能性も考えた為の対応である。

我が隊の兵士は原因について述べていたが、まだまだ謎が残っていることに気付いていないのだろう。


1)報告にあった軍団を統べる総指揮官

2)どうして『飛べない』小鬼が木の枝にいたのか


原因究明も任務の一貫である以上、その重要性を再確認せねばならない。

今後、我々空軍兵士が小鬼(ゴブリン)との戦いで勝利を確固なものとできるか否かはここで変わってくるのだ。

しかし、原因を捜し飛行を続けているが森を構成する数多くの木が中身を隠すかのように生え渡っているせいで一向にそれらは分からない。

ここは危険を承知の上で、密に連絡を取り合い味方の攻撃が間違えても当たらないようにしながら森の中を詮索するしか方法はないのかもしれない。

小隊長が打開策を考じている頃、森の中でも覚醒者の出現に併せて次の手が放たれようとしていた。





――森のとある場所


「ツギノ サクセンニ ウツレ。ニクノ ウタゲハ チカイゾ」


人知れず森の中にググもった笑いが響き渡る


新たな戦の幕開けはすぐそこに迫る――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る