第16話5月 5日 美春
5月 5日 水曜日
「終わったー!」
美春はそういうとガッツポーズをしたまま布団に倒れ込んだ。
「お疲れ様」
僕がそういうと美春はタンポポの種の笑顔をみせた。
「へへ、一樹もね」
あれほどあった段ボールの山は今日の午後6時をもって綺麗になくなった。
しかし、前に見かけたゴキブリがあれから出ていないのがちょっと怖いところではあったが、無事片付けが終了した。
「しかし、すごい量だったな。美春のことだから、部屋が片付いてないなと思って2週間猶予(ゆうよ)を与えたんだけど足りなかったか?」
それに美春は引きつり笑いをする。
「ああ、アレね」
…………………
「片付けてなかったのか」
それにガバッと美春が起きた。
「違う!違うよ!一樹!!!アレよ、アレ。ほら目覚めとともに昼の日差しを浴びるじゃない?そして、ああ今日も大学に行かないとなぁ、と大学に行く訳よ。それで帰宅するとソシャゲをやって、クロスやって、そうするとあら不思議。もう午後の9時になるわけよ。それで私は思うの。あ、アニメを見ないと。そして、録画していたアニメをみながら夕食をとっら、うとうとし出してして、そして昼の日差しで目が醒めるの。だから!」
そこで美春は立ち上がって拳を握りしめ言った。
「あえて言おう。私の責任ではないと!」
「いや、お前の責任だよ」
それに美春は手をバタバタさせた。
「いや、だって私コーディネーターじゃないしナチュラルだよ。やっぱり生身の人間ではできることとできないことがあるんだよ」
「美春。一つだけ言っておこう。他のナチュラルでも片付けができる人は大勢いるんだよ」
それに美春は宇宙の果てへ落下して行った。
「うそ!」
「うそ言ってどうする?こんな汚い部屋にしているのは美春か水越さんかぐらいかだろう」
そういうと美春は涙目になった。
「違うもん!私や水越さんだけじゃないもん!みんな本当のところは部屋を散らかしているんだもん!ただ、恥ずかしいから本当のことを言ってないだけでみんな本当のことは散らかしているはずなんだもん!」
そう言って、美春はビエンビエン泣き始めた。
それに僕は美春に駆け寄る。
「
悪かった。悪かったよ、美春。そうだよな、みんな本当のことは美春の部屋にように散らかしているんだよな?」
それに美春はリスのようにこくこくうなずいた。
「悪かった、許してくれ、美春。ほらテイッシュ」
それで美春はティッシュで鼻をかむと泣きはらした瞼(まぶた)を自分のテイッシュで拭いた。
「許してくれるか?」
美春は僕に抱きついたまま、顔を横に向ける。
「ファミレスのパフェ」
「は?」
それに美春は抱きついたままそっぽを向く。
「パフェ。おごってくれないと許してあげないんだから」
「はは、わかったよ。そのくらいおごってやるよ。だから、許してくれ」
そういうと美春はばっと僕の体から離れてドヤ顔で言った。
「もう、仕方ないなぁ、一樹は。女の子を泣かせるダメな男なんだから。まあでも、私が恋人で良かったね。私の寛大な心であなたの罪を許してあげます。やっぱり、一樹って私がいないとダメダメね」
「はは、ありがとう」
そして、僕はあらためて美春の部屋を見渡す。美春の部屋は1Kの狭い部屋だったが、片付いた後もテレビ、P S4、ちゃぶ台にパソコン。何より一際目を引くのは本棚の中にある膨大な漫画とアニメのBD。
ともかく女子の部屋には見えなかった。いや、クマのぬいぐるみとかはあるけど、カーテンも普通だし、ファンシー的要素は無いのだ。
そして、僕はもう一つの方を確認する。もう、午後の7時か。
「美春」
「ん?」
美春はリスの表情でこちらを見つめる。
「もう、遅いしファミレスに行かないか。食事と一緒にパフェおごってやるよ」
パンケーキからみるみる蜂蜜(はちみつ)が垂れた(たれた)。
「うん!行こう!パフェか。どんなパフェがいいんだろう?やっぱいちご、それともチョコレート?ああ、でも抹茶もあれば捨てがたい。で夕食はパフェがあるからパスタ類よね。ちょっと、一樹!一つ言っておくけど、安いファミレスだったら承知しないよ!」
「プラチナに行こうと思うんだけどどうかな?」
「プラチナならよし!あそこはリーズナブルな料理があるからね。じゃ、行こう。プラチナへレッツゴーだ!」
「はは、じゃあお化粧しといで、こっちも準備するから」
「了解!」
「うわ!めちゃウマ!このチョコレートパフェめちゃウマだよ一樹!」
「そりゃ良かった」
僕はコーヒーをすすりながら応えた。
今は午後9時。美春にしては早めに支度をし終えたのですぐに僕たちは自転車でプラチナまで行って食事を取った。
僕はステーキ定食を、美春はベーコンのペペロンチーノにチョコレートパフェを頼んだ。そして、二人とも当然度リングバーを注文に入れて、僕はそのコーヒーを飲んでいる。
僕はベージュ色のコーヒーを飲みながら思う。これからの将来の事。
まあ、大学を出たら就職をするというのがスタンダートだろうが、僕は今小説家になろうとする夢を捨てたくなかった。
それは自分のためというよりは、社会のため、人類のために、人々がそのようなマインドを持つための小説を提供しなければならない、という使命を僕は持っていたのだ。
正直言って今の日本の社会は滅びに向かっている。北朝鮮以上に国内に非常に大きな問題を抱えている。
問題が山のように積み重なっているが、いちばんの問題はそれを問題視しないことが大きな問題だと思う。
既得権益者が守られている、という問題よりも、誰もが日本の政治がいびつだと気付きながら、特に若者がそういう問題へ避けようとしているのが何より大きな問題だ。
その若者たちに気づきの印を出すことが大きな使命だと僕は思っているが、しかし、ラノベはエンターティメントだからアートを重視しすぎるわけにはいかない。
アタタカイヤミ、最後の恋あたりはいいけど、やはり次からはもうちょっと踏み込んだ内容にするしかない。
今の若者たちのいちばんの問題点。それは精神的に未成熟。いわゆるヘタレだ。そして、これが最もダメだと思うのはその自分のヘタレな部分を直視せずに、諸々の社会問題を自身のヘタレの私物として扱っているのだ。
本気で朝鮮事情を憂いて、北朝鮮を批判するよりかは、ただ批判したいがために、そこにひょっこり北朝鮮が出るから、自分の発言の内容の重みを考えずに批判する人たちが若者の間に大勢いる。
そして、そういうヘタレたちは自分のヘタレ具合を直視しないようにしている。
スマイルとかネットとか見ても分かる通りにヘタれたやつを見るとすぐに軽蔑するやつが今じゃほとんどだが、普通の大学生と話していると99パーセントはヘタレだということが分かる。
だから、自分のヘタレ具合を是正するようなマインドに誘導していかないといけないんだが、ヘタれたやつを見ると彼らはこいつはダメだ、という発言をしがち。
昨今の成長物語を見ると自分のあまりのヘタレ具合を直視するよりも、誰もが何かしらあるあるというような軽いヘタレを見せておいて物語を展開することが多いにある。
それはすぐに感動をもたらすが、しかし自分のヘタレの改善というマインドには向かわない。
いや、そういう作品はあるにはあるが、アニメファンからあまり評価されていない。
僕が考えているのは、僕は昔はヘタレだったから、その実体験を描きつつ、ヘタレ脱却の道しるべを書くことだが、ちょっとなあまりに強烈なヘタレ具合だから、最初で読むのを止める人が大勢出てくると思う。
それをどうやってエンターティメントの枠内で書くか。いい案が浮かべばマイ フィロソフィシリーズじゃなくても良いんだけど、どうするか?
「かずき、ねえ!一樹ってば!」
美春の声にびっくりして僕は飛び上がった。改めて美春をみる。
「ねえ、ぼーっとしてたよ。考え事?」
美春の瞳からはバニラの花が咲いていた。
「うん。考え事。ちょっと、小説を今後どういう風に動かそうかと思って」
黄色いコスモスの花が満開に咲いた。
「え?え?小説?そうか、一樹小説を書いているって言ってたもんね。それには私も出る?」
「もちろん。自分の自伝的な小説だから美春も出るよ」
コスモスの花から蜜(みつ)が出た。
「そうか、そうか。私、出るんだぁ。ねえ、私ってどういう位置付けで出てくる?やっぱりヒロイン?」
「それに近いかな。路上のタンポポでは憧れの人として出てくる。でも、マイ フィロソフィシリーズは基本的に僕が主人公だから、重点的に描かれるのは僕になるかな」
コスモスの花はますます生い茂り蜜を垂らし続けていた。
「ふんふん。楽しみだなぁ。一樹の小説。もちろん、私にも見せてくれるんでしょ?」
そこで僕はピンときた。
「そうか、原稿はもう完成しているんだから、みんなに見せてもいいんだよな。未完成だけどみんなで推敲(すいこう)すればいいだけの話だし、何をためらっていたんだ?わかった、美春、原稿見せるよ。読んでくれるか?」
それに美春は満面の笑みで親指を立てた。
「よし、そうしよう」
そして、改めて僕は美春の服装をみた。今日は赤茶色のシャツとベージュのボトムズ、そして、片方の髪をネックレス風のビーズで止めていた。とてもかわいかった。
「美春。今日の服装いいね。その髪で縛ってるのがとてもオシャレだ」
美春の顔は瓢箪になった。
「一樹、おっそーい。ダメだよ、出かける時に言わないと。心が寛大な私だから、許してあげるけど、普通に考えて彼氏失格だよ」
「はは、以後気をつけるよ」
僕は言おうかどうしようか迷っていた。美春の頬についているチョコレートムースに。
ここは言う方がベター?言わない方が正解?
う〜ん、どっちを取ってもダメなような気がする。
そして、僕はテイッシュをとって、さっと美春の頬についていたムースを取った。
「あ!一樹!」
「いや、チョコレートムースがついていたから」
みるみる美春の顔が紅潮(こうちょう)する。
あ、失敗だったかな?
そう、反ば自分のやったことに後悔していると、美春が顔を横にしてパフェをつきだした。
「?美春、これは?」
「食べて」
「いいの?」
そう言うとイタチがキレた。
「いいの!さっきのお礼!いいから早く食べてよ!」
そう言ってまたそっぽを向く美春。彼女の頬は熱に浮かされたように赤かった。
「じゃ、じゃあ。いただきます」
パク。
僕はスプーンでチョコレートパフェを食べる。それは芯の甘さと外側で覆ってる苦みの絶妙なハーモニーがあった。
それでまたそっぽを見せている美春が、チラチラとこっちを見ながら聞いてくる。
「で、美味しかった?」
「うん。とっても。ありがとね、美春」
そう言って僕は美春にパフェを返したら、美春は手をバタバタさせた。
「べ、別にあんたのためにしたんじゃないんだから!そう!これは借りを返したの!そこんところ勘違いしないでよね!」
「うんうん。わかってる」
火山が爆発した。
「もう!バカずき!わかってないんだから………」
夜がしんみりと更けていった。
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