第15話5月 2日 美春
5月 2日
さっと目を覚ます。
うん。今日はなんとか起きれたな。今は午前9時。まあまあな時間帯だ。
今回は寝坊するわけにはいかないな、なんて言ったって。
美春のうちに行くんだからな。
そう言葉を内に出した瞬間、赤いガーベラの花が開いた。
いかん、いかん。なに熱くなっているんだ。美春とは知らない仲じゃないし、高校生の時からの付き合いだろう?そりゃあ恋人同士にはなったけれど、別にそんなに大したことは………。
そして、すぐに、大したことはあると気づく。
ま、友達からと、恋人同士じゃあ違うよな。よっと。
ベッドを降りて、クロスで昼の1時あたりにそちらに向かう、とチャットに書き込む。
ま、身嗜みはしっかりしないとな。
そうして、僕はいそいそと出かける準備をした。
さてと。
徒歩で万富駅まで来て、改札を抜ける。そうしてしばらくの間電車を待つ。その間にスマホを開きクロスを見る。そこには・・・・・・・
なにも、返信が来ていない。
今は午前の11時。とっくに美春も起きているとばかり思っていたが。
さては、まだ寝ているな?あいつ。
僕は美春のスマホに電話をかけた。しかし、美春が出ることはなかった。
はー。仕方ないやつ。
と、そうこうしているうちに電車が来た。すぐに僕は電車に乗り込見空いている座席に座った。
そして、美春が住む岡山駅の前、西ケ原就実のところん来た時に大量の乗客が乗り込んできた。その中には若い女性もいた。僕は席を立って、その若い女性に行った。
「席、どうぞ」
それに彼女はキョトンとした表情を見せた。そして、脱兎の如く(だっとのごとく)首を横にぶんぶん振った。
「いえいえ、結構です」
「でも、女子に立たせるわけにはいきませんから」
「いえいえ、次の駅で降りるので大丈夫です」
「そうですか………」
それで、僕は引き下がって席に座った。
なんだかな。
わかっていたことだけど、なんかこう言う反応には慣れないよな。すぐで済むなら僕も一緒なのに、女性の皆さんは人から好意を受けるのが嫌なようで、すんなり好意が通ることが稀(まれ)だし、こんな小さな親切ぐらいは快く(こころよく)受諾(じゅだく)してくれればいいのに、と思うのだが、その反面。好意を受けるか受けないかは本人の自由だし、とも思ってしまう。
5月の暖かな日の光が電車の窓から射していた。
ピンポーン。
ドアのチャイムを鳴らす。春のうららかな陽気の中、しかし僕の内心はマグマが猛っていた。(たけっていた。)
ピンポーン。
そして、二度目のチャイムを鳴らしたときだった、ガチャっとドアが開いて彼女が現われた。
「あ、一樹こんにちは」
「こんにちは。美春、今部屋のなか入っても大丈夫?」
それに美春はカメレオンの表情をした。
「はは。まだ、できてないからちょっと待っててね」
「ああ」
今は昼の12時。昼食も兼ねて美春とのデートと同棲の始まりにするつもりだったが、あれでは結構時間がかかかりそうだ。
ぐ〜。
さて、お腹はいつまでもつかな?
ピンポーンと
「はいはーい」
「美春」
そういうと美春は両手で拝んで言った。
「ごめん、もうちょっとで終わりそうなの。だから、もうちょっと待って!」
「あ、ああ」
そして、また美春は部屋に戻って行った。
ピンポーン。
ガチャ!
「一樹、ごめんね。もうちょっと待って!あとちょっと終わりそう………」
「いや、美春。もう夕方の6時なんだけど」
もうすっかり空は夕暮れでこちらの空腹ももうそろそろ限界だった。
それにまた美春はカメレオンの表情をする。
「はは、そうだね」
「部屋の片付けは一旦やめにしてさ、夕食一緒に取らない?」
それに美春は恥ずかしそうに頷いた。
「うん」
「美味しかったね、麻婆豆腐。また行こうね」
「ああ」
結局僕らはイオンで食事を済ませたあと、そのまま美春のアパートに戻った。
美春は腕をまくり上げながら言う。
「もうちょっと待っててね、かずき。あとちょっとで終わるから」
「そのことなんだけどさ」
美春はキョトンとした表情でこちらを見る。
「僕も部屋の片付け手伝おうか?」
大木はガハハと笑うと僕の背中をバンバン叩いた。
「大丈夫だって!あとちょっとで終わるから」
「でも、6時間も経って終わっていないし、2週間の猶予を与えたのに部屋の片付けは終わっていなかったじゃないか」
それに美春は痛い所が突かれた表情をする。
「う!それは………」
ブナシメジが腰を折られ屈む(かがむ)。しかし、まだそのしめじには水の湿気があった。
「わかった。あと1時間待つよ。それでもダメなら一緒に片付けよう」
しめじはみるみる己の折れた腰を回復し顔に蒸気が湿らせた。
「うん!」
「で、結局こうなるんだな」
それに美春はビシ!っと僕を指さす。
「そこ!それ言わない」
結局1時間たっても片付けが終わらず、僕も片付けをする羽目になったが、それはそれは美春の部屋はひどいものだった。
ところかしこに積まれた段ボール箱が大量にあり、弁当やカップ麺などはちゃんとゴミ袋にしまわれているが、いろんな漫画、CD、DVD、BD、はてやらは講義で使う教科書などが散乱していてた。
しかも、それをいちいちしまおうとすると、美春はそれはそこ!これは勝手にしまわないで!と猛抗議をしてくるのでやりにくいったらありゃしなかった。
そこで、まず、僕は痛めやすいBDから片付けをしようとしたのだが………。
「あ!その『ヴァンパイアプリンス』はその棚にしまって、ああ!もう、それと『リベリオン』を一緒にしちゃあダメだって!『ヴァンパイアプリンス』はここ!『リベリオン』はここ!!!」
「少年漫画と少女漫画で分けているのか?」
それに美春はキョトンとした表情をする。
「ううん。私の好きなもので分けているんだよ!ああ!かずき!『サムライハート』を踏まないでその教科書は踏んでもいいけど、私のバイブルを踏んだらおこだよ!」
どうしろっていうんだよ。
そんなこんなで全く作業が捗らなかった。
そして、僕はまた少女向けのBDアニメを持ちながら美春に言った。
「美春〜、これ………」
その時、黒き悪魔が視界の隅に捉えた。
僕は持っていたBDを床に置いた。
「コラー!一樹!何サボってんのよ!早く手を動かしなさい!」
「美春、ゴキブリ用のキンチョールがないか?」
そう僕がいうや否や、真っ赤に燃えていた美春の顔が一瞬で真っ青になった。
「え?え?出たの!」
「早く出してくれ。見失う前に」
それに美春は音速で頷きまくって、すぐに段ボールのところに行った。
「え?え?どこだったかな〜、殺虫剤、殺虫剤。わーん!どこにしまったかわからないよー!」
「あ!見失った!」
「うそ!」
そして、また音速の速さで美春は僕の腕にしがみついた。
「
怖い、怖いよー、一樹―」
それに僕は美春の頭を撫でて(なでて)宥める(なだめる)。
「大丈夫、大丈夫。別にとって食われたりはしないって」
「でも!怖いー!」
そして、美春はビエーンと泣いた。
ガチャ。
「大丈夫か美春」
僕は心配そうに美春の顔を見つめる。それに美春はこくりとうなずいた。
「うん」
結局、部屋の片付けは今日は一旦終了して、それぞれの実家に戻ることとなった。明日、日が出てから殺虫剤を持って、片付けることとなったのだ。
「送っていくよ。連絡は取ったか?」
「うん、お母さん瀬野駅まで迎えに来てくれるって。あと、駅まで自転車で行くから大丈夫」
「なら、駐輪場まで送るよ」
それにひまわりの花は窄んだ(すぼんだ)まま答えた。
「ありがと」
それから僕らはピタリと体をくっつけて駐輪場まで歩いて行った。
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