第14話4月 28日 雅

「プハー!やっぱ仕事が終わるとこれに限るわ!」

「コカコーラが好きなんですか?」

 それに雅さんは猫の目をする。

「まあね」


 この大学にも一軒のコンビニがあって。そこのカフェテラスに僕たちはいた。

 もう4月も終わりということもあって夜風が気持ちいいのでのんびりと僕はカフェオレを飲む。

 そうしたら、また雅さんが猫の目で僕を見てくる。

「なんですか?」

「いや、笹原くんに彼女がいるなんて意外だったからさ。可愛い人なの?」

「ええ、世界一」

 それに雅さんはガハハと豪快に笑う。


「そうか、そうか。もうそんなにバカップルなのか!もう、彼女のこと以外眼中にないって感じ?」

「そうですね。好きな異性はもう美春だけですよ」

「で、その美春ちゃんてどんな子なの教えなさいよ」

 そうやって肘をぐいぐいと僕の腹に押し込んでくる雅さんに僕は言った。

「美春はとても明るい女の子ですよ。ちょっと食いしん坊で、ちょっと人の都合を考えずに一方的に話しかけたり、ちょっと頭のおつむが足りないけど、とてもいい子で僕は大好きです」

 それになぜか雅さんは渋い(しぶい)顔になった。


「そんなに好きなの?」

「はい」

「じゃあ、胡桃ちゃんよりも好きなの?」

「なんでそこで森田さんが出てくるんですか?」

「はは、そうだね」

 かこ。

 雅さんはペットボトルを置いて夜空を見た。僕はどうしたんだろうと思い彼女を見つめる。

 そうしたら遠い目をして彼女は話し始めた。


「実はさ、笹原くんに話しかけたのは、笹原くんはあいつによく似ていたんだよね」

「あいつ?」

 それに彼女はガバッと僕の方に顔を向けた。

「そう、あいつ。私の高校の時の友達でさ、勇人(ゆうと)っていうんだけど、とにかく演技に関する情熱が凄かった。あいつも声優が好きで高校を出たら大学に行かずに声優の専門校に行ったんだけどね、ほんと話してもいないのに本気で演技をしようとする姿勢がそっくりなんだよね」


「へー、勇人さんね」

 それに彼女は上機嫌に頷いていた。

「うんうん、勇人よ。よく覚えといて。あいつは本当にいろんなことをしたなぁ。10代が一番物事を吸収する時期だ。だから俺はこの時期になんでもやる、って言ってさ、うちの高校バイト禁止されているのに、秘密でバイトを何度も掛け持ちしたり、アマチュアの演劇団に入団したり、果ては芸の肥やしだ、とか言ってナンパとかしたんだよ。もうあいつの行動はほんとめちゃくちゃだったよ」


 そういう雅さんの表情から柚子(ゆず)の湯気が出ていた。

「彼との思い出が楽しかったんですか?」

「う〜ん、というより、その彼があなたに似ていたから話しかけたの、だからこれから私たち友達になっていい?」

「もちろん。メアド交換しましょうか」

「うん、しよしよ」


 そして、僕たちはメアドを交換した。そうしたら雅さんがちょっとためらうような表情をした。

「ねえ、このメアド、くるみちゃんに教えていい?」

「もちろん」

 なんだかわからないが不思議なことを聞く人だ。

「そう、よかった。くるみちゃんも喜ぶよ」

「?」


 なんで森田さんが喜ぶのだろう?

 それで、また雅さんは猫の目をした、

「それでさ、今度はくるみちゃんと3人で合わない?それで3人ともクロスに登録しようよ」

「いいですよ」

「♪」

 なぜか嬉しそうな雅さんに僕はこう付け加えた。


「さっきの勇人さんのこと。僕もそれがいいような気がします。正直言って今の声優業界ダメですね。特に若手女性声優の演技力がなっていない。男性声優もダメな人が所々にいるけど、中堅世代の迫力、基礎力が到底ないと思います。やっぱ声優になるなら、それくらいはちゃめちゃな行動力と演技に関する姿勢がないとダメですね」

 それにまた雅さんは猫の目をする。

「お、それ勇人も言ってたよ。勇人もね女性声優も好きだったけど、それに劣らず男性声優も好きでね、笹原君が好きだと言ってた男性声優とモロ被りだったの。それで興味をもったんだけどね♪」

「なるほど」

 雅さんはポンポンと僕の肩を叩いた。

「ま、今日の話はこれくらいにして、今度会うときは来週かくるみちゃんと3人で会おうね」

「了解」

 そして、僕たちは別れた。


 高校時代の思い出か。

 あんまり僕の高校時代はいい思い出はなかった。もちろん、先に述べたとおり、美春もいて、キャサリンも光もいたが、ちょっといろんな出来事が起きすぎてそれどころでは無かった。

 その思い出は小説に残そうと思ったのが今書いているマイフィロソフィシリーズだが、しかし、それは雅さんのあの幸福そうな思い出とは縁遠いものだ。

 苦難と挫折。それが僕の青春なのだ。

 


 

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