第8話4月 20日 1−1 美春
4月 20日 日曜日
結局。あれから二日かけて映画の脚本を仕上げた。
もちろん、それはプロトタイプみたいなものだし、この映画にはある人物の協力が必要不可欠だったので、主にその人に向けての映画の構想を見せる、ということを意識して描いた。
そして、昨日のうちにすでに光とは連絡を取っていて、できたということを伝えて、まず、先ほども言った人物の協力が得られるか、確認してから脚本を渡したい、と伝えたが、光たちはとにかく出来上がったものを見せてくれないか?その人の協力も自分たちの口からも伝えたつもりだった。
それはともかく。
ともかくだ。今の僕にとっては映画の脚本なんか紙屑同然の気分だ。今日が、
今日こそが!美春とのデートの日なんだから!
菜の花の上を蝶が飛び、猫がこの世を闊歩し、カブトムシの幼虫が土の下で安息な日々を過ごしている今日が!今日こそが!デートの日!
今日の天気も僕たちを祝福してくれているような快晴だ!
いかん、いかん。ちょっと暴走しすぎだ。冷静にならないとヘマをしてしまうかもしれない。冷静に、一つずつの、プロセスを確認しておこう。
僕が今いるのは昼の12時の岡山駅の噴水の前。あの桃太郎像があるところだ。
そこで美春を今、待っている。
というより、待ち合わせの12時から1時間早く来たのだが、どうも落ち着かなくて困る。ああ、これでいいかなぁ。多分、このデートプランでいいはず。
そうやって悶々としている僕にある声が届いた。
「一樹―!ごめーん、待ったー!?」
美春は白のTシャツにピンクのガーディガンと白のフレアスカートを着て、左に銀のイヤリングと右腕に金のブレスレットを着用していた。
そして、あまりに天真爛漫な笑顔で僕を迎えた。
「べ、別に!い、今来たとこ!」
そう、そっぽを向いて行ったら、少し遅れてクスクスと笑いげが聴こえた。
「うんうん。そっかー、一樹は今来たところなのかぁ。そういうことにしといてあげる」
そう行って、美春は僕の横にそっと付いた。
「じゃ、行くか」
「うん、行こう行こう♪あ!でも、ハンバーガーでデートなんて私は認めないよ。ちゃんとしたところに連れてってよね!」
それに僕は美春の瞳をじっと見つめた。
「それは任せてくれないか?ちゃんとしたところに連れて行くから」
じっと僕が見つめると逆に美春が今度はたじろいた。
「う、うん。ちゃんとしたところに連れてってよ!出ないと許さないんだから………」
前半は強気に後半はしりすぼめに口調が変化した。それに僕がニカッと、笑う。
「うん、任せて。じゃあ、行こうか。ちょっと遠くになるけど徒歩で行ける距離だから」
「う、うん」
僕たちは僕が予約を取ったレストランに行くまでに何度か他愛ない話をした。
「美春。今日の服装かわいいね。とっても似合ってるよ」
それにきのこが黄色い胞子を飛ばす。
「ほんとほんと?」
「うん。トップスがピンクにアンダーが白のフェミニンな服装ながらその銀のピアスと金のブレスレットがちょっと辛めでとてもいいセンスをしているよ」
「ほんと!?」
幸せ色の黄色い胞子がバフンバフンと飛ばされ、辺りに靄(もや)ができるぐらいの勢いだった。
「ふふ、やったね!気合い入れた甲斐があったよ!」
「うん。冗談なしで今日の衣装は可愛らしいよ」
やった!と言いながらプレードッグは飛び跳ねていた。
それをよそに僕はチラチラと場所を確認する。
「どうしたの一樹?あ!わかった!お目当のレストランの場所がわからなくなったんでしょ!でしょ?ああ〜あ初デートなのにこんな失敗するなんてなー。私がっかりだなぁ。言っとくけどこの貸しは高くつくよ?」
「いや、場所を確認しただけだ。ほら、あれだよ」
そう僕が指をさしたのはベージュ色が色あせた小さなレストランだった。
「あ!かわいい!」
「じゃ、入るか。そろそろお腹も………」
ぐぎゅるぅぅぅぅぅ。
その時とてつもない腹の虫が聞こえた。僕もお腹は空いてはいないから近くの誰かと思うが。
美春は顔を真っ赤にして顔をうつ向けて居た。
「あれかな。新種の昆虫の鳴き声かな?まるで腹の虫のような鳴き声だったよな」
それに犬も同意するかのように尻尾をふった。
「うんうん。そうだったよね!多分、すっごく大きな虫に違いないよ!一樹!周りを探せば?新種の昆虫を見つけて昆虫界の歴史に一樹の名が刻まれるかもしれないよ!」
「ま、それもいいかもしれないけど、僕はお腹が空いているんだ。さっさとご飯食べたいし、それはまたの機会にしよう」
それに必死に尻尾を振っていた犬もおとなしくなった。
「ま、そうだよね。まだお昼ご飯食べてないし、行こうか?一樹?」
「そうしよう」
そして、僕たちは店内に入った。
「へ〜、オムライスのお店なんだ、ここ」
美春はメニューを見ながら呟いた。
そう、ここはオムライス限定のレストラン。客席もテーブルが4つしかなく、本当に小さい店なのだ。
「僕は決めたよ。美春はどう?」
「う〜ん、悩むなぁ」
ぴょん及んとウサギが飛び跳ねていたが、やがて美春も決めた。
「住みませーん、このデミグラスオムライス大盛りと半熟卵のチーズオムライス大盛りでお願いします」
店の40代ぐらいのおばちゃん店長はうなずいた。
「はい、いまします。しばらくお待ちください」
そう言って、彼女は去っていった。
だが、好奇心旺盛のプレーリードッグはひょこっと僕の巣穴を突っついてきた。
「ねーねー、あれ知ってる?鈴ちゃん彼氏がいるんだよ!」
「そりゃあ、大学2年生ともなれば彼氏ぐらいいるさ。本人が話していたの?」
それに化けきのこの目が光った。
「いや、聞いたわけじゃないけどね。でも、あれは絶対彼氏だよ。なんかね、純朴そうな男子だっけど、絶対に二人の間に何かあるね!私の観察眼、伊達じゃあないんだから!クー!鈴ちゃんもやるよね!あんな優しそうな彼氏さんをゲットするなんてさ!」
「で、美春は、それを傍でちらりと見ていたと?」
それにネズミはギョッとした。
「な、なぜわかったの?もしや!一樹はエスパー!」
「美春の行動をちょっと見たら誰だってわかるよ」
と、まあ行っているうちに料理が来た。
そして、僕たちは食べ始めたが、何か違和感があった。
そして、すぐに僕はその違和感を突き止めた。いつもの美春なら野生の獣のようにムシャムシャと食べ物を貪り食うが、今回は楚々と少しスプーでとっては食べ、また少し、といった具合なのだ。
まあ、美春も乙女ということか。今回はそっとしておこう。
「美春、美味しい?」
「うん!美味しいよ!もういくらでも食べれ………」
そうして、美春はスプーンをガツ!とオムライスに大きな割れ目を作ったあと。
「いくらでも食べれますわ」
今度は小さくオムライスを区切ってからまた口に運んだ。
「いや、美春。無理しなくていいよ」
「あら。やだ。何を言ってるの?私はいつも通りの自然体だよ?」
「う〜ん、美春がいいのならそれで構わないけど」
そう言った会話の中、僕たちは食事を終えた。
美春は片肘をついて言った。
「ういーっ!満腹満腹」
そして、爪楊枝に手を伸ばそうとし、はっ、と我に返った。
そして、急に姿勢を正す。
「どうも、ごちそうさまでした」
「いや、美春無理をしなくてもいいからね」
それにサギが不思議そうな顔をした。
「無理?無理ってなんの話?」
「いや、普通の自然体でいいってこと」
しかし、優雅に微笑むサギにとってはちょっと見栄を張りたいのかもしれないな。なんせ、僕らの初めてのデートだから。
「じゃあ、出ようか、美春。ここ、奢ろうか(おごろうか)?それとも割り勘?」
それにリスの答えは即答だった。
「奢って!」
「了解」
そして、僕は支払いを済ませた。
「じゃあ、次のデートスポットに行こうか?」
それにプレーリードッグは勢いよくうなずいた。
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