第6話4月 18日 1−2 美春


 僕は首をうなだれた。なんと言うか。

 そんな僕の様子を見た美春は嘴で突っついてきた。

「どうしたの?一樹。まだ半分だよ!」

「いや、もうお腹いっぱいです」


 なんか話の流れとか、出てくる女の子とかちょっとついていけれないんですけど、『ロリメイド』は。

 一話半分しか見ていない感想だけど、2000年代のアニメの悪いところを凝縮させたようなアニメだな。

 女性を可愛さだけで評価するような、とてもいやらしいアニメだと感じました。はい。

 僕は立ち上がって伸びをする。

「やっぱ僕はアニ研には向いていないようだな。あとはごゆっくり」

「あ」

 美春は残念そうな表情をしたがすぐに視線を画面に映した。改めて周りを見渡してもみんなこのアニメを見ているし、なんか自分だけが取り残されたような気がした。




「んー!ああ!よかった!『ロリメイド』はなかなか良かったね!」

「うん、まあまあ」

 その女性陣の言葉に男性陣は何も言わず帰り支度を始めた。

 それに僕も美春に声をかける。


「じゃ、そろそろ、行くか?美春」

 それに美春は満天の笑みで応えた。

「うん!」

 それを島谷さんが何かを察したのかちょいちょいと美春の袖を引っ張った。


「あ!なになに!?もしかして、デートのお誘い?」

「ばか!鈴ちゃん、そんなんじゃないよ!ただ、ちょっと………一樹とディナーに行くだけの話なんだから」

 最後の方にちょっと口をすぼませていう美春にコウモリの目がキラリと光った。


「それをデートって言うんでしょ?ねえねえ、それが終わったらクロスで教えてよ!笹原くんとどうな・っ・た・か」

 それに美春は頑迷に拒否する。

「だから!そんなんじゃないって!」

 なんか、いつまでも終わりそうにないので僕は美春の腕を取った。

 そして、美春の顔を見て行った。

「行けるか?」

 それに美春は恥ずかしそうに顔を俯ける。

「う、うん」

「じゃ、行こう」

 そのまま、腕を取って、僕達は部室から出た。後ろからの黄色い歓声を浴びて。




「悪いことしちゃったかな?あれではなんか僕が美春を無理やりデートに誘ったように取られられたかもしれないな」

 それに鬼の角がにゅきにゅきはえる。 

「そうだよ!なんであんなこと言ったのぉ〜。あれじゃ完全にエスコートされてもらってる風に映ったじゃん!この責任どうとってくれるわけぇ〜」

 鬼が眉間(みけん)にしわを寄せたままジリジリと僕の方にプレッシャーをかけてきた。それに僕は。

「じゃ、今晩のディナーは僕の驕り(おごり)ということで」

 鬼はやはり眉間(みけん)にしわを寄せていたが、突然プイッと顔を横に逸らした。

「アイス」

「え?」

 思わず聞き返した僕に美春は駄々子(だだっこ)のように言った。


「奢る、プラス、アイス!それじゃなきゃ許してあげないんだから」

 そう言って、また鳩は顔を横に背けた。

「いいよ」

「え?」

 美春は僕の答えを予期しなかったのように驚いたが、すぐにサツマイモの顔になった。

「よしよし、わかればいいのよ、分かれば。じゃ、いこ」

「ああ」




 僕たちが来たのは岡山駅の桃太郎通りの裏側にある商店街にあるレストランで夜中の間しか営業していない雰囲気のある所なのだ。

 そこで、僕はコーヒーとマルゲリータと美春はサラダに和風パスタとビーフステーキのセット料理を頼んだ。

「そういえばさ」


「うん?」

 美春は紫陽花(あじさい)の笑みで振り向く。

「今日も美春の服装可愛いな」

 紫陽花(あじさい)は火に炙られ、煌々と燃え上がった。

「ばか!」


「美春?」

「ばか、ばか!一樹のバカ!バカズキのことなんかもう知らない。ふんだ!」

 そう、顔を真っ赤にして、プレーリードッグが急いで巣穴に潜った。

「み、美春?」

 困ったなー。これから告白するのに怒らせてどうするんだ?女性は服装を褒めれば喜んでくれると言うのは都市伝説だったのか。


 しかし・・・・・・・・・

 ちらり、ちらり。

 プレーリードッグがチラチラと僕の横川を伺っているようだった。


「えっと、美春」

「・・・・・・・・・・・・」


「何か飲みたい飲み物はある?」

「オレンジジュース」


「それは食後?」

 コクリと美春はすぐにうなずいた。


「すみませーん。オレンジジュース追加で、食後でお願いします!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「これで許してくれる?」

 それに絶壁の崖から、ボロリと石が落ちた。

「仕方ないなー。今回だけ、今回だけ!特別に許してあげるよ」

「ははは、ありがとう美春」


 そして、手を差し出す。

「仲直りの握手だ」

 プレーリードッグは巣穴からマジマジと僕の顔を見せたが、少し時間が経って、ひょこっと顔を見せた。

「まあ、いいか。許してあげるよ」

「美春は本当に肉が好きだなぁ」

 ボソリといった僕の言葉に美春はすぐに反応した。

「うん!好き!大好きだよ!」

「ふ〜ん、胃もたれとか起きないの?」

 僕の言葉に美春は少しだけ考えるふりをした。

「とくにおきないかなぁ?」

「それは羨ましい」

 そこで会話の流れが一瞬途切れたが、すぐに美春が強引に流れをねじ曲げた。


「ところでさ。聞いてよ〜、一樹。ありえないんだよ〜。他のサークルの男子とコンパしたらさ、ちょっと優しくしただけなのに酔っ払って私にポッキーゲームをしようとしたやつなんていたんだから、もうまじありえない」

 気炎を巻いてゴブリンが吠えていた。しかし、アニ研の面々を見ていると美春も相当ボロを出したみたいだけど、本人は気づいていないのか?まあ、美春だから気付かず、ボロを出しているって可能性もあるけど。


 僕は美春の話を否定せずに同調した。

「うん。いるよね。そういう人。そういえば僕の母の父がかなりの酒飲みでそれで母が苦労をしていたと聞いたことがるような」

 

それにウンウンと美春は激しく同意した。

「そうよう。酒飲むと羽目を外しまくる人がいるんだから一樹も注意してね」

「僕は飲まないよ。飲むと体調が悪くなるから。それよりコンパは楽しかったか?」

 それに向日葵は満面の花を咲かせた。

「うん!良かったよ!女子たちともたくさん友達になれたしね、それにね!………」

「お客様。サラダです」

 すっと出されたサラダに美春の目の色が変わった。

「おー!サラダ!いっただきまーす!」

 それからムシャムシャと美春はサラダを頬張った。多分、こういうところでアニ研のみんなに本性がバレたんだろう。




「いやー、うまいうまい。春のアイスって最高だわ」

 ペロペロと美春がダブルのアイスを舐めている。

 レストランの食事も美春の反応は上々だった。そして、今美春にアイスを送り夜の桃太郎通りをぶらぶら散歩している。


 街の暖色系のネオンサインが僕たちを、いや街全体を暖かく包んでいるようだった。

 と、そういうときに美春はアイスを食べ終えた。

「送っていこうか」

 美春はコオロギの表情を見せたが、すぐにひまわりになった。

「うん!お願いするよ」

 それから、僕たちは岡山駅を東に横切り、自転車置き場に向かった。

 美春の団地はちょっと岡山駅から遠いので美春はいつも自転車で岡山駅に来ているのだ。

 そして、岡山駅のすぐ近くに有料の自転車置き場がある。近くに岡山駅のステーションが見えるところで、その光と周りの漆黒の闇が満月の夜海のように僕らを照らしていた。

 その自転車置き場のすぐそばに来てしまった。


 言わなければ。

 僕が美春を好きだという事を。

 言わなければ。

 彼女が自転車で団地に帰る前に。


 そして、僕らの視界に自転車置き場が見えて来た。もう、言うしかない。

「美春」

「ん?なに?」

 美春は無邪気な表情で振り返った。今こそ、告白するときだ。


「美春、伝えたいことがあるんだ」

「………なに?」

 美春は花の表情から岩の表情に移り変わった。

「美春。僕は君のことが………」


 雨が降って来た。荒地に水が通っていく。

「………」

「す………」


 雨の勢いはますます強くなり、地表の下へ染み込んでいく。

「すーっ………!」

「…………」

 もはや大雨の勢いとなり地面を叩きつける雨粒手。そして、地表はどくどくと水の流れるがままになっていた。


「好きです!付き合ってください!」

「……………」

 大雨は樹木をなぎ倒し一軒家の一階を完全に水浸しにする勢いで流れ続けていた。この流れを止めることは当分出来ない。

 僕は頭を下げたままの状態で言った。それに対しての美春の雰囲気はあくまで岩だった。

「…………」

 いくら時間が過ぎただろうか。大雨も幾らかの街を侵食続け、僕の鼓動は鳴り止むことは無かった。

 その久遠(くおん)の沈黙の中で一筋の光が射した。

「いいよ」

「え?」

 思わず、顔を上げ美春を見つめる。美春は恥ずかしそうに下を向いてもじもじさせながら言った。


「いいよ。付き合っても」

「美春!」

 思わず美春の体を抱き締める。大雨も川へと合流しダムを決壊させた。

「一樹!苦しいよ、苦しい!」

「ああ、ごめん」

 僕は思わず美春から体を離す。

 しかし、美春の顔は桜色に上気していた。

「美春。予定が空いたらでいいんだけど、デートをしようか。僕はいつでもフリーだから、美春のいいときに美春が連絡して、デート先は僕が考えるよ」

 美春はあくまで顔を上気させながら俯き加減に頷いた。


「う、うん。予定空いたら連絡する」

「そ、そうか」

 …………………………

 二人の間に重たい岩の沈黙がのしかかる。しかし、その岩にもどこかレモンのような甘酸っぱい空気に満たされていた。

「じゃ、じゃあ!また連絡するね!それじゃあバイビー!」

「あ、ああ!待ってる!」

 そのまま俊足の勢いで美春は自転車置き場に移動して、自分の自転車を取り出し、団地に帰って行った。

 帰る際、張り付いた笑みをこちらに向けたあと猛スピードで向こうに行った。

 はは、事故に合わなきゃいいけど。

 僕はまだ自分でも抑えられない鼓動を感じたまま、そのまま帰路についた。




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