第5話4月 18日1−1美春 鶴
4月 18日 火曜日
「ふぁ〜あ。よく寝た」
ベッドから起き上がると、もう時刻は10時を指していた。
今日は火曜日。美春にディナーを誘う日だ。
光たちを帰らした後、小説にラストスパートをかけた僕は、その日のうちに終わらず、結局月曜の単位は取らずスパークをかけた。
そして、その日の夜に漸く(ようやく)小説を書き上げた。まだ、修正を加えなければならないところがあるから、完成というわけでは無いけど、ひとまず小説を寝かせて、映画の脚本を仕上げるつもりだった。
まあ、でもそれはともかく。
「今日は美春に告白する日だ」
自然と緊張が全身を走った。
今日は美春に告白する日。しかし、何を話そうか?まず、ディナーのイタリアンレストラン店は予約している。
それは問題ない。普通の会話も問題ない。美春と話すのは楽しいし、僕もおしゃべりな方だから会話はスムーズにいくだろう。
だが………。
そこからどうやって告白に繫げる?
店内で告白するわけにはいかないし、やっぱ店から出て、ちょっと散歩した後だな。そこで、告白するか。それしかない。しかし………。
その瞬間人の背丈もある巨岩が僕の肩にのしかかった。
う〜ん。気乗りしないな。告白はしんどい。しかし。
僕は岩を弾き飛ばした。
やるしかない。もう、これをやらないでは先へ進めない。美春も魅力的な女性だし、さっさとしないと先に取られてしまう。
よし!やるか。
そして、僕は覚悟を決め、昼の単位を取るために身支度を整え、大学に向かった。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃーい」
僕は講義に出席した後、アニ研に顔を出した。美春とはクロスでここで待ち合わせをしようと連絡を取ったのだ。
それでアニ研に来たものの島谷さんと岡田さんはいいのだが、なぜか男子たちがゾンビになっていた。
「美春ちゃん………」
なぜか鶴さんが涙目で突っ伏しているし、何があったんだろう?
それに島谷さんが睡蓮(すいれん)の笑みをした。
「ハハ。笹原くん。美春ちゃんて、とっても個性的な子だね」
「ああ」
それで納得した。ようやく美春の本性がみんなに分かったのだという事を。
「でも、可愛いでしょ?」
それに島谷さんは玉虫色の笑みをする。
「可愛い?あれを可愛いって言えるのか!?」
昂然と鶴さんが立ちあがった。
「美春ちゃんが、美春ちゃんが!あんなおばはんみたいな性格だなんて、信じられない。というか信じたくない!ああ!美春ちゃん!最初の頃の性格にカムバック!」
鶴さん。あまりに混乱していて自分で何言っているのか分かってないな。
僕は島谷さんの表情を見る。そうするとやは彼女も困ったような笑みをしていた。
ただ、カムバック、カムバック繰り返す鶴さんはちょっと近所迷惑だったので僕はあることを彼に教えた。
「鶴さん、鶴さん」
「ん?どうした?実は美春ちゃんの乙女チックな部分があるということなら話を聞くぞ」
涙を拭って鶴さんは振り向いた。
まあ、ある意味非常に乙女チックな部分なんですがね。
「美春は腐女子ですよ」
ヅガ!ゴロロロォン。
稲妻が学園に落ちた。
「な!」
「ん!」
「だ!」
「っ!」
「てー!!!」
絶対に訓練しているわけじゃないのに綺麗なメドレーを作るアニ研男子のみなさん。
本当はこの人たちすごく仲が良かったりするんだろうか?
鶴さんは思わず島谷さんを見る。
「鈴!」
それに鈴さんは玉虫色の笑みを見せる。
「うん。それ本当だよ。私、彼女を腐女子研に案内したよ」
それを聞いた鶴さんは完全に凍り付いた。
しかし、彼の口からある言葉が発せられる。
「あ」
「あ?」
「あ、ああ」
僕と島谷さんは目を見合わせる。静かになったのはいいことだけど鶴さんは完全に壊れてしまった。
と思った瞬間、また昂然と鶴さんは叫び出した。
「あああああ!!!!!!嘘だあああああ!!!!!そんなの信じない!!!!ウワーン!なんでアニ研に入る女子はみんな完璧な美少女じゃないんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
そう叫ぶなり、鶴さんは部室から出ていった。
「鶴さん!」
島谷さんの静止の声も聞こえないのであろう俊足の速さで階段を駆け下りるのが聞き取れた。
「そういえば、積んでいた美少女ゲームがあったなぁ。帰ってあれやろ」
「おお、レイドボス現れてるじゃん。倒さないと」
「『ロリメイド』見よ」
「…………」
各自現実逃避に走るアニ研の男子の皆様。
僕は島谷さんと目を合わせる。やっぱり彼女も困ったような笑みを見せていた。
その時、岡田さんがぼそりと言った。
「やっぱり男子って美少女がいいのかしら………」
彼女の視線は彼女のぽっちゃりとした体型に注がれていた。
「ま、まあ。岡田さんは美少女というのは男子の妄想だからそんなに気にしなくていいと思うよ。だいたい外見で人を判断する男子はろくな奴がいないから無視していいよ」
それに岡田さんは湖の目で僕を見た。
「うん、わかった。気にしない」
とはいうもののやはり岡田さんの視線は自分の体に注がれていた。
「こんちはー!あ!一樹発見!ってどうしたの?みんな?元気がなさそうだけど?」
て、言ってるそばから当の本人がきた。
美春は黒のフリルがついたワンピースに白のカシューチヤ、銀のイヤリング、ダークブルーのブランドのバッグをしていた。元気がなさげなアニ研の男子たちを訝しげな表情で見ていたが、部室のモニターに釘付けになった。
「あー!ロリメイド!出てくる女の子が可愛いよね!私も一緒に見ていい守屋くん?」
守屋さんはかなりがりな体格をしていて、メガネをかけている男子だ。
その守屋くんが美春がくると避けるようにずいっと席を横にした。
しかし、美春はそれを自分の好意と勘違いしたのか席を持って行って守屋さんのそばに座った。
「守屋さん、ありがと❤️ ちょっと、かずきも守屋さんに見習ってアニメを見ようよう。かずきの見るものマニアックなのが多いよ、こういう王道をね、見たほうがいいと私は思うな」
「そう言われてもな。それ好きじゃないんだ」
それにぷくーっと美春は頬を膨らませた。
「それって、何話かの少し見ての感想じゃん。そういうのは良くないと思うな」
「じゃあ、いうけど、そのアニメに何かしらの起承転結はあるのか?」
それに亀はますます首をすっこめた。
「まあ、ドラマチックな部分はあるとは言い難いけど………」
はあ。
僕はため息をひとつついて椅子をモニターのそばに降ろした。
「一樹!」
「ま、一話、じっくり見てなかったからな。ちょっと見てみるか」
それにコスモスが喜びの蜜を垂れていた。
「一樹なら、そう言ってくれると思ったよ。じゃあ、早速見よう!」
もう、始まってるけどな。
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