第4話4月 16日 日曜日 美春 光 武
4月 16日曜日
たったたった。
僕はパソコンに向かってキーボードを打っていた。
今は日曜の昼。アニ研のみんなはコンパとかしているし、美春もそれに混ざっている。
美春も大学生だし、ぼやぼやしているとすぐに彼氏ができてしまうだろう。あとで彼女に告白をしよう。そうだ、今からでも彼女にメールして見るか。
僕はアイフォーンを取り出し、彼女に一緒のディナーのお誘いのメールをした。
ふ〜、これで一安心。美春もそんなにコンパで出会った人とすぐ交際するような子ではないと思う。たぶん。
その時、僕のアイフォーンが鳴った。
『いつにする(*^^*)』
僕はいつでも、できれば早めにお願いしたいという旨を伝えた。
『オーケー、なら明日にね( ´ ▽ ` )』
相変わらず、美春の返信スピードは驚異的までに早かった。
そして、僕は作業に戻った。
今、書いているのは僕の小説で『マイ フィロソフィ1 路上のタンポポ』だった。
この小説では僕が主人公で高校生活の始まりを書いた小説だ。
ジャンルはライトノベルと純文学の中間だが、1は純文学的な要素が多い。
とにかく、路上のタンポポはあまり一般受けする内容ではないのだが、これから先始まるマイ フィロソフィシリーズに必ず最初に出さなければならない小説で、しかし、エンターテイメントの部分が少ないものを最初の間で出すというのはどうなんだろう?といつも悩んでいる作品だった。
かといってエンタメ色を強く出せばタンポポの独自な強みを失ってしまうし、何より新人賞に応募するのにシリーズものを出すのはどうなんだという気もするが、マイフィロソフィシリーズで、今の日本を救うと意気込む僕にとってこの作品は必ず完成させなければならなかった。
そして、今それの最後の詰めが終わりに向かっていた。
ピンポーン。
その時だった。玄関のチャイムが鳴らされたのは。
「はーい」
そして、僕は扉を開けた。するとそこに立っていた人物は。
「自分笹原かずきっていうん?」
「は、はい」
そこに立っていたのは赤いアロハシャツを着て頭がもじゃもじゃの金髪でサングラスをかけたいかにもチャラそうな男だった。あ!耳にピアスつけてるし、本当に典型的なチャラ男みたいだ。
「入らせてもらうでー」
「どうぞ」
僕は彼を居間に入れて、コーヒーを作った。それを彼に渡す。
「どうぞ」
「おおきに」
そして、彼は一口コーヒーを飲んだ。
「自分。えらい不用心やなぁ。知らん人が訪ねて来てもうちに上がらすか?普通」
「ええ、まあ客人ですから。それとあなたは犯罪者にはみえませんよ」
まあ、本当の犯罪者なら何も言わないで刺すか。しかし。
「あなたはどちらから来たかわかりませんが、よくこの宗堂という辺鄙なところに来ましたね?」
僕が住んでいるの小城おじさんの家だが、そこの場所は宗堂にある。
宗堂というのは岡山という田舎の中でもさらに田舎でタンボが一面に広がっている何もないところだ。最寄りの駅から、うちに車で徒歩で片道30分はかかる。
車の音がなかったから、多分徒歩で来たと思うが、よく徒歩でこれたな、という関心半分、呆れ半分の口調でいった。
そう言った途端、その男は大きな声で笑い出した。
「はっはっは!いきなり知らん人が来てもあがらしてくれる!しかもこんな鳴りしても気にせん!いやぁー、あんたはほんまイケメンやなぁ」
そう言って彼は一口コーヒーを飲んだ。
そして彼の口の端が上がった。
「ワイのこと、不審に思わんのんか?」
「僕は見た目で人を判断しないようにしているので」
その男は今度は膝を叩いて笑い出した。
「はっはっは!いやー、噂通りやなぁ。笹原一樹くん。光からよう君のことは聞いとるでぇ」
「え!?光!」
予想外の言葉を聞いてびっくりする僕。その時また玄関のチャイムが鳴らされた。
そうしたら茶髪の男がクイっと顎を指した。
「ほら、光や。迎えにいっておいで」
果たしてそれは光だった。光は片手を上げていった。
「こんにちは、一樹。ところでここにグラサンをかけた茶髪の男子が来なかったか?」
「来ているも何も………」
僕はヒカルを上がらせ、その茶髪の男性を指さした。
「おっす!光!」
そして、僕はヒカルの方をみた。
「で、説明してくれないかな?光?」
「うちは長井武。武って呼んでくれてええでぇ」
「武さんね。僕は笹原かずきと言います。どう呼んでくれてもいいですよ」
「じゃ、一樹って呼ぶでぇ」
「どうぞ」
僕はリビングのソファに武と光を座らせると、僕はちゃぶ台のようなテーブルの前へ正座して二人の話を聞いた。
「それで、話ってなんですか?」
それに武はアイラインをヒカルの方へ送るとヒカルも頷いた。
「ああ、一樹。俺が映研に入ったのは知っているだろう?」
「知ってるけど」
そうなのだ。ヒカルは大の映画好きでそれが高じて大学に入るとすぐ映研に入ったのだ。
「ああ、入ったのはいいんだが………」
ヒカルらしくもなく、そこで口籠った。
それに武が制止をした。
「まった!光。そのあとのことはわいに言わせてくれ」
おっほんと咳をして武が話し始めた。
「かずきくん。今の映画会のことをどう思っているかね?率直に言って」
「そうですね。まず、邦画は漫画原作の映画が増えていますね。技術力の進歩で少年漫画のような現実にはありえない設定にも適用できていて、そこそこヒットしてますね」
「そこや」
ビシッと武は指を指す。
「わいも映画が好きで映研に入った。しかし、周りの人はくだらないヒット作ばかりに感銘を受けてる人ばかりや、この光を除けばな。映画っちゅうのは映画っちゅうのは映像技術だけじゃないでぇ。カメラワークしかり、役者の演技しかり、編集しかり、そして、それは全てシナリオを元に構築せなあかん。しかしやで!」
そこでバンと武はテーブルを叩いた。
「その諸々の技術とシナリオを有機的に連結させるよりも、技術とシナリオを分断して考える人が多い。いや、ほんとにあまりにも多い!それで………」
それで、僕はピンときた。
「なるほど、それで映研を抜け出したんですね?」
それにチッチッチと武を指を横に振った。
「ご明察や、と言いたいところやけど、それだけじゃあないでぇ。うちの大学のサークルの部室は極端に少ない。わいらだけで新しい映画サークルを結成することは不可能や」
「そうですね」
「そこでや!」
そこで武はぐいっと身を乗り出した。
「自分。小説書いてるらしいな。光から聞いたでぇ」
「ええ、少々」
その時武のサングラスが怪しく光った気がした。
「どや、わいらの映画の脚本書いてくれへんか?謝礼はできへんけど、その映画の公開ぐらいはなんとかするさかい、せやから脚本書いてくれるとわいらごっつう助かるんやけど。やはり、映画はマジ何よりシナリオが肝やでそのシナリオに応じて必要な機材を買わんといけんさかい。うちらもいくらかアイディアは出したんやけどな………しかし」
続けて光が言った。
「まあ、何だ。俺たちも出すには出したんだが、どうもな。映画の見過ぎで、どうしても高度な撮影技術がかかるシナリオになってしまうんだよ。そこで小説を書いている、映画のことに疎い一樹に書いてもらうことにしたんだ。かずきはヒューマンドラマをよく見るだろ?ああいう、派手なアクションが不要なストーリーが必要だから、一樹に書いてもらうのがベストだと思って依頼したんだが、いいかな?」
僕の考えは即決だった。
「オーケー。いいよ。ただ、ヒューマンドラマと言われても何を書けばいいんだ?なんか構想しているドラマとかある」
それに光と武がお互いに目配せする。
「やっぱ、わいらが考えだすとどうしても高度な機材が必要になってしまうんや。例えば、外国の風景とか、理想の風景を求めてしまって、なかなか予算がつかんようになってしまう。他にもメッセージ性とか入れてしもうて、やっぱり収集がつかんようになるんや」
「なるほど、なら舞台は桃花学園で恋愛ものとかがいいかな?」
それに光と武は瓢箪から蓋が取れたような表情をした。
「おお!やっぱり一樹に任せてよかったな。そういう発想は俺らにはなかったよ」
「せやせや、俺たちだとやっぱり学園に潜むアンノウンを登場させるという発想しかなかったからな。一樹に任せて正解やったね」
「どんだけ映画を見ているんですか………」
そして、僕は立ち上がった。
「お二人ともこれから帰ってくれませんか?今ようやく僕の小説が終わりにかかったところで、さっさとラストパートを仕上げて、映画の脚本を手がけたいのですが」
それに二人とも快く頷いた。
「せやな。じゃあ気張って小説完成させとき。もうわいは大船に乗ったつもりでいるからな」
「右に同じく。一応、タイムリミットを言っておこうか。5月いっぱいまでに完成させてくれないか?10月に学園祭があるから、そこまでになんとか完成させたいんだ」
「了解。なるべく早い段階で書き終えるよ」
そして、僕は二人を返すと、またパソコンの前へ座った。
「じゃあ、仕上げるかな」
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