第13話 え、お隣に引っ越しですか
「というわけでお隣に引っ越してくることになりました」
ハンニバルさんは行動力と経済力のあるイケメンでした。両親も私も呆然です。
「風花ちゃん! いつでも遊びに来てね!」
「がるるるるるっ!」
「こら、阿修羅」
ハンニバルさんの周りをグルグルしながらうなっていた阿修羅を叱りながら抱き上げるとおとなしくなった。
尻尾を振りながら甘えてくる阿修羅が可愛い。会話は両親に任せて阿修羅をモフっておこう。もふもふ。
「いや驚きました。加護の交換をすると決めた訳ではないのですよ。現段階で引っ越しとは時期尚早では?」
いいぞ父さん、がんばれ。
「おっしゃることは理解しています。ですが客としてパンを買いに来るだけではカデンの力を理解していただくことは難しいでしょう。もちろん営業の邪魔をするつもりはありません。私も仕事がありますし」
ハンニバルさんの横でカデンちゃんがうんうんと頷いている。
「そこでご提案なのですが、来月から毎週土曜日の午後、少しだけお時間をいただけないでしょうか」
うちのパン屋は毎週土曜日は午前のみの営業で日曜日は完全にお休みだ。
土曜の昼過ぎなら断りにくい。父さんも言い返せないようだ。
「現在お隣に住まわれているテルマさんは、ご主人がなくなられてから一人暮らしです。充分な金額で家を販売できたら郊外に家を買って息子さん一家と同居されたいとのことでした。
私の方で何件かピックアップした物件を見学していただき、新しい物件にも買取金額にもご満足いただけました。すでに売買契約が完了しておりまして、テルマさんは今月中にもお引越しされたいとのことです」
ノンブレスで喋りきった。しかも一方的と感じさせず、間の取り方も上手い。
非の打ちどころのないイケメンぶりに、何か言いたそうだけど言えない父さんの口がもごもごしてて面白い。
「あらあ、淋しいけどよかったわあ。テルマさん喜んでいるでしょうねえ」
よくテルマさんにパンを差し入れしていた母さんがハンニバルさん側に立った。ベイクもうなずいている。
父さんは、ますます何も言えなくなるな。私はこのまま空気になって阿修羅をモフっておこう。もふもふ。
「風花ちゃん! わたしっ、風花ちゃんに喜んでもらえるカデンセイヒンを召喚するから!!」
空気ではいられませんでした。カデンちゃんが超やる気です。
「うるせーばーか! 引っ越してきたからって交代するとは限らねーんだよ!」
阿修羅とカデンちゃんが言い争う横で父さんとフェルムが、うむうむと頷いている。
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