第2話 可愛くない!

「風花さん、成人おめでとうございます。列に戻ってくださいね」

神官に促されて我に返る。


「す、すみません!」

「いえ、皆さん同じように反応されますのでお気になさらず。可愛らしい精霊様とご縁を結ばれましたね。風花さんとパートナーの精霊様が素晴らしい毎日を過ごされるようお祈りいたします」

精霊並みに美形の神官に微笑まれ、ドギマギしながら列に戻る。


改めて腕の中に納まる精霊を見ると、きょとんとした表情で風花を見上げていた。可愛くて顔がにやける。


にこにこと見つめ合っていると神官の声が響いた。

「これにて今年の成人の儀式は終了です。皆さんと精霊様が素晴らしい生活を過ごされるようお祈りいたします」



「ただいまー!」

「おかえり風花、その子が風花の精霊かい?ずいぶん可愛いな」

「ただいま父さん、母さんは?」

「奥でごちそうを並べているよ、シチューは父さんが作ったんだぞ」

「嬉しい! 父さんのシチュー大好き」


リビングに入ると母が成人のお祝いのためのごちそうを並べていた。

「おかえり風花、お祝いの準備はできているわよ」

「ただいま母さん。ねえ、母さんたちの精霊は?」

「それがね、風花が帰ってくる直前に急に飛び出して行っちゃったのよ…」

「ええ、何それ! お祝いどころじゃないじゃない!」


驚いて声を上げると父の落ち着いた声が聞こえた。

「少し離れたところにいるみたいだ。ご縁を結ぶと離れていても精霊と通じ合っているものだから。風花もわかるだろう?」

「儀式からずっと抱いているから…」

「そうか、儀式を受けたばかりだったな。今日は特別な日だ、フェルムにも祝ってもらわないと!」

「母さんもベイクを呼び戻すわね!」


父さんの精霊は発酵の精霊で名前はフェルム。母さんの精霊は火の精霊で名前はベイク。二人でパン屋を経営している。相性ぴったりの二人だ。


「ベイクが怖がっているんだけど…」

「フェルムもだ…」

精霊たちが怯えて姿を消すなんてこと、これまで一度もなかった。不安そうに見つめ合う両親をみて怖くなり、豆柴型精霊をぎゅっと抱きしめようとしたら精霊が腕からするりと抜け出した。


「待って! どうしたの!?」

慌てて追いかけると、奥の部屋で両親の精霊たちと向かい合う柴犬型精霊がいた。

肩乗りサイズな人型精霊のベイクとフェルムが抱き合って震えている。


「そんなに怯えなくてもいいんだぜ、取って食ったりしないからな!」


え?ガラ悪くないですか?

あのふわふわでムチムチで、もこもこで可愛い私の豆柴型精霊のお口から出た言葉とは信じられないのですが…。

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