第6話 秘技伝授
『Winner Milky way!』
「ずいぶん動きや勘は良くなってきたわね……そろそろ、いいかな」
HPが若干減ったミルケイをタブレットに戻しながら、マサミは口元に笑みを浮かべていた。
「いいかなって、何かあるのか?」
「ええ。貴方が言う必殺技――3ゲージアクションの攻略方法を、そろそろ教えてもいい頃かなって意味よ」
「本当か!?」
思わず身を乗り出した俺に、マサミはうなずいた。
「できるアクションの種類も結構増えたでしょうし、ステ振りを考えてももう出来ると思うわ。でも、最初に言った通り、私は直接答えは言わないわ。今からのバトルの中で、自分で見つける事。いい?」
「わかった」
マサミの言葉に頷くと、俺はフィールドへ視線を移す。
真っ白な盤上には、すでにギンガとミルケイが立っている。
『Battle start!』
システム音声に促され、俺はアクションを3つ、ゲージに放り込む。
選択したのは『近づく』『飛び上がる』『刺突』だ。
(新しく手に入った『飛び上がる』を組み合わせたバスタードソードの威力、どこまで上がったか楽しみだぜ)
にやり、と思わず緩んだ口元をタブレットで隠しつつ、マサミの方を見やる。
マサミは、淡々とした様子で指を動かしていた。
圧倒的実力に裏打ちされた、思案する様子すら見せないその姿は、すごいの一言に尽きる。
(どんなワザを見せてくれるんだ……?)
『Time up!』
システム音声の宣言に、俺は視線をタブレットから盤上へ移す。
『1st round. Action start!』
最初の5秒。
ギンガはバスタードソードの届く間合いを目指して一直線にミルケイへと走る。
ミルケイは、自慢のハルバードを下向きに構えている。実際に長柄武器を使って分かった事だが、あれは『構える』という立派な1つのアクションで、移動をしない代わりに攻撃力を上げる効果がある。
(真正面からの切り合いか……なら、俺の両手持ちしたバスタードソードの方が威力で勝つ!)
次の5秒。
「いけぇ!ギンガ!」
高々と飛び上がったギンガに、気づいたら声援を送っていた。
宙を舞うギンガが両手で握るバスタードソードは、落下する速度も合わさってすさまじい威力を秘めている。鎧装備のミルケイといえど、ただではすまないはずだ。
一方のミルケイは、『構える』の体制のまま動かない。
(例え『構える』2つ分でも、ギンガの攻撃力の方が高い。この勝負、もらった!)
大ダメージを確信した俺の耳に、鋭い声が届いた。
「――ここからが肝心よ。良く見ておきなさい」
え、と顔をあげた瞬間に見えたのは、笑顔を浮かべるマサミの姿だった。
「なんで――」
質問しかけた俺の視界に、高く飛んだテオスの影が入った。
ギンガ?
違う、ミルケイだ。
「そんな……なんで……っ!?」
2つ目のアクションが始まった時、ミルケイは動かなかった。つまり、「構える」を選択していたという事だ。
5秒毎に行動が切り替わるこのゲームにおいて、[途中で動く]という事象はあり得ない。
しかし、そのあり得ない事が現実として起こっている。
「ミルケイ、やっておしまい」
呆然とする俺の目の前で、ギンガの突きだしたバスタードソードの切っ先と、ミルケイのすくい上げるような軌道で振るわれたハルバードが激突した。
そして――
ミルケイはフィールドに綺麗に着地し、一方のギンガは受け身もとれずに落下した。
『Winner Milky way!』
システム音声が響くと、ギンガはフィールドに身体を横たえたまま消えていった。
「ふぅ……びっくりした。まさか、ミルケイの一撃と合わせられるなんて思わなかったわ……。さて、今のバトル、どういう事でしょう?」
勝敗をひっくり返された衝撃から立ち直った俺は、ミルケイの行動を頭の中でリピートする。
「途中で、動いた……」
口に出しても、まだ信じられない。
「そう。ミルケイはアクションの途中で別のアクションをしたわ」
「アクションの途中で切り替えた……じゃないよな……それだったら俺が顔をあげた時にタブレットをさわってるはずだ」
「惜しい所を突いてるわね。ヒント、今のアクションは、すべて1ゲージアクションを組み合わせた物よ。最後の突きもね。もうひとつ、この技は、2ゲージや3ゲージアクションでは出来ない技よ」
「1ゲージアクション……」
一番最初から使える基本的なアクションだ。これを3つ組み合わせる事がバトルの基礎になっている。
「組み合わせる……組み合わせる、か……」
組み合わせる――その言葉が、何となく頭にひっかかった。
何か突破口が見つかりそうだ。
口の中でぶつぶつとつぶやく。
「組み合わせる……組む……組み上げる・・・」
正解に近づいている気がする。
「崩す……組み替える……あ!」
そうか、と思わず叫び声を上げる。
「1ゲージアクションは、次のアクションが始まる前に他のアクションと入れ替える事ができるんだ!!」
「その通り。ちなみに、上書きする前のアクションがシステムに一部残ってしまうから、途中で動いているようになっているの。次のアクションと時間のズレなんかは無いわ」
マサミは補足の説明をしながら拍手をくれた。
「あれだけのヒントでよくたどり着けたわね、偉いえらい。それじゃ、やってみましょうか」
「よし!」
「ここからは、こっちは3ゲージアクションしかしないわ。3ゲージの特性を見極めて、上手く対処してね」
「それ、『コネクト・ザンバー』にも有効なのか?」
「ええ。3ゲージアクションは、高い命中率と攻撃力を持っている一方で、熟練者から見れば明らかな欠点があるの」
「何だって!?」
マサミの言葉に、俺が耳を疑った。
「あんなに強い3ゲージアクションに、欠点なんてあるのかよ……」
「あるわ、それも致命的なね。そして、アクションの組み替え――《チェンジ・アクト》を覚えた今の貴方なら、その欠点は簡単に突くことができるわ。当然、会得するには――」
静かに言葉をきるマサミ。
代わりに、フィールドに体育座りをしていたミルケイが立ち上がり、ハルバードを構えた。
「戦って、身体で覚えろって事だな」
俺は、ギンガを再びフィールドに出す。
「分かってきたじゃない。じゃ、行くわよ」
マサミの笑みに続いて、ミルケイがフィールドに現れた。
『Battle start』
時間を刻み始めるシステム音声に、俺は頭を回転させ始めた――。
――それから、どれほど戦ったのか。
覚えているのは、太陽の光で窓のむこうが明るくなり始めた頃、力尽きた俺は床に仰向けになった事だけだった。
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