終章 鍵の秘密

「あれ……ここはどこ?」


私は扉に吸いこまれた後、どこかの街に来てしまったようだ。

見たこともないような建物が立ち並び、道を行く人の波もどこかせわしない。


……私は元の世界に戻れたのだろうか。


「これからどうしようか……」

「麻希さん? どうして金色の扉から出て来たの? あれはまさか?」


頭を抱える私の背後から聞こえて来た声。

振り返ると、真白ちゃんの兄である瞬くんが心配そうな顔つきをして立っていた。

まさか今まであなたの妹になっていましたとは言えないよね。


「知らない。枕元に置いてあった鍵を拾って壁に突き出したら、金の扉が出て来て……」

「吸いこまれてここに来た?」

「そう。どうして瞬くんが金の扉のことを知っているの?」


誰があの鍵を私の部屋の枕元に置いたのかの謎が解けていないが、まさか瞬くんか?

でも彼には、私の家に来る理由なんかないわけで。


「僕も昔、あの鍵を使ったんだ。その時は自分の意識が変わらないと戻れなかった」

「自分の意識を変える? どういうこと?」


瞬くんはサッカー部のエースだし、自分の意思をしっかりと伝えられる男子だ。

だから、私と同じ鍵を使ったのは意外だった。


それにしても、意識っていうのは考え方とか物事の捉え方とかそういう意味だっけ。

だったら意識を変えるって相当難しいんじゃ……。

不安な気持ちが顔まで出ていたのか、瞬くんは私に優しく微笑む。


「大丈夫だよ。麻希さんなら意識を変えられる。普段と違うことをしてみればいいんだから」

「いつもと違うことをするだけでいいの?」


思わず聞き返してしまったが、普段と違うことをして成功できたら自信に繋がるのでは?

そう考えると、意外と理にかなっているのかも。


「それじゃ学校に行ってみようか。麻希さんの場合は恐らく学校関係だろうしね」

「あまり関わりのない瞬くんでも分かるの?」


学校では瞬くんと話したこともないはずなのに、どうしてここで話しているのだろうか。

私の中に疑問がこみ上げてくる。


「いつも笑顔がぎこちないんだよね。自分の意見をちゃんと言えてないんじゃない?」

「それは……舞たちに嫌われたくないし……」


まさか、笑顔を見られたたけでバレてしまうなんて。

ガックリと肩を落としていると、最悪の事態に思い当たり、全身から血の気が引いていく。


遠くから見ていただけの瞬くんにバレているってことは、舞たちにもバレている!?


「とりあえず学校に行ってみようか」

「そうだね。自分の気持ちを素直に伝えてみることにするよ」

「頑張って!」

「ダメだったら慰めてよ。私はすっごく怖いんだからね」


舞たちの本音は何なのだろう。

私が変わることで、舞たちの本音も知れたらいいな。


改めて決意を確認した私は、瞬くんという味方を引き連れて学校へ向かうのだった。

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