第三章 扉の向こう側・後編

次に目が覚めたとき、私は再び修羅場目前の真白ちゃんになっていた。

慣れない白色のセーラー服が目に入る。


「放課後にカラオケに行こうかって話をしてたの。真白は行く?」

「うーん……。ちょっと予定を確認させて」


さっきは承諾した瞬間に意識を失って、今は二回目の修羅場を迎えていた。

つまり、質問の答えによっては再びループする可能性があるということだろう。


――そう考えると憂鬱な気分になるな。


承諾した瞬間に戻されたということは、恐らくは拒否しなければいけないということだ。


“完璧に修羅場確定”


頭に不吉な八文字がチラつくが、スマホのカレンダーを確認するふりをして対策を考える。

どうすれば修羅場にならない断り方が出来るんだ!?

バシッと自分の意見を突きつけられればいいのだろうが、私はそうではないわけで。


「どうだった? 行ける?」

「予定はないけど……お母さんから早く帰ってこいって言われてるの。ゴメンね」


必殺、親の威光作戦!

断る理由が自分ではなく親にあると見せかけることで修羅場を回避する策である。

これから行きたくない気持ちを隠せるだろう。


「そうなんだ。それじゃ真白ちゃんはパスっていうことで」

「本当にゴメンね。何か楽しい気分に水を差しちゃったみたいで」


予想通りの展開に内心でガッツポーズを繰り出したものの、再び眠気が襲ってきた。


これでもダメなら、修羅場にしちゃうとか?

私が一番苦手とする展開になっていると感じ、思わず大きなため息をつくのだった。



あれから五回のループをする上で分かったことがある。

これ……修羅場にしないと無理だ。


どれだけ安全策を取っても、修羅場ギリギリの策を取っても最後にはループが訪れた。

こうなったら覚悟を決めて修羅場に突入するしかないな。


「放課後にカラオケに行こうかって話をしてたの。真白は行く?」

「ゴメン。私は行きたくないの」


彼女たちは私たちの友達ではないが、初めて学校の人と対立したかもしれない。


私はいつでも友達や先生の操り人形として動いてきたから。

絶対にみんなの言うことには逆らわず、無条件で賛成の意しか示さなかった。

だからどこか興味深い。


彼女たちがどんな態度を取るのかというのは、これからの行動で意外と役に立ちそうだし。

もし私が思うような修羅場になるのなら、今のまま生きていけばいいだろう。

でも……私が想像している結末とは違ったら?


「どうして? 今まで楽しそうに付き合ってくれたじゃない。何で今さら」

「少ししか歌も知らないし、私は歌うのがあまり好きじゃないの。本当にゴメン!」


こうなったら、洗いざらいぶちまけてしまえ。

私もいつかは舞たちに、本当の気持ちを言える日が来るのだろうか。


「そうなんだ。こちらこそ無理に付き合わせてゴメンね。それじゃ別のところにしようか」

「えっ……怒らないの?」


思わず、目の前に立っているツインテールの少女に尋ねてしまった。

まったくと言っていいほど修羅場になってないし。


「真白がどこか距離を置いていたのは感じていたからね。むしろ本音が聞けて嬉しいよ」

「嘘……どうしてもっと早く本当の気持ちを言わなかったんだろう」


出てきた声は本当の真白ちゃんのもの。

私は頭上から近づいてくる金の扉に吸いこまれて、どこかに行くんだろう。


それにしても“本音が聞けて良かった”か。

もしかして舞たちもそう思いながら過ごしているのかな?


ありもしない首を傾げたところで、意識が今までとは違う温かい感じで途切れた。

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