第二章 扉の向こう側・前編
目が覚めると、知らない天井が広がっている。
もう少し寝たいという自分の意志とは関係なく起き出す体に違和感を覚える。
私――どうしちゃったんだろう。
ボーっとしたまま鏡を覗いた私は、眠気など吹き飛んでしまうくらいに驚いた。
(この顔……誰よ!?)
明らかに自分のものではないと分かる、アイドルみたいに整った顔。
どれだけ叫ぼうと、彼女の口から私の声は出てこない。
今まで手に入れた情報から考えるに、私は鏡の中の少女の意識の一部になったのか。
最も、私の意志は少女の動きに影響を及ぼさないが。
「……絶対に扉のせいだよね」
金の扉を出現させてしまったせいで、私が謎の少女になってしまったのだ。
(どうしたら元の体に戻れるのよ!)
答えのない問いを何度も繰り返していると、彼女の兄と思われる人物の声が響く。
「真白、もう朝ご飯が出来てるってよ!」
「分かってる。もうすぐ準備が終わるから、シュン兄は先に食べてて」
うーん……何だか聞き覚えのある名前だ。
しばらく記憶を探っていると、クラスメイトでサッカー部のエースである大間 瞬がヒット。
この体(真白)は瞬くんの妹ってところか。
確か、彼女は高校二年の瞬くんよりも二歳年下だったから中学三年だ。
(今年は受験勉強で大変だろうな)
ちょっぴり真白ちゃんに同情したところで、彼女は朝食を済ませて学校に向かう。
途中で友達らしき少女に会った。
「真白ちゃん、おはよう」
「おはよう、華ちゃん。今日の四時間目にある数学のテストって難しいのかな?」
「ゲッ……学校に着いてからならまだしも、通学路から嫌なことを思い出させないでよ」
華と呼ばれた少女が露骨に眉をひそめる。
その後も他愛もない会話をしながら午前中を過ごし、特に何もなく昼休みに突入。
私と同じく、真白ちゃんも友達三人と机を寄せてお弁当を広げていく。
その時、彼女の向かいにいたツインテールの少女がみんなを眺めながらシャウトした。
「今日の放課後、カラオケに行きましょう!」
「「おー!」」
真白ちゃん以外の二人が同意するように拳を突き上げるが、彼女は微動だにしない。
あっと……これは修羅場の予感がするぞ。
「真白ちゃんは行きたくないの? いつもなら喜んで付き合ってくれるのに……」
「華ちゃん、真白ちゃんを保健室に連れて行ってあげれば?」
ボーとしている彼女を不審に思ったのか、ツインテールの少女が呟く。
ただ、連れていく先が保健室?
「何で保健室に連れて行くんだろう……。体調が悪そうに思えるのかな?」
「真白ちゃん、本当にどうしちゃったの?」
「ボーッとしていれば、そりゃ……しん……ぱ……い……される……」
自分が思っていることが口に出てる!?
「真白ちゃん、保健室に行こ?」
「えっ!? ゴメン、ちょっと考え事をしていたの。それで何だっけ!?」
緊急事態は強引に乗り切る作戦で行くぞっ!
どうして真白ちゃんの体がいきなり私の意識で動かせるようになったんだろう。
しかも、こんな修羅場目前の局面で。
「放課後にカラオケに行こうかって話をしてたの。真白は行く?」
「もちろん!」
私は今までと同じように、本心を隠して満面の愛想笑いを浮かべる。
すると急に眠気が襲ってきて、私の意識はプツンと途切れた。
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