第一章 不思議な扉
四時間目の授業が終わり、昼休みの時間が訪れた。
私は、いつものように友達三人と席をくっつけてからお弁当を机の上に広げる。
「今日の放課後、みんなでどこか行かない?」
まさに食べ始めようとしていたそのとき、私たち三人を眺めながら言ってきたのは舞だ。
これは……ちょっとマズイ流れかもしれない。
「私はカラオケがいいな。舞の上手な歌が聞きたい!」
「アイドルを目指してるだけあって、歌も振り付けも完璧だもんね」
私以外の二人――玲奈と美樹が承諾してしまえば、私に覆せるはずもなかった。
たとえ、彼女たちの決断に不満があったとしても。
「麻希は? カラオケがいい? それとも別のところがいい?」
「私も舞の歌が聞きたいからカラオケがいい!」
「三人とも私の歌が聞きたいの? 何だか夢が叶ったみたいで嬉しいわね」
明るく振舞ってはいるものの、カラオケは私にとって苦痛でしかない。
歌える曲のレパートリーも非常に少ないし、舞や玲奈と違って私は歌が下手なのだ。
でも、三人から見放されたくなかった。
いつも彼女たちと一緒にいれば、班決めの時とかに余ってしまう心配も無いのだから。
だから……今日も自分の心を押し殺して、みんなに合わせて笑う。
自分の意見を言ったところで誰も分かってくれない。
私はみんなに嫌われたくないの。
表面上は晴れ晴れとするような笑顔を振りまいていても、心の中はいつも曇り空だった。
カラオケから帰ってきた私は、自室のベッドに転がる。
「はあ……疲れた」
みんなといる時はずっと愛想笑いをしているから、頬の表情筋が死んでしまいそう。
ゆえに家では無表情の時が多かった。
「あれ……これ、何だろう」
しばらくベッドの上で転がっていると、枕元に妙な鍵が置いてあるのに気づく。
鍵は金色で、まだ新しそうに思えた。
おもむろに鍵を手に取った私は壁に向かってそれを突き出す。
何でかは分からないけど、なぜかそうすれば新しい道に進めそうだと思ったのだ。
「うわっ!?」
すると鍵を突き出した壁の一部が光りだし、やがて一枚の扉の形になる。
まるでファンタジーのような展開に頭が追い付かない。
鍵のように金色をした扉に手をかけると、まるで空中に浮かんでいるように体が軽くなる。
いや……本当に浮いている!?
悲鳴を上げる間もなく、私は黄金の扉の中に吸いこまれていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます