第6話「キャラ付け」

 ……ああ、どうしよう。緊張の面持ちで店の入り口を見つける。

 今日も元気に女装でバイト(したくないけど)していた午後十時。そろそろ一度店内を掃除しようと外にある掃除用具を取りに行ったところ、怪しげな人影を見つけた。

 それは……、

「ちょ、広永さん! なんで不良達が店の前でたむろっているんですか! おかげでお客さんが来ないじゃないですか!」

 初めて見た世にいう「ヤンキー」の恐怖に泣きながら広永さんに訴える。

「知るわけがないでしょ! 私はただのバイトよ!」

「今までこんなことなかったんですか!」

「初めてよ! ……よし、千屋ちゃん。いや、千屋君。ここは男として一つ、あいつらにびしっと言ってきなさい!」

 嫌です! というかこんな時だけ男扱いするな! 

と、その時奥からすっと男の人が出てきた。この人は正社員さんだ。僕と広永さんと同じシフトに入っている(店長曰く、『広永さんのお目付け役』らしい)人だ。

「ここは僕が行きます」

 そういって勇ましくヤンキー達に向かっていく正社員さん。どうしよう! めちゃかっこいい! 好きになりそうです!


「ぐっ、すいません……無理でした……」

 正社員さん。十秒もせずにK.O。そりゃ出てすぐに結構なメンチきられていたしねぇ。

「ちっ、役立たずが」

 そしてアルバイトの広永さんになじられる。哀れ過ぎるよ、正社員さん。

「よし、こうなったら――」

 意気込むように拳を振り上げる広永さん。おお、まさかヤンキー達にガツンと!

「行ってこい千屋君!」

「やっぱりかぁー!」

 畜生! 拳はフェイントか! 本命は蹴りか! 

 成す術もなくヤンキー達の前に蹴り出される。おお、ヤンキー達が睨んでいるよ。

「あ、あの……」

「なんすか(ギロッ)」

 う、うぅ。そ、そうだ、ここはかわいい子ぶってお願いを聞いてもらえるようにしよう!

「お、お願い、お兄ちゃん。他のお店に、い、行ってほしい……な(うるうる)」

 必殺! シスコンおねだり! 

「……」

「……」

「…………。ああ! 兄ちゃんに任せな! 可愛いお前のためだ! どこにでも行く!」

「ありがとうお兄ちゃん!(もう一生来ないでね、お兄ちゃん!)」

 この日以来、僕は本格的にアルバイト中の女装が義務化された。もう嫌だ、このバイト。

「ところでなんで妹キャラになりきったの?」

「…………妹がいるから」

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